軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

説得ゲーム:クロードvsアレクセイ(ジャラザック票)

ふたりが立ち会ったのは館にある室内闘技場だ。

50人が立ち回りの訓練をしてもなんとかなるだろうというサイズの闘技場には——壁際にぎっちりと立ち見の観客があった。

(どこから湧いて出た!?)

闘技場の中央にいるクロードは、100人は優に超えるギャラリーを見て目を剥いていた。

謁見室でアレクセイと話をしたのがつい30分ほど前。

それからこの闘技場に移動してきただけだ。

その間に、ひとり、またひとりと人間が増えていき、気がつけば集団がこの闘技場へ入り込んでいたのだ。

「いやーははは。ボスに挑むってんだからどんなヤツかと思ったら、ひょろっとしてんなあ」

「ああ見えて魔法の達人かもしれねえぜ」

「いやねぇ、魔法の立ち会いだったらつまんないわ」

「ボスなんて、今日の立ち会いをやたら楽しみにしていたからな」

雑談から察するに、どうもアレクセイが今日、クロードと模擬戦を行うことを吹聴していたようだ。

「もう誰も、ボスと立ち会いたくねえって言うからなあ」

模擬戦くらいやってやれよ! と内心叫ぶクロードには、不安がひしひしと押し寄せる。

——模擬戦を誰もやらないほどに強いのか?

——想像もできないようなえげつない攻撃方法を持っているのか?

——俺の剣は、届くのか?

ぶるっ、と小さく震えた彼の手を、そっとリュカが握った。

「リュカ……」

「あなたなら勝てる」

その言葉が、今はいちばんうれしい。

ギャラリーがざわついた。アレクセイが入ってきたのだ。

動きやすい服に着替えているがプロテクターの類はナシだ。ジャラザックの模擬戦は防具なんてものはつけないのがふつうらしい。

闘技場の中央に、アレクセイとともに模擬武器が運び込まれる。

小剣、直剣、湾曲刀、大剣、短槍、長槍、ハルバード、大盾……結構な数がある。

「よぉーし! お前ら待たせたな!」

アレクセイが胴間声で言うとギャラリーはやんややんやと歓声を上げる。

「好きな武器を選べ!」

クロードは迷わず片手剣——直剣を選んだ。刃は潰れている。重量もちょうどよく、造りも問題ない。

ちらりと盾に視線を走らせたが、そちらに手は伸びなかった。

「ん? もう……いいのか?」

「はい」

「その片手剣1本か?」

「はい」

「…………」

アレクセイの眉間にぐぐぐとシワが寄る。ギャラリーもざわつく。「ボス、ナメられてるんじゃねーのか?」「最初から勝つ気がないとか?」——そんな言葉も聞こえる。

しかしアレクセイは気がつく。クロードの背後に立つイヴァンとミハイルがなんでもない顔をしている。どうやら——非常に不可解ではあるが——クロードの選択に問題はないのだと判断したようだ。

自身は大剣を手にして引き抜いた。ビュンビュンと頭上で振り回すとクロードの前髪も風圧で揺れた。ギャラリーがまたも拍手喝采を送る。

「よしよし、調子はよさそうだぜ」

そしてクロードと距離を取る。

ふたりの間には審判らしき人物——どうやらジャラザックが保有する軍の部隊長らしい——が現れて説明を行う。「降参」を口にするか、気絶した時点で勝負が決まる。命を奪うようなやりとりはナシ。なにか危険があればすぐに介入して止める。回復魔法使いが待機している——。

「異論はありませんな?」

「ねえぞ!」

「ありません」

審判がうなずいた。

「では、お二方以外は離れてください」

リュカの手が離れるとき、わずかにクロードの表情に不安がのぞいた。だが、ここから先はクロードの勝負だ。リュカもまた心配そうな目をしながらも離れていく。

「うわっ!?」

肩をいきなり叩かれてクロードは飛び上がりそうになった。ミハイルだ。

「クロード。いつも通りやれ。そうすればお前の勝ちは間違いない」

「え……えっ? え?」

「アレクセイ様はだいぶ筋力を増やしたようだ。だが、勝つのはお前だ」

「で、でも……」

「結婚するんだろ?」

「——はい」

「よし」

ニッ、と笑うとミハイルはイヴァンとともに離れていく。

アレクセイは強くなったがいつも通りやれば勝てる——ミハイルの言った内容は、理解できるが、すぐに納得はできなかった。

ジャラザック領に移動するこの3日、毎日ミハイルと特訓した。ミハイルの言ったとおり、10本中9本はクロードが勝てるまでになっていた。だがそれでも1本は負けるのだ。

なぜ「いつも通り」で勝てるのか——わからない。

(それでも……やるしかない)

腹は据わった。

ギャラリーの歓声が上がる中、ジャラザックの剣の王と、青年クロードが向かい合う。

「両者構え」

半身を開き、握りしめた片手剣の切っ先をアレクセイへと向ける。

アレクセイは大剣を軽々と片手で持って、肩に担いだ。

「始め!!」

ふたりは同時に動いた。

ダンッ、ダンッ、ダンッと大股に迫るアレクセイ。距離は一瞬で縮まる。

「オオオオアアアアアアアアアアア!!」

担がれた状態から弧を描いて一気に振り下ろされる大剣。

途中、グリップを両手で握った瞬間から速度は数段上がった。

「相手を殺さない」ことがルールではあったが、これなら刃をつぶされていても腕どころか胴が真っ二つになるほどだ。

「————」

しかしその太刀筋は、クロードの目にはっきりと見えていた。

斜めの振り下ろし——ここまで無造作な振り下ろしをミハイルがやることはない。ミハイルは大剣使いでありながら太刀筋が美しく、「教官」と呼ぶにふさわしい。

(……ミハイル教官より、遅い……?)

ミハイルより筋力があるアレクセイの攻撃が、ミハイルより遅い。

そんな——あり得ない現状を前に、一瞬意識が迷う。

(好機だ)

判断した後は早かった。

ゆらめく陽炎のように身体をひねってアレクセイの攻撃をかわす。

かわしていくわずかな時間に、刀身の真横から柄での一撃を叩き込む。

軌道がくるった振り下ろしに、アレクセイの上体がつんのめる。

そのときには——。

「動くな」

片手剣の切っ先が、アレクセイの喉元に突きつけられていた。

「……参った」

ジャラザックの剣の王は、顔を真っ赤にしながらも——素直に負けを、認めた。

歓声が止んだ。

その直後、どよめきが広がった。

「今の、なんだ!?」

「見えたか」

「まったく! なにがあったんだよ!」

この一瞬のやりとりをきちんと把握できた観客はほぼいなかったらしい。

ふう、と肩で息を吐いたクロードへとアレクセイが近づく。

「ああっ、クソッ! やりやがったな小僧!! 不意打ちや意表を突いてくる戦法だと踏んでたんだが——あんなに真正面から俺様の攻撃をつぶしてくるとは思わなかったぜ!」

「卑怯な手段を使えば、禍根を残すと思いましたから」

「言うじゃねえか! がっははははは!!」

一度負けを認めるとすっきりするのか、アレクセイは快活に笑う。

「しっかしまぁ……あんなに簡単にかわされるとは思わなかった」

「俺も、不思議なんです。アレクセイ様の振り下ろしは——」

「アレクセイ、だ。呼び捨てで構わねぇよ。俺様とお前は真正面から剣をぶつけ合った。それでお前が勝った。もう、友だちだ。そうだろ?」

「あ、はい」

それはそれでやりづらいんだけどな……と思いながら、クロードは言う。

「正直な話、アレクセイ、の、振り下ろしは……あのー、気を悪くしないでくださいね? ミハイル教官より遅く感じたんですよ」

「あんだと?」

「ひぃっ」

凶悪な顔でにらまれ、クロードはのけぞった。

「脅かさないでやってください、アレクセイ様」

間に入ったのが、当の本人、ミハイルだ。

「ミハイル、お前……この小僧にどんなことを教えた? まさかお前まで、俺様の太刀筋が遅いとか言い出すんじゃねえだろうな」

「事実、だと思いますよ」

「なんだとぉ?」

「アレクセイ様は言いましたね。訓練を積んだと。そのおかげで筋肉はついたようですが太刀筋は遅くなったんです」

「?」

わからない、という顔のアレクセイにミハイルは説明を続ける。

筋肉には必要な筋肉と無駄な筋肉とがある。

重いものを持てるようになったかもしれないが、無駄な筋肉が増えれば太刀筋が遅くなることもある、と。

「むう……」

「ですが、俺のような大剣使いが相手ならば太刀筋よりもパワーが大事ですからね。アレクセイ様と俺が戦えば、俺は負けるでしょう」

「にしても、だ。あんなふうに俺様の一撃に横から叩き込むなんてまともな人間じゃねえぜ」

「それがクロードのすごいところでしょう。スピリットエルフとしての特性もあるでしょうが」

「あん? スピリットエルフ……なのか?」

「クロードはキリハルでもザハード家ですからね。由緒正しい家柄……つまりスピリットエルフの血を引いていますよ」

その言葉に観客もざわつく。

スピリットエルフについてはほとんどの人間が知っているらしい。

この連合国の女王であるマルケドもキリハル出身で、スピリットエルフである。見た目は人間とほぼ変わらないが、魔法に適性があり、五感に優れている。また第六感的なものも働きやすい——というのが定説だ。

(血筋、よりも「職業」のほうだと思うが)

クロードはポケットの上からソウルカードに触れる。

(ヒカルの言ったとおり……新たな「職業」があった)

ソウルボードによって「剣」が4になったせいなのだが、クロードは訓練の結果だと思っている。

新たに出現していた「職業」は「太陽剣舞神:ソードダンサー」、「精鋭儀礼剣神:ソードポリス」の2種類。迷うことなく4文字神の「ソードダンサー」を選択した。そのおかげで身のこなしが軽くなり、相手の剣に対応する能力が向上した。

「まあ、いい!! 血、だろうが、なんだろうがかまわん! お前は俺様に勝ったのだ、クロード! さあ俺様になにを望む? 言え!」

「ありがとうございます、アレクセイ」

一礼して、クロードは言った。

「学生連合」の発足について賛成して欲しいこと。それに、

「んなっ!? お、お前……そっちのお嬢ちゃんはまさか……ルダンシャの第三王女か!? キリハルの名門ザハード家との結婚!?」

今日いちばんのどよめきが、アレクセイの驚愕とともに広がっていく。

「学生連合」のくだりは「ふんふん」という感じで聞いていたのに、結婚について賛成しろと言われると顔色が変わったのだ。

「…………なるほど! わかったぜ、どうしてお前が俺様を相手に命まで賭けようとおもったのか」

え、いや、相手を殺したら駄目、っていうのが模擬戦のルールでしたよね? とは思ったもののクロードが言い出せる雰囲気ではなかった。

「認めてやろうじゃねぇか! キリハルとルダンシャの結婚か……おもしれぇ! おい、ここにいる全員が目撃者だ! 連合国の、歴史が変わっていく瞬間だぜ!」

アレクセイが煽ると、観客はおおいに盛り上がった。

クロードのところへやってきて肩を叩く男、リュカへと近寄って励ます女。

ジャラザックの人たちが入り乱れ——なぜかそのまま酒宴へと突入し、徹夜で飲むことになってしまった。

(こ、こっちは務めを果たしたぞ……大丈夫、だよな? ヒカル——)

飲まされまくってふらふらの頭で、クロードは戦地へ思いを馳せた。