軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十三話 フランクリンのゲーム

□【記者】/【絶影】マリー・アドラー

私はドライフ皇国の三人のトップランカーについて、あの戦争の前から知っていました。

【記者】として……そしてPKを行う身として強者の情報収集は欠かせないことですからね。

ドライフの三人のトップランカーは、全員毛色が違う。

決闘ランキングトップ。生贄儀式を駆使する悪魔軍団の長、“矛盾数式”【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト。

討伐ランキングトップ。全プレイヤーの中で最強のステータスを誇る、“物理最強”【獣王】。

そしてクランランキングトップ、【大教授】Mr.フランクリン。

この中で、戦争当時には一人だけ<超級>ではなかったのがフランクリンです。

それどころか唯一の非戦闘職です。

素のステータスで論ずれば、その力は下級の戦闘職にも劣ります。

“物理最強”の【獣王】や“魔法最強”の【地神】と比べれば塵芥でしょう。

もちろん他の二つのランキングと異なり、クランランキングはクランの規模を競うもの。

そのオーナーに戦闘力がなくても、異彩でこそすれ問題は何もありません。

戦争におけるクランランキングのトップは、クランとしての力を見せることが本懐であり個人戦力など二の次。

実際、そのように囁かれていました。

しかし蓋を開ければまるで違う結果となりました。

フランクリンの脅威は、<超級>に至らぬ身でありながら他の二人に引けを取るものではありませんでした。

戦争によって……フランクリンのジョブと<エンブリオ>の特性は広く知られることとなりました。

超級職【大教授】はモンスターの研究に特化し、フランクリンの<エンブリオ>であるパンデモニウムはモンスターの生産に特化しています。

研究と生産、同じ分野でありながら似て非なる二つが合わさった結果、フランクリンは恐ろしい軍団を創り上げました。

それは多種多様な特性を持ったモンスター軍団。

物理が効かない、魔法を反射する、死に掛けると自爆する、取り憑いて操る、エトセトラ、エトセトラ。

そんなバラバラな特性のモンスター軍団が――“全く同じ見た目をしていた”のだそうです。

フランクリンと相対したのは少数でこそあれ戦争に参加していた王国側の<マスター>、それに国王直下の軍です。

両者はぶつかり、結果は惨事の一言に尽きました。

まるでビックリ箱の如き“何をしてくるかわからない”モンスターとの戦いで混乱に陥り、その混乱に乗じて超級職にも匹敵するステータスの強力なモンスターが襲ってくる。

そうして<マスター>の軍勢は壊滅し、国王はモンスターに捕食されました。

これを成したモンスター軍団を生産し、揃えるには天文学的なコストが掛かったらしいです。

モンスター作成に必要な素材も、それを入手するのに必要な資金も膨大だった、と。

しかし、それはドライフ最大のクランを統率し、皇国というスポンサーを得ていたフランクリンにとって問題にもならないことでした。

彼はクランの規模をもって戦争に挑み、そして個人の能力によって脅威を示したわけです。

戦争の後、PKとしての私……<超級殺し>にフランクリン殺害の依頼は多々ありました。

戦争でデスペナルティになった<マスター>や、犠牲になった兵士の縁者が主な依頼主です。

しかしながら、私はその依頼を受けていません。

様子見には行きました。

殺せるようなら依頼を受けて殺そうとも考えました。

けれど駄目です。

一目見てわかりました。

簡単に殺せる(・・・・・・) 。

――しかし確実に……何か ろくでもないこと(・・・・・・・・) が起きる、と。

私の目には、フランクリンは腹にダイナマイトを巻いた鉄砲玉のように……いえ、それよりも遥かに不気味で凶悪なものに見えました。

私はフランクリンの暗殺を断念しました。

私がフランクリンと戦うのを避けた少し後のことです。

フランクリンは私に依頼した人々に限らず怨みを買っていたので、頻繁に襲われていました。

それらの多くはモンスターによって撃退されるのですが、一度だけ……フランクリンが倒されることもあったそうです。

そのときのフランクリンはまだ<超級エンブリオ>の<マスター>……<超級>ではなかったので、倒した人が私同様に<超級殺し>と称されることはありませんでした。

ですが……あの戦争の後に一度だけ、フランクリンはデスペナルティになっています。

ステータスで言えば最弱であり、当然想定しえることです。

けれど、問題はその後。

デスペナルティから帰還したフランクリンは……自分を倒した相手を探し出して戦闘を仕掛け、次は完勝しました。

その次も。

その次も、その次も。

その次も、その次も、その次も、その次も。

その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次も、その次

も、その次も……。

相手にとって最も相性の悪いモンスターを作成し、リアルで一ヶ月の間ずっと……自分を負かした相手を執拗に殺し続けたのだそうです。

それこそ、その相手がこの<Infinite Dendrogram>にログインしなくなるまで……。

弱いけれど、最悪のモンスターを創る。

弱いけれど、最悪の性格をしている。

“最弱最悪”……それが私のフランクリンに対する評価であり、彼の最も有名な通り名です。

……正確に言えば、私の知る限り最悪はもう一人いますが、それは置いておきましょう。

兎に角、フランクリンの出現は、王国にとっての不倶戴天の敵が現れただけに留まりません。

必ず、 ろくでもないこと(・・・・・・・・) を仕掛けてくるに違いないのです。

◇◇◇

□【聖騎士】レイ・スターリング

フランクリンが名乗った直後、会場中から無数の矢と銃弾、攻撃魔法がフランクリン目掛けて放たれた。

フランクリンが結界上部の中央に位置している以上、結界に阻まれるものもいる。

それでも、軽く百人分はあっただろう攻撃の雨。

中には試合で見たような上級職の攻撃もあり、フィガロさん達の様な超級職の攻撃もあったかもしれない。

フランクリンの足元の結界を大きく揺るがしながら、爆煙が結界の上を包み込む。

『さっすが、脳筋の集まった決闘都市。判断が早いねぇ』

だが、フランクリンは生きていた。

所々白衣が焦げているのであの攻撃の渦中にいたのは間違いない。

それでも生き残っていた。

「何で生きてるんだ、あいつ」

「……あれはまだ大したことしてませんね」

『だな』

俺には何が起きたのかわからなかったが、二人には見えていたらしい。

「早いタイミングの致命打は身代わり系のアクセサリーや装備スキル付きの防具で凌ぎましたね」

『加えて、それ以降は《キャスリング》で一時的に避難してたな』

《キャスリング》?

「《キャスリング》とは何ですか?」

「手持ちのモンスターと自分の位置を入れ替えるスキルですよ、ルーク君。上級職から覚えられるスキルですが、有効射程が然程長くないので転移スキルとしては殆ど使えません。数少ない使用可能な転移スキルではありますけど」

なるほど。最初の不意討ちは俺もデミドラ戦で使っていたような装備で無理やり耐えて、以降はその場にいなかったわけか。

『言っておくけれどねぇ! もう攻撃しないでほしいねぇ! 君達も“監獄”行きにはなりたくないだろう?』

“監獄”?

フランクリンの言葉に疑問を覚えて奴を注視する。

すると、奴の腕の中に一羽の小鳥が止まっており、

『――罷り間違ってこのおちびさんに当たったら一発で“監獄”行きだからねぇ』

フランクリンがそう言った直後、小鳥と入れ替わりに彼の腕の中に何かが現れる。

それは一人の少女。

その少女を見て……マリーがハッとしたように声を上げる。

「エリちゃん……!」

昨日は写真で、今日は会場で見た――第二王女エリザベート・S・アルターの姿だった。

ハッとして貴賓室に目を向けるが、そこにはもう王女の姿はなかった。

『第三者への《キャスリング》を使えるモンスターを……創ったわけか』

そんなことができるモンスターを創った?

フランクリンにはそれが出来るってことか。

事実、貴賓席にいたはずの第二王女を、フランクリンはその手に捕らえている。

王女は意識がないのか、力なくくたりと体を預けている。

『ご理解いただけたかなぁ? 王族殺しは即“監獄”だからねぇ。気をつけて……ってぇ私が言えることじゃないかぁ! ハハハハハ!』

腕の中の少女の父親を殺した男は、面白いジョークでも言ったかのように高笑いした。

……こいつ。

『さてさて、君らが手出しできなくなったここらで聞いてもらいたい話が……』

フランクリンの言葉を遮るように、観客席の一点から新たな攻撃魔法が飛び、フランクリンの至近で炸裂した。

「な!?」

放たれた辺りを見れば、<マスター>らしき観客がガッツポーズをしている。

バカか!?

「バカですか……!?」

俺の心の声とマリーの声が重なる。

フランクリンのすぐ傍に王女がいるんだぞ!? 迂闊に攻撃していいわけがない!

『あー』

爆裂した攻撃魔法の煙が晴れると、そこには無傷のフランクリンと王女の姿があった。

先刻の一撃は何らかの手段によって防がれたらしい。

『状況は理解できているかな? 私が第二王女を攫った。そして喋っている。何か言おうとしている……。そ! こ! で! 何で攻撃するんだね!? わからないなぁ、わからない、バッカじゃないのかなぁ』

フランクリンはガシガシと頭を搔く。

その表情は高笑いしていたときと違い、ひどく不機嫌そうだ。

『――バカは頭を冷やしましょうねぇ』

フランクリンの言葉の直後、攻撃を行った<マスター>の足元から青色の液体が噴き出した。

青色の液体――【スライム】は一瞬でその<マスター>を包み込み、

「―――――――――――――――」

地獄絵図を作り出した。

飲み込まれてすぐに皮膚も装備も溶解して区別がつかなくなる。悲鳴は青色の【スライム】の中でゴボゴボと泡になって外には漏れ出さない。

それだけならばモンスター映画の肉食スライムと同じだが、あの【スライム】はそれだけではない。

周囲が凍りついている。

内部の獲物を溶かすと同時に、周囲に冷気をばら撒いて被害を拡大している。

『はーい、その子は【オキシジェンスライム】、開発名称デストロイヤー君でぇす。私のお手製で最近作った中じゃよく出来たほうだと思いまぁす』

【スライム】――【オキシジェンスライム】をケーキか何かのように紹介する。

だがそんな呑気なものではなく、【オキシジェンスライム】は最初の<マスター>だけでなく周囲の観客を飲み込み、溶かし、冷気によって周囲を脅かしている。

やがて【オキシジェンスライム】付近の観客席から、【オキシジェンスライム】を攻撃する炎が迸り――

『あ、バカ』

そんなフランクリンの呟きの直後――大爆発を引き起こした。

観客席の一角で青色の轟炎が巻き起こり、炎熱地獄さえも生じてしまった。

『おいおーい、「スライムには炎だ」なんてマニュアル対応をやらかしたバカまでいるのかい? 聞いてた? 私は【オキシジェンスライム】だと言ったよ? 酸素(オキシジェン) の意味分かる? 液体酸素に火を近づけるバカは理科実験できんよ?』

液体酸素……!

常温では気体である酸素を、マイナス182.96℃以下の超低温で凝縮させた物質。

極めて強力な酸化作用と助燃性を併せ持つ劇物であり、ロケット燃料にも使われる奴だ。

「奴の体色の青は、液体酸素の青色か……!」

そして炎の色が青かったのも、酸素の供給源が過剰にあったから……。

『……むかーし、化学の授業でやったなぁ』

兄がそんなことを呟いているが、俺も似たような感想だ。液体窒素でビニール袋に入れた酸素を冷やす実験をやった覚えがある。

『ちなみに爆発覚悟でも無駄でぇす。デストロイヤー君は爆発しても空気中の酸素と結合してすぐに再生しますからねぇ』

フランクリンの言葉の通り、爆発跡には急速に体積を回復させる青色の【オキシジェンスライム】の姿があった。

有毒不死身の爆発生物。

なるほど、最悪に近いモンスターだ……なんて考察をしていて気づいた。

死んだ<マスター>は粒子になって消えている。

そして、爆発があった周囲に死体は転がっていない。

不幸中の幸いで、あれに巻き込まれたティアンはいなかったらしい。

『さて、バカのせいで説明が回り道になったけれど、こっちの要求をお話しまぁす!』

結界の上部では、邪魔者がいなくなったと言わんばかりのフランクリンが言葉を発する。

『ゲームをしよう!』

声を張り上げるフランクリンの手元には、いつの間にか正体不明のスイッチが握られていた。

『ポチっとね』

フランクリンがボタンを押すと、会場の一角から新たな【オキシジェンスライム】が噴出した。

幸い出現に巻き込まれた人はいなかったが、先ほどの惨状のためか半ばパニックとなって【オキシジェンスライム】の周囲から観客が離れる。

『今のでご理解いただけたと思うけど、このスイッチは私が設置した装置に連動しています。どんな装置かと言うと、デストロイヤー君同様に私が用意したモンスターをばら撒く装置ですね。押すとランダムに一個開放です』

その言葉に会場中が自分の座っていた座席から立ち上がる。

だが、奴の言葉はそこで止まらない。

『押さなくてもあと一時間もすれば自動的に全部開放でぇす。――ギデオンの街中にも たぁくさん(・・・・・) 設置しましたからねぇ』

「な!?」

貴賓席のギデオン伯爵が驚愕の声を上げた。

当然だ。自分の治める街をモンスターテロの標的とされたのだから。

そしてやはり、今しがたの観客席での凶行や、そんなテロをしでかす以上……こいつはティアン相手でもお構いなしに危害を加える心算なのだ。

『装置を止める方法は二つ。このスイッチを破壊するか、私をデスペナルティに追い込むこと。それで装置は機能を停止して、飛び出したモンスターも全部消える。ね? 簡単でしょ?』

そうしてフランクリンはまた愉快げに笑う。

ならば、今ここであいつを倒せば全て終わる。

だが、

「……妙だ」

あいつどうして……。

『それとモンスターとは関係ないけれど。王女もこのまま攫うんで』

フランクリンはそう言って気絶したままの王女を抱き寄せる。

『モンスターテロを止めろ! 王女を救え! 非常に分かりやすい図式だねぇ! 王国の<マスター>諸君は頑張ってくれたまえ! じゃあそういう訳で、 さようなら(Adieu) !』

そう言い残してフランクリンは再び《キャスリング》を使い、王女と共にこの会場からどこかへと消え去っていた。

直後、会場内は混迷と怒号に包まれる。

パニックに陥る者、悲鳴を上げる者、右往左往する者。

中には、闘技場から飛び出してフランクリンを追おうとしているらしい<マスター>の姿も散見できる。

あるいは、会場に残る二体の【オキシジェンスライム】に対処しようとする<マスター>もいる。

行動を起こした者に共通するのは、この事態を引き起こし、この夜を台無しにしたフランクリンへの怒りだろう。

俺もまた同じだった。

「 巫山戯(ふざけ) やがって……!」

フランクリン自身はゲーム感覚なのだろう。

事実、<Infinite Dendrogram>はゲームだろう。

しかしそれでも、許せないことはある。

あいつはそれをやろうとしているのだ。

『たしかに巫山戯た話だ』

兄は頷きながらそう言った。

と、そうだ。

フランクリンが出てからずっと気になっていた。

なぜ兄は……一切攻撃しようとしなかったのだろう?

兄ならばあのガトリング砲なりを撃っていてもおかしくはないのに。

『だが、考えてもみろ。何でそのお巫山戯を 宣言した上で(・・・・・・) 実行する必要がある?』

「…………」

それは、俺も少し引っかかっていた部分だ。

あいつは会場や街に【オキシジェンスライム】や多種のモンスターが入った装置をセッティングしたと言っていた。

そう、あいつがやろうとしているテロは準備万端でその気になればいつだって起こせる。

だというのに……。

『テロなら宣言などせずにすればいいじゃないか。攫うのもな。それをあえてこんな舞台で宣言して、タイムリミットなんて猶予まで設定している。これがどういう意味かわかるか?』

「意味……」

フランクリン自身の言動からして、面白半分にも見える。

けれど、それだけではないと感じる。

引っかかっているものがある。

まるで、<超級激突>の試合開始直前に迅羽が行った宣言のように、何らかの意図があるようにも思える。

ただ、それが何なのかを俺はまだ言語化できていない。

「推測ですが」

俺と兄の会話内容に、ルークが言葉を挟む。

「告知して、“頑張れば防げる状態にしてから失敗させる”ことが目的なのだと思います」

「何だって?」

失敗させることが、目的?

「それはきっと……」

ルークが言葉を繋ごうとしたとき、観客席ではなく部屋の外――ロビーの方から混乱の声が聞こえてきた。

「結界が」、「出られない」……そんな言葉が幾重にも聞こえてくる。

『ロビーに行くぞ』

「……ああ!」

「はい」

兄の言葉に応じ、俺とルーク、それにネメシスとバビが後に続いてボックス席を出る。

そうしてボックス席を出ようとして、気がついた。

寸前までボックス席にいたはずの……マリーの姿がどこにもないことを。

To be continued