作品タイトル不明
ライジングフォールズの強さとは
ヒカルは東方四星とともにポーンソニア王国内に入ると、彼女たちとラヴィア、ポーラ、ケイティ先生がポーンドへ向かうのとは別行動をした。
レザーエルカへ直行したのである。
今回の戦争でポーンドを巻き添えにしないためには、単純にアインビスト軍が退却すればいい。それには、軍の内情を知る必要がある。内情を知るに当たってはヒカルの能力はうってつけだ。
ヒカルがレザーエルカに到着した日に、運良く会議が行われていた。オーストリン、極虎、ライジングフォールズの面々を知ったのはこのときだ。
陽射しのある会議室内に侵入するにはさすがに「隠密」でもまずそう——と 直感(・・) したので、ベランダから耳を澄ませて会議のあらましを耳にした。
「今回の戦争でカギになるのはライジングフォールズだな」
それがヒカルの結論であり、彼らの情報を得るべきだと考えた。
そしてイグルーが深酒している傍ら、妙な動きをしていたライバーを見張るべく彼の部屋へと侵入したのだ。光の乏しい室内であればヒカルの「隠密」でバレることはあり得ない。
「よし……」
ぐっ、と伸びをするとヒカルはまずテーブルへと向かった。先ほどライバーの書いていた文書について確認しようと思ったのだ。植物紙を使った書き物ではインクが裏写りすることがあるので下敷きを使うものなのだが、魔導具だからだろうか、まったく痕跡がない。
「書かれた宛先は『教皇聖下』だったよな……」
それだけは離れていても見えた。
ヒカルの知っている範囲ではこの大陸で「教皇」と呼ばれる人間は、ビオス宗主国の国王である。あの国は宗教国家なので、トップが「教皇」を名乗る。この世界の宗教はほぼ一種類しかなく、ビオス宗主国はその総本山だ。
「なぜビオスの人間が、アインビストの冒険者パーティーに入っている?『忠実なるしもべ』とか言ってたぞ……」
なんだか裏がありそうだ。イグルーが言っていた「ひとりは借り物」とはライバーのことかもしれない。
ライバーの荷物が入ったバッグが置かれてある。ちょっとした着替えや金銭以外、不審なものはない。ヒカルの「魔力探知」で魔導具を探すが、ライバーの指輪だけが反応していた。
指輪を外すには彼に触れることになる。起こしてしまうだろう。
「お……ギルドカードだ」
【冒険者ギルドカード】
【名】ライバー
【記録】ビオス宗主国教都冒険者ギルド
【ランク】A
【職業】---
【パーティー】ライジングフォールズ(A)
めぼしい情報はない。「職業」欄が空欄だったのは残念だ。
彼の武器は別のテーブルにどんと置かれてある。かなり大作りな金属製の弓で、これを引くには相当な力が必要だろう。しかし魔力的な反応はない。
ヒカルはライバーのソウルボードを確認する。
【ソウルボード】ライバー
年齢28 位階49
16
【生命力】
【自然回復力】2
【スタミナ】5
【免疫】
【魔法耐性】1
【疾病免疫】1
【毒素免疫】1
【知覚鋭敏】
【視覚】1
【聴覚】2
【筋力】
【筋力量】8
【武装習熟】
【弓】5
【敏捷性】
【瞬発力】1
【柔軟性】1
【バランス】2
【器用さ】
【器用さ】3
【精神力】
【信仰】
【聖】4
【直感】
【直感】6
【知性】
【言語理解】1
【記憶力】1
【探知】
【生命探知】3
【探知拡張】1
予想していたが、遠距離からびしばし弓を放つタイプのようだ。
「直感」6、「生命探知」3と「探知拡張」1が厄介だ。これで100メートル半径を探ることができる。
「索敵もできるガチの攻撃タイプだ。「弓」5ならランクAでもおかしくない……」
ヒカルは会議のことを思い返す。
「でも『城壁を壊す』ほどじゃない」
つまり他のメンバーを想定してイグルーは「城壁を壊す」と言ったのだ。
眠るライバーを置いて、ヒカルはそっと部屋を出る。先ほどイグルーが酒を飲んでいた客室に出る。酒のニオイが充満している。隣室に入る——バトロスのいびきが聞こえてくる。
すでにバトロスは高いびきをかいている。巨大なベッドだがバトロスの巨体が寝そべっていると小さく見える。
バトロスの私物は巨大なバッグに2つほどあったが、やたら悪臭を放っている。どうも洗っていない着替えが入っているようだ。
「……『魔力探知』に反応なし」
装備品を確認するが、若干の魔力的な反応があるバトルアクスがあったが、それだけだ。バトロスに近づいてソウルボードを確認する。
【ソウルボード】バトロス
年齢25 位階37
21
【生命力】
【自然回復力】3
【スタミナ】15
【免疫】
【魔法耐性】3
【毒素免疫】1
【筋力】
【筋力量】16
うーん……とヒカルは唸ってしまった。
「こいつ……戦闘はド素人なんじゃないか?『武装習熟』がまったくない。筋肉で大盾を持って守りに徹してるだけ……」
そもそもバトルアクスは「斧」だ。ソウルボードにも、この世界で知られる「武神九道」にも当てはまらない。「道具習熟」には「斧」項目があるが、バトロスはそちらも持っていない。
力で防いで力でねじ伏せるタイプだ。
そしてもちろん、このバトロスが「城壁を壊す」担当ではないだろう。むしろ攻撃者を守る 防壁(タンク) である。
「となると……残りはフルブラッド兄妹か」
ヒカルはバトロスの部屋を出る。次に入ったのはイグルーの部屋だ。
「うげ……」
客室が酒臭いと思ったが、こちらはそれ以上だ。何十本という酒瓶がテーブルに、床に転がっている。全部が全部飲みきったわけではなく、むしろ適当に飲み散らかしている感じだ。
イグルー含む、アインビスト軍がレザーエルカに到着してから数日しか経っていないはずだが、ここまで散らかせるのはある意味才能だ。
酒だけでなく 高価(たか) そうな服も大量に散らばっている。布団なのか服なのかわからないところに埋もれてイグルーは眠っている。
「これが装備か……」
白銀の鎧には黄金のレリーフが彫り込まれており、胸の中央には青色の宝石が埋め込まれている。これだけで何百万ギランとするだろう。無造作に転がされている剣の意匠も見事だ。
だが——魔力的な反応は、ない。
「…………」
ヒカルは深い眠りに落ちているイグルーを見た。酔っ払って顔は赤い。ヨダレを垂らし、腹立たしいことには股間が盛り上がっている。どんな夢を見ているのか。
「……ま、別にこいつに恨みがあるわけじゃないけど、ちょっとした知り合いを勝手に『抱く』だの言われて気にくわなかっただけだ」
先ほどイグルーが酒を飲みながら言っていたことだ。
「で、お前はどれだけ強いんだ?」
【ソウルボード】イグルー=フルブラッド
年齢21 位階27
33
【魔力】
【魔力量】1
【精霊適性】
【風】1
【筋力】
【武装習熟】
【剣】1
【精神力】
【カリスマ性】1
【魅力】1
【直感】
【直感】2
【ひらめき】
【発明】1
「……………………弱ッ!!」
言ってしまって、思わず口を塞いだ。むにゃむにゃと口を動かしたイグルーだったが、幸い目を覚ます気配はない。
「ふう……危なかった……。……でも弱すぎだろ。これ」
ポイントが33も余ってる。「カリスマ性」「魅力」に1ずつあるのが苛立たしい。
「こんなヤツなのに『魂の位階』は27もあって、冒険者ランクはA……ということは」
ヒカルはイグルーの部屋を出た。
残りの部屋は1つだけ。
そう、実を言えば「魔力探知」を走らせた時点でわかっているのだ。ライジングフォールズの強さ——破壊力の秘訣はどこにあるのか。
キャディ=フルブラッド。
彼女の眠る部屋の前に立つ。ふつうに見ているだけではなにも見えないが——「魔力探知」をオンにするとまったく違ったものが見える。
あふれ出す魔力——。
彼女が「城壁を壊す」力を持っているに違いない。そう、確信できるほどに異常な魔力があふれ出ていた。
他のメンバーを先に確認したのは、隠し持ったなにかがないかを確認するためだ。幸い、なにもなかった。
「さて、と——なにを持ってるのか確認させてもらうか」
ヒカルは、キャディの部屋へと続く扉を開いた。