軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十二話 競演の終わり 狂宴の始まり

□中央大闘技場貴賓席 ギデオン伯爵アッシュバレー・ギデオン

「すばらしいしあいだったのじゃ!」

「あ~。迅羽さん負けちゃいました~。でもいい試合でした~」

フィガロ氏と迅羽氏の試合……<超級激突>が決着した。

観戦していたエリザベート殿下とラン・メイハイ帝国大使の口からは、素晴らしい戦いを見せてくれた二人に心からの賛辞が送られている。

私も同感だ。

「皇子にも良いお土産話が出来ました。あ、後で記録した魔法カメラの映像頂けますか?」

「もちろんです。ラン大使」

それもまた同感。

この試合は、素晴らしい。

他者にも伝えたいし、自分でも何度も見返したいほどだ。

お互いの積み上げてきた全てを掛けた、頂上と頂上の競い合い。

もはや感動しか存在しない。

私もこの決闘都市の次期領主として、幼いころから試合を見続けてきた。

その中でも、この試合はとびっきりだ。

四年半前からの<マスター>の増加に伴い、試合のレベルも上昇の一途を辿っていた。

けれど、そうして上昇した試合レベルと比較しても、今回は段違いの試合だった。

領主としてではなく、一観客として今夜この試合を見られたことは幸福だ。

ああ、けれどこれからまだ一仕事ある。

今夜の試合を明日の活力としてもらい、意気消沈しかかっているこの国に少しでも元気を与える。

私が両選手を讃えるスピーチを行い、殿下にも二人や国民を慰撫するためのお言葉を発していただくのだ。

折れかけているこの国の心を支えるために。

「殿下。そろそろご準備を」

「うむ。それにしてもリリアーナはざんねんだったのぅ」

「先ほど王都より連絡があったそうですから……」

彼女は騎士団の職務としてこの場にいたので仕方ないことだが、あの試合の観戦を途中で抜けざるを得なかったことは同情するほかない。

「おや?」

「どうなされましたか、殿下」

「かいじょうのようすが……」

殿下の言葉を聞いて、私は戦闘フィールドを見下ろした。

◇◆

□■ 中央大闘技場観客席

フィガロが勝利した瞬間、会場は大歓声に包まれた。

「良い試合だった……」

一人の若い観客は眼前で終了した試合に対し、只々素直な感想を口から漏らした。

周囲では彼以外の観客達は立ち上がり、フィガロの勝利に……いや、素晴らしき名勝負そのものに喝采と拍手を送っている。

彼もそれに倣い、立ち上がり、拍手を送る。

「うん、本当に良い試合だった」

「おぅ! 俺も長いことこの闘技場で決闘を見ているが、こんなにすげえ決闘は初めてだ!」

感極まったように呟く彼に、隣の席の中年の観客が声を掛ける。

「そうなんですか?」

「そうさ! これまでの最高は前王者トム・キャットとフィガロの試合だったが、今回の決闘はそれ以上だ!」

「ああ、じゃあ私は運が良かったです。わざわざ砂漠を越えて来た甲斐がありました」

彼はうんうんと頷く。

彼の言葉に、中年の観客は彼の格好――ターバンや肌を隠すゆったりとした衣服――がカルディナ方面でよく見られる装いであると気づいた。

「あんちゃんカルディナからわざわざ来たのかい!」

「はい」

「大変だったろう?」

「はい。けれど、本当に来てよかった。カルディナの仲間達にも良い土産話ができました」

彼は満足げに微笑む。

しかし、その後になぜか首を傾げた。

「あれ?」

喝采の会場で、彼と同じように疑問を表す者が徐々に増え始める。

「どうしたんだいあんちゃん?」

「あの、フィガロ氏が……」

彼は隣の観客に自身が気づいたある疑問について話す。

そうした疑問の波は徐々に中央大闘技場全体に広まっていった。

◇◆

□■ 中央大闘技場観客席 膝に小動物を乗せた観客

「茶番ですね」

こんな試合で喜んでいる周りの観客に苛立つ。

<超級>と<超級>のぶつかり合い。

期待していなかったと言えば嘘になる。

けれど蓋を開ければ……どちらも見るに堪えない。

それでも本当に<超級>なのか、と問いたくなる。

どちらもどちらも、小細工に小細工、小技に小技。

みみっちい(・・・・・) 。

最後の攻防以外、ろくに見られたものではない。

心臓と手足なんて 半端な(・・・) モチーフだからその程度のことしか出来ないのか?

貴様ら、それでも私と同じ……、

『Know your role, and Shut your Mouth』

不意に、私の膝の上に乗っていた“彼女”からそんな言葉を掛けられた。

意味は……分かります。

「そうですね。少々口汚い 内心(・・) でした。自重します」

本当に危うい。

危うく……この場で本性を晒すところでした。

『k』

私は“彼女”に詫びる気持ちをこめて、ハリネズミに似た“彼女”の背を撫でる。

それから舞台の様子を窺い、

「ああ、始まっていますね。彼の望みである第一王女が来ていない以上、我々には関係がありませんが」

『spec』

「そうですね。続けて観戦いたしましょう」

これから始まる、“座興”を。

◇◆

□ 【聖騎士】レイ・スターリング

止まっている。

決着を迎えた戦闘フィールドの中で、フィガロさんが完全に静止していた。

剣を切り上げ、迅羽にトドメを刺した体勢のまま微動だにしない。

それと迅羽も、試合が終了したというのに復活する様子がない。

「一体何が。なぁ、兄……!」

兄貴、と声を掛けようとして、口を噤んでしまった。

それは、兄から伝わってきた気配のせい。

兄の纏った着ぐるみは、いつも通り。

けれど分かる。

内側の兄は決していつも通りなどではなく……恐ろしく不機嫌になっている。

俺以外にもそれは分かるようで、ネメシスもルークもバビもマリーも、気圧されていた。

そうだろう。

俺も今の兄は……少し怖い。

「……兄貴、どうしたんだよ」

それでも尋ねるのは俺の役目だと思い、尋ねる。

すると、さっきまでの威圧感が薄れた。

『ん。少し、 余計なこと(・・・・・) をした奴が出たみたいだからな』

「余計なこと?」

『ああ。フィガロが止まったのは、結界内の時間が停止したからだ』

「時間、停止?」

『元からここの結界に仕込まれている機能の一つだが、普段は使われない。使う意味がないからな』

精々で演目のモンスターが派手に暴走したときくらいだ、と兄は言葉を繋げる。

『さっきまでの試合でやっていた時間の減速はあれが限界だが、停止なら別だからな。スロー再生と一時停止みたいなものだ』

「中のフィガロさんはどうなっているんだ?」

停止した時間なら、本人の意識は?

『俺も止められたことはないが、意識は多分ある。ティアンやモンスターは意識まで停止するだろうが、精神系状態異常と同様にプレイヤー保護機能の一環で<マスター>の意識は停止していないはずだ。じゃないと、リアルの都合での緊急ログアウトもできないからな』

たしかに。

『ただし、内部の光も空気振動も止まっているから、何も見えないし感じない。全身蒸発した迅羽の方はどうなっていることか』

……あまり想像したくないが、フィールド上の二人は今まさにその状態なのだ。

「このタイミング……決着がついた瞬間に停止するよう、予め仕込まれていたということですかね?」

『恐らくな』

マリーの言葉に、兄が頷く。

『問題は……どこのどいつがこんな真似をしやがったかってことだが……』

兄は不意にそこで言葉を切った。

その視線は闘技場に張られた結界――その上部の一点に注がれている。

「あれは……」

そこには一人の、否、一体の影があった。

それは着ぐるみ。

俺にも見覚えがある(・・・・・・・・・) ……アデリーペンギンの着ぐるみだった。

『はぁい! みなさんこんばんはぁ! いい勝負でしたねぇ! 面白かったですねぇ!』

会場中の視線が自分に集まったのを感じたのか、ペンギンは喋りだす。

しかし、気づく。

結界の上に立つペンギンが身振り手振りするのと同時に聞こえるその声は……。

「……アナウンサー?」

先刻まで、闘技場でアナウンスをしていたものと、同じ声だった。昨日のものとは違う。

少し不慣れな感じはあったが、潜り込んで成り代わっていたのか?

俺の心の中の疑問に答えたわけではないだろうが、奴が首元を触って弄ると、発せられる声が昨日出会ったときのものに戻っていた。

『さぁて! 面白い勝負の後には伯爵や王女なんかの、面白くもない演説なり訓示なりがある予定でしたけどもぉ!』

ペンギンは結界の上でクルクルと回る。

『そんなことは取り止めて代わりに面白いことをしましょう』

ペンギン越しでも解る。

あのペンギンの中身は嗤っている。

兄のように慣れ親しんだから解るわけではない。

誰が聞いてもすぐに理解できるほど、悪意と害意に満ちた声音だった。

「何だ貴様は!!」

そのとき、ボックス席の中でも一際大きい席――貴賓席からペンギンへの誰何の声があった。

その声の主が誰かは俺も知っている。イベントの開始時にも見たアッシュバレー・ギデオン伯爵だ。

「何のつもりでこのイベントに泥を塗らんとする!」

彼は激怒しているようだ。

無理もない。

あれほどの名勝負を、あれほどの戦いを、成功に終わったはずのイベントを現在進行形で愚弄されている。

俺だって思うところがある。

『ハッハッハ! 言ったでしょう? 面白いことをするつもりですよ』

そう言ってペンギンは腹を抱えて笑って……自らの後頭部に手をやった。

『けれど、私が何者であるかは言ってませんからねぇ。教えましょう!』

そう言って、ペンギンは着ぐるみを脱ぎ捨てた。

『はーい、これが私の本体のハンサム顔でーす。なーんてねぇ』

ペンギンの中身は、左手の甲に<エンブリオ>の紋章を持つ痩身の男だった。

寸前までの奇抜に過ぎるペンギンの着ぐるみと違い、今の格好はメガネと白衣を身につけているくらいしか特徴がない。

強いて言えば顔はいいが、それもキャラクタークリエイトできる<マスター>の中では目立たない程度だ。

しかし、そう思っているのは俺やルークを含めた少数だけであり――会場の多くの人はそいつの顔に強烈な衝撃を受けていたようだ。

「貴様は、貴様は……!」

アッシュバレー・ギデオン伯爵も彼を見知る一人であるらしく、驚愕と共に言葉を詰まらせている。

『おやおやぁ! どうやら私の名前をご存知の方々が沢山いるようですねぇ!』

奴は夜だと言うのにわざとらしく右手を日よけにして、奴は会場中を見回す仕草をする。

それは奴が顔を見せたときの会場中の反応を楽しんでいるようだった。

それほどに、奴の名前を多くのものが知っていたようだ。

「名前……」

俺はペンギンを着た奴と出会っていた。

昨日、俺に悪戯のように薬を飲ませてきた。

あのとき、奴はドクターフラミンゴと巫山戯た名前を名乗っていた。

事実、アレは巫山戯ていたのだろう。

奴の名前は、そんなものではないのだろうから。

奴の名前は……。

「なぜ貴様がここにいる…… Mr(・・) . フランクリン(・・・・・・) !!」

『だぁぁぁいせぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁいッ!』

ギデオン伯爵の言葉にドクターフラミンゴ――Mr.フランクリンが笑顔で答えると同時に、どこかから花火が上がる。

それはギデオンの夜空を綺麗に彩りはしたが、会場にいる人々の顔は決して晴れやかではなかった。ティアンだけでなく、<マスター>にさえハラワタが煮えくり返るような表情を浮かべている者がいる。

それは当然だ。

ここにいるのがMr.フランクリンであるならば、誰一人として晴れやかな気分になどなれない。

奴の名前がこの国でどういう意味を持つのか、ルーキーである俺さえも知っている。

『はぁい! 私がこの国の王様とその他諸々をモンスターの餌にした張本人! ドライフ皇国の<超級>! ロボットとモンスタークリエイトの最先端! 【 大教授(ギガプロフェッサー) 】のMr.フランクリンでぇす!』

王国最大の仇敵とも言える人物なのだから。

To be continued