軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

集団掃討向きの能力

ボーダーザードの土壁の上に集まった冒険者たちは、迫り来るモンスターへと一斉に矢を射かけ、魔法を撃ち込んだ。

「第2射、急げ!」

「ちっきしょー! 全然減ってねぇぞあいつら!」

「やるしかねぇんだ、ぐだぐだ言うな!」

降り注ぐ矢を、闇夜狼はすり抜けるようにかわす。

飛来する火の玉を、フォレストバーバリアンは腕を振るってかき消す。

確かに効いている感じはしない。だが冒険者たちの取り得る手段はそれしかない。

「いいか! 持ちこたえろ! 明日の夜明けまでが勝負だ!」

太陽がゆっくり沈もうとしている。

この夕焼けの中、ボーダーザードの住民は避難を始めていた。冒険者ギルドに託された使命は、住民の避難の時間を稼ぐこと。

住民の中には自らの住居に、財産に執着して避難を断る者も多かった。実のところ避難を承諾した住民は全体の半分、2,000人ほどだった。

そんな人数だとしても一晩で全員出て行くというのは大仕事である。今、森林に面していない側の門は避難民でごった返していた。

「登ってきた!」

ついにグリーンウルフの最初の一匹が空堀を乗り越え、柵をすり抜け、土壁に前足をかけた。

「こ、ここ、こっちも——ああっ!?」

柵が吹っ飛ぶ。

フォレストバーバリアンの仕業だ。

「もう、ダメだ——」

接近される前に遠距離攻撃で数を減らす。

その上で出陣して一掃する——それが事前に描いていたシナリオ。

しかしそれができる相手ならば、最初からボーダーザードにまで撤退していない。大森林内で討伐が終わっていただろう。

すべてを甘く見積もっていた、とも言い切れない。

その程度の作戦しか立てられないほどに、戦力が足りなかった。時間も、準備も足りなかった。いまだかつてモンスターが雲霞のごとく大森林から湧き出てきたことなどなかったのだから。

「に、逃げ——」

前線が崩壊しかけた、そのときだった。

「『我が呼び声に応えよ精霊。我が欲せしは万物を、生き物を、理すらも焼き尽くす業火』」

いつの間にか——そう、まったく誰も気づかなかった。

その魔法使いが土壁の上に立っていたことに。

ローブのフードを目深にかぶった少女が詠唱していたことに。

「『踊れ精霊』」

モンスターたちの動きが一瞬止まる。

膨れ上がった魔力に、戸惑ったのだ。

「『我が魔力を糧に歌え精霊』」

上空に現れたのは信じがたいほどに巨大な魔法陣。

そこから現れたのは——夕焼けよりも明るい、紅蓮の業火。

「『無垢なる天地を取り戻すため、焼き尽くせ』」

これほどの魔力を使用すればふつうの魔法使いならば倒れる。魔法の発動を完了することすらできないだろう。

だけれど平然と詠唱を続ける彼女の声は朗々と、戦場に響き渡った。

「『 業火の恩恵(フレイムゴスペル) 』」

ガラスの割れるような音とともに魔法陣が砕け散る。

離れた上空をぽかんと眺めている冒険者たちの頬すらひりひりと熱いほどに、その火の玉は熱量を持っている。

巨人の集団——フォレストバーバリアンが10体ほど群れているど真ん中に、巨大な火球が落ちていく。

着弾の瞬間、大地が震え、熱風が吹き荒れた。

「うああああっ!?」

「ふ、吹っ飛ばされっ……!!」

「なん、なんなんだよこれは!?」

炎は渦を巻いて周囲に飛び散り、モンスターを焼いていく。

人型も、獣型も、植物型も関係なく、等しく焼いていく。

その火が止んだとき——モンスターたちの目に、わずかに恐れがにじんだ。

「い、い、今です! 今攻撃するのです!」

最初に我に返ったのは、前線へやってきていたボーダーザードのギルドマスターだった。

「敵が怯んだ今、攻撃をするのです! 魔法使いのそばにいる者は守りなさい! これだけの魔法を撃った後は無防備に——」

みんなギルドマスターの声に従って動こうとした。

だが、彼らはみな、ぴたりとその動きを止めることになる——驚愕、いや、恐怖とともに。

「『我が呼び声に応えよ精霊。我が欲せしは万物を、生き物を、理すらも焼き尽くす業火』——」

2発目の詠唱が、始まっていた。

その魔法使いの頭上には巨大な魔法陣が浮かび上がっている。

「ま、まだ……撃てる、と、いうのですか……?」

ギルドマスターの問いに答えたのは、ひとりの冒険者だった。

「何発でもいいじゃない! 撃てるみたいなんだから、撃ってもらうのよ! それより近接はさっさと動く! 壁まで寄ってきてるモンスターを追い払うの!」

つややかで豊かな黒髪を、ツインテールで縛った少女だった。

彼女を見てすぐに誰かわかったのはポーンソニアで活動する冒険者たちだ。

「『東方四星』だ!! ランクBの『東方四星』が来てる!! これで勝てるぞォ!!」

ランクBという単語に、冒険者たちの表情が明るくなる。

だが黒髪の少女——セリカ=タノウエは、むう、と鼻の頭にしわを寄せた。

「さっさと動きなさい! 1匹でも街の中に入れたら負けなのよ!」

彼女の言葉に「おおッ」と冒険者たちも応じて動き始める。

そのころには2発目の「フレイムゴスペル」が完成して、モンスターが密集している後方に撃ち込まれているところだった。

(——何者なの、あの子! あれほどの威力の魔法、あたしにも撃てない!)

セリカが視線を向ける。

フードをかぶっているせいで顔はわからない。そして不思議なことに、魔法を撃っていないときは気を抜くと彼女を見失ってしまいそうなのだ。ずっとそこに立っているというのに。

(認識阻害のマジックアイテムね!)

そう、推測できたがそれだけだ。

あとで話しかけよう、絶対——心にそう決めたセリカは、自らも魔法を放つためにモンスターの手薄な場所を探す。

パーティーリーダーのソリューズ=ランデはすでに土壁から飛び降りてモンスターの群れに突っ込んでいる。

ソリューズをサポートしているのはサーラだ。土壁の上からソリューズの死角にいるモンスターを弓で撃ち抜いている。相変わらずのほれぼれする腕前。

「東方四星」最後のひとり、シュフィ=ブルームフィールドは治療のために街中に残っている。

「あたしだって負けてはいられないのよ!」

ボーダーザード防衛戦は、キープレーヤーの登場によって一気に様相が変わっていく。

* *

同じころ——フォレスティア連合国内、ジャラザック領。

かつての首都に当たる街、その中でも最も大きな館——過去には城であった場所にいたのは、クロード=ザハード=キリハル、それにリュカ=ロードグラード=ルダンシャ。

彼らを連れてきたミハイルとイヴァンがその左右についている。

4人の前には巨大な扉があり、今ゆっくりと開かれる。

「——スカラーザードよりお客様がいらっしゃいました」

使用人が言うと、かつて謁見の間であった部屋をクロードは一望する。

ふかふかの絨毯が敷き詰められ、巨大ではあるが質素なイスが中央にある。

その向かいには4脚のイスが置かれてあるが、クロードたちはここに座れということだろう。

すでに巨大なイスにはこの館の主が座っていた。

「おお、ミハイル! 久しいな! それにイヴァンも——大きくなったものだ!」

「アレクセイ様。学生の指導に忙しく、なかなかこちらに参ることができませんで、申し訳ありません」

「もう子どもではないんだから、今さら大きくなりませんよ、ボス」

ボス、と呼ばれるほうがうれしいのか、アレクセイはいかつい顔をにこにこしている。

そう——アレクセイの人相は、それはもう凶悪だった。

(おいおい……なにがミハイル教官とトントンだよ)

クロードは心の中で「話が違う」と言いたくなった。

立ち上がり、ミハイルとイヴァンを抱擁するアレクセイの身長は2メートルを優に超えている。

その胸板の厚さたるや、さすが「武のジャラザック」と言うべきか。

なによりすごいのが顔だ。

(子どもでもさらって常食してそうなほどの悪人顔じゃないか)

その悪人の顔が、クロードへと向けられる。

「なるほど、その者がイヴァンの言っていた……」

「そうです、ボス」

こうなるとイヴァンも、「ギャング・アレクセイ」の下っ端に見えてくる。

クロードはごくりとつばを呑んでから、

(……それでも、俺はやる)

横に立つ婚約者を見る。

リュカもまた彼を見ていた。

「クロード=ザハード=キリハルです。ジャラザック最強というあなたに、お願いしたいことがあってまかり越しました」

勇気を振り絞って歩いていく。

その距離1メートルというところまで近寄って——見上げるようにアレクセイの顔を見据える。

「俺様にお願いできるほどの人間かどうか、試させてもらうぜ?」

「もちろんです」

横からミハイルがアレクセイに言う。

「クロードは強いです。今の彼なら、俺が戦っても10本に1本、取れるかどうか」

「それほどか!」

するとますますうれしそうな顔をする。

「ミハイルがいなくなってから、俺はさらに修行を積んだ。結果、ジャラザックではもう誰も俺の相手にならなくなってしまったのだ! ミハイル、今ならお前を相手に後れを取ることはまずないだろう!」

「……ええ、身に纏う空気がまるで違いますね。クロード、気を引き締めてかかれ。アレクセイ様は、もう俺の知っているアレクセイ様ではない」

ごくり、とクロードはもう一度つばを呑んだ。

(やっぱり話が違うじゃないか!)

と心の中で叫びながら。