軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

癒やし手の誕生

ヒカルがスカラーザードからウゥン・エル・ポルタン大森林に最も近い、ボーダーザードの街にやってきたその日。

負傷者の収容されている公会堂の前を通りがかったとき、イヤな予感がした。

「直感」が働いたのだろう。

中に足を踏み入れると淀んだ空気がむわっと押し寄せてくる。

そして——声を聞いた。

(ポーラか……)

寒村から出てきたという3人の少女。隣村の若者と組んだパーティーはゴブリンの大群と遭遇して崩壊した。

ヒカルがそれを救ったのが縁で、食事をともにしたこともある。

中でもポーラはヒカルに厚い好意を寄せているようだった。

(金が必要なようだった。「報酬がいい」という理由でこのモンスター討伐に参加したんだろうな)

だけれどそれを責めることはできない。

例年通りなら、彼女たちのような駈け出しの冒険者だって役に立ったはずだ。高位冒険者が倒したモンスターを運んだり、あるいは雑魚を倒したり。

不運だったとしか言えない。

だからこそ、だろう。

ヒカルはポーラのそばに歩み寄り、彼女と再会を果たした。

そして、ピアとプリシーラ、そのふたりが瀕死であることを知る。

【ソウルボード】ポーラ=ノーラ

年齢17 位階8

13

【魔力】

【魔力量】2

【精神力】

【信仰】

【聖】4

【回復魔法】2

【支援魔法】1

(ソウルボードを使えば、ふたりを治療することはできる)

だがソウルボードは、マイナスにはできない。ここで彼女の「回復魔法」を上げたら——彼女はどうする?

この後、ポーラが敵に回ったら?

ヒカルの力を吹聴したら?

(……これはシンプルな問題だ。僕が彼女を信用するか。僕が彼女たちを見殺しにするか……。まあ、ここまで何度も遭遇するということは、なにかしらの縁があるということなんだろう)

そしてヒカルは言った。

「…………ポーラ。ふたりを助けたいか?」

信用することに、したのだ。

最終的にポーラが信用に足らないと判断すれば、自分の手で彼女を殺す。

その覚悟を持って。

ポーラもまた迷わなかった。ピアとプリシーラを救えるのなら自分の命がなくなってもいいという覚悟を感じた。

「目を閉じて。次に目を開けるときには、君の人生は変わる」

ポーラが目を閉じた隙に、ヒカルはソウルボードを開く。

【ソウルボード】ポーラ=ノーラ

年齢17 位階8

4

【魔力】

【魔力量】5

【精神力】

【信仰】

【聖】4

【回復魔法】8

【支援魔法】1

「目を開けて」

「…………」

涙に濡れたポーラの目がヒカルを見ている。

「なにか違いは感じる?」

「……魔力が、増えたような感覚が」

「ありったけの魔力を込めてふたりに回復魔法を」

「はい」

ヒカルはポーラの肩に手を置き、反対の手でピアの額に手を載せた。

「集団遮断」を発揮する。

「『天にまします我らが神よ、その御名において奇跡を起こしたまえ。右手がもたらすは命の恩恵、左手がもたらすは死の祝福。地において生ける我らに恩恵をたまわらんことを。我が身より捧げるはこの魔力』——」

朗々と詠唱が続く。

ポーラの身体からポゥと金色の温かな魔力があふれる。だが彼女自身は目を閉じているのでそれに気づいていない。

ピアのお腹に当てられた両手から金色の光がピアに移っていく。

腹の肉がひくひくと動いて、自動的に修復されていく。CGでも見ているようにさえ思えた。

(回復魔法、8で十分そうだな)

10にしないのは理由があった。どの程度の魔法が発動するのかわからなかったし、「魔力量」が足りなくなったら困るというのもあった。

6とか5で止めてもよかったが、おそらく探せばそのくらいの使い手はこの世界にいるだろう。だがヒカルはこれまで、部分欠損——腹の肉がゴッソリ落ちている人間を回復させたという話を聞いたことがほとんどない。まったくない、というわけではないが、それらは「伝説」の類だった。

「伝説」レベルならば8くらいではないかと考えたのだ。

それを検証するには時間が足りなかった。

「うっ……」

ふらりとポーラの身体がかしぐ。ヒカルは両手で彼女を支えた。

「……増えた魔力を一気に使ったな?」

「は、はい……ありったけを込めろとヒカル様が言ったので。それでピアは——」

「見てみろ」

ポーラはピアを見て——その目が見開かれた。

「お、お、お腹が……な、治ってる……!!」

「良かったな」

「————」

ぐるんとすごい勢いでポーラはヒカルを見た。

「ビガルざばぁぁぁあああああ!!」

「げふっ」

思いっきり抱きつかれてヒカルの背骨がイヤな音を立てた。

「ば、バカッ、離れろ!」

「でも、でも、でもぉおぉおおお!」

「もうひとりいるだろ!」

「あっ」

ポーラがあわてて離れる。

(ふー……「集団遮断」やっといてよかった)

こちらの様子に気づいている人間はいない。

「プリシーラはどうしたんだ?」

「それが、毒で……私の解毒魔法では効かなくて」

「僕は知らないのだけど、解毒魔法っていうのは対象の毒を知っていないと解けないのか?」

「いえ、本来は解けるはずです。強い毒素であれば強い魔力で相殺する感じでしょうか」

「残りの魔力は——もうないな」

ヒカルが「魔力探知」で確認したところ、ポーラの魔力はだいぶ減っていた。

ソウルボードを開いて残りのポイント4のうち、1を「魔力量」に注ぎ込む。

「えっ、えっ、えっ——魔力が、増える……!? これはヒカル様が!?」

「いいからさっさと解毒魔法を使え」

「あ、はいっ!」

そうしてポーラが解毒魔法をかけるとプリシーラの表情に血色が戻ってきた。

「よ、よかった……よかったぁ……」

ポーラの顔にようやく安堵が訪れる。

そしてそのまま瞳を閉じて、眠りに落ち、

「ふぐぅっ!?」

ヒカルのチョップが脳天に落とされた。

「なに寝ようとしてるんだよ。こんな不衛生なところにふたりを置いておくつもりか。今のうちに移動させるぞ」

「あ、は、はいぃ……」

ヒカルはポーラとともに、まずはプリシーラを両脇から支えて立ち上がらせた。そして公会堂から出て討伐チームの冒険者キャンプへと向かう。

街の宿には冒険者全員を泊めるキャパシティがなかった。そのため冒険者ギルドの訓練場がキャンプ地となっていた。

一応女性冒険者用と男性用とで分かれており、ポーラが申請すると小さなテントを与えられた。ヒカルは「隠密」を使っていたのでバレずに女性用のエリアへと侵入する。

「プリシーラ……ちょっと待っててね、すぐにピアも連れてくるから」

テントから出ると、キャンプ地の冒険者たちが慌ただしく動き出している。

「な、なにかあったんでしょうか……」

「ああ、モンスターの大群が押し寄せてるんだよ、この街に」

「なるほど——えっ!? それってめちゃくちゃヤバイじゃないですかぁ!? なんでそんなに落ち着いていられるんですか!?」

ヒカルがニィと笑う。

「そっちには、そういうのの対処が得意な人物が行っているから大丈夫だ」

「得意な人物……?」

「ピアを連れてこよう。急ぐぞ」

キャンプ地を出て公会堂へと向かう。

「それより、問題はポーラだ」

「わ、私ですか!? 大丈夫ですよ! ヒカル様のおかげで魔力に余裕ができましたし、回復速度も上がってる気がするんです!」

ポーラは、厳密になにをしたのかはわかっていないものの魔力量の向上はヒカルのおかげだと思っているようだ。

回復魔法のレベルも上げたのだが、それについてはまだわかっていないようだ。

その辺はおいおい説明すればいい。

「言ったよな? 残りの人生を僕に捧げると」

「あ、は、はい——あ、あの、ふつつか者ですがどうぞよろしくお願いいたします」

立ち止まって深々と頭を下げたポーラの脳天に、ヒカルはチョップを入れた。

「ふぐぅぅ!?」

「いいか? 僕が言ったのは冗談ではない。お前も理解したとおりお前の魔力なんかをいろいろいじった」

「……うぅ、女性扱いしていただいていたのが、お前呼ばわりに……」

「調子に乗るからだ。——お前の力は今や、この国、いや大陸でも有数のものとなっている」

「はあ」

「はあ、じゃない。よく考えろ。腹をごっそり飛ばされた人間を治せる回復魔法の使い手を、お前以外に知っているのか?」

「!!」

ポーラの表情が固まった。

「そ、それを言われますと……確かに、教会の中でも上層部、枢機卿がおできになると聞いたことがあるくらいです……」

なるほど、教会内にはいるようだ。「伝説」レベルではなく、今現在存在するのなら「回復魔法」は8ではなく6でもよかったかもしれない——そんなことを思った。

「お前の力が周囲に知れたらどうなる?」

「ど、どうなるのでしょう……」

「教会だって確保したがるだろうし、王侯貴族が手元に置いておきたがるだろう。不慮の事故を『なかったことにできる』ほどの力だぞ。お前を巡って取り合いになる。お前のために何人何十人が死ぬだろう。僕がさっき聞いたのはそういう『覚悟』だ」

ポーラの顔が青ざめる。

ようやく現実感を持って、自分の身に迫ってきたのだろう。

「いいか。とにかく目立つな。そしてその力を与えた僕に恩を返せ」

「ヒカル様に……恩返し」

「何回僕に命を救われれば満足するんだ?」

「…………」

きゅっ、とポーラが唇を引き結ぶ。

「ヒカル様のおっしゃったことがようやく理解できました。……このポーラ=ノーラの命をお受け取りください」

どうやらヒカルは賭けに勝ったようだ。

ポーラは信用に足る。

ソウルボードを使ってよかった、と思った。

「これからどうするかはまた考えよう。まずはピアを運ぶ。そうしたらポーラはふたりが目覚めるまでそばにいてやれ。ふたりが目覚めたら——安全な場所へ逃げろ。そして別れを告げるんだ」

「……わかりました」

ピアとプリシーラを連れていくわけにはいかない。

守るべき相手が増えれば増えるほど不利になる。ヒカルの能力は1対1に特化しているのだ。

そこをわかっているのか、あるいはなんとなく察しているのか、ポーラはヒカルの指示にうなずいた。

「これを渡しておく」

ヒカルは金の入った革袋と、家の鍵、それに住所を記した紙を渡した。

「僕は今、フォレスティア連合国のスカラーザードという街に住んでいる。その家に先に行っていてくれ。金はピアとプリシーラと分けてくれていい。ふたりは村に返すんだな——もう冒険者に向いてないことはわかっただろう」

「あ、あの……私はいいのですか?」

「僕にだって打算はある。回復魔法の使い手は近くに欲しかった」

「……そう、ですか」

「道具扱いだとわかってがっかりしたか?」

「いえ——ヒカル様はピアとプリシーラの命を救ってくださったのです。なんの不満もありません」

はっきりとした答えだった。

「……なら、いい」

「ヒカル様はどうするのですか?」

「僕はこの騒動を終わらせてくる」

「……終わらせる?」

「さあ、さっさと行動に移るぞ」

「は、はい!」

ヒカルとポーラは公会堂へと向かった。

一抹の不安はある。

だが今、ポーラにつきっきりでいるわけにはいかなかった。