軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 第二試合

□【聖騎士】レイ・スターリング

“トーナメント”の一回戦が終わり、俺は辛くも勝利を収めた。

決め手は久方ぶりの風蹄爆弾。

相手が速すぎて狙えなくても、自分を中心とした爆発……全方位同時攻撃ならば当てられる。

それに闘技場の舞台の上ならば、風蹄爆弾の効果範囲に収まるとも考えた。

……まぁ、空気漏れのない密閉空間だったので結果的に威力が上がりすぎた気はするが、それでもラングのハレーと結界の両方がそれに耐えきったので良しとする。結界から戻ってきた爆風の被害でこちらが落ちる前に決着したし。

ちなみに、風蹄の圧縮途中で再突撃されたならその時点で解除するつもりだった。

バリアへの接触に反応して風蹄を解除すれば、確実に命中はする。ただし、その場合はラングを倒すか、先に突撃で俺が死ぬかの賭けになっていただろう。

ともあれ、結果としては無事に読み通りと言える。

試合終了後にラングとも少し話をした。お互いに相手の想定外の手に驚いたものの、クリーンな試合ができたと思う。

「……瘴気と毒ガスの蔓延するクリーンな試合か。環境には優しくない気がするのぅ」

『キシャー(エコ……どこ?)』

それは言うなよ。

さて、今回の試合を振り返っての勝因が何かと言えば、手札の多さだろう。

瘴気やカウンターといった普段の攻撃手段が無力化されても、シルバーの風蹄爆弾が残っていたから勝てた。

それが俺の強みだと、地力が俺よりもやや上のラングと戦って実感できた。

様々なカウンター能力に特化したネメシス、三つの特典武具、それとシルバー。

それらが揃っているからこそ、地力で上回られていても相性の良い手札を選択し、勝機を見出すことができる。

「よし! 予選の残り三試合、勝っていこうぜ!」

「うむ!」

一回戦を勝ったことで自信も付いた。

この調子で二回戦からも……。

【玲二、今は話せるか?】

「ん?」

ふと【テレパシーカフス】に兄からの連絡が入った。

【ああ。大丈夫だ。ちょうど一回戦を勝ったところだ】

【そうか。実はな……】

兄はなぜかいつになく焦ったような、あるいは困ったような雰囲気だった。

何かを俺に伝えようとして、躊躇っているようにも思える。

【……いや、いい。予選が終わってから話す】

【え? ああ、うん】

【残り三試合、頑張るクマ】

そうして、兄からの通信は切れた。

結局、用件が何だったのかも分からない。

「何だったのだ?」

「……さぁ?」

俺とネメシスは互いに顔を見合わせながら、要領を得なかった兄からの連絡に首を傾げるのだった。

通路を進んで控室に戻ると、また室内の注目を集めた。

『やっぱり勝ったか』などと言われたのは分かったが、しかし『やっぱり』などと言われるほど楽な勝負だったわけでもない。

仕損じれば負けていた試合だ。特に、相手の手の内が不明だった序盤にもう少し畳みかけられるか、最初の飛翔突撃が直撃していれば負けていただろう。

『うむ』

ネメシスは紋章の外に出ているが、周囲に人がいるので念話で俺に応じる。

『分かってはいたが、<マスター>同士の戦闘では初見殺しが恐ろしい』

ああ。個々人で異なるがゆえに手の内が一切不明、ってことの怖さを味わったぜ。

【魔将軍】や【獣王】と戦ったときは、あっちが有名だったからある程度は手の内を把握していた。

今回はそれが逆の立場だってことがよく分かったよ。

『初見殺しを避ける手段は必要であろうな。決闘では【ブローチ】が使えぬし、【死兵】のスキルも発動せん。私の《カウンター・アブソープション》も、正確に防御できない恐れがある』

……そうだな。

やっぱり試合開始早々に、先手を打って《地獄瘴気》は展開しておくべきだろう。

ラングには手口が重複したことで無力化されたが、それでもこれが有効な戦術であるのは間違いない。決まれば確実に相手の動きは鈍る。

相手の空中への攻撃手段が乏しければ、シルバーで空中に退避する手もありだ。

あとは空中から瘴気を充満させて、時に火炎、時に《シャイニング・ディスペアー》で遠距離攻撃を仕掛ける。

『……のぅ、何と言うか、非常に、その……悪役ではないかそれ?』

…………実は俺もそう思った。

だが、見栄えを気にして負けても仕方がない。

『アンデッドや悪魔を食い千切った御主が言うと説得力あるのぅ……』

「まぁ、な。……っと」

一回戦で少し疲れたのか、目がうとうとし始める。

やはり、ラングとの試合は思ったよりも精神的に疲労していたらしい。

『二回戦まではまだ時間がある。見ているから、少し仮眠でもとればいい』

「ああ……ちょっとお言葉に甘えるよ。……あ、チビガルが俺を齧らないように注意してくれ」

『キシャー』

ネメシスにそう言って、俺は少し目を閉じることにする。

すると程なく、俺の意識は夢に……ゲームとしての状態異常ではなく、俺自身の眠りに落ちていった。

◇◇◇

「椋鳥君。メタゲームという言葉をご存じ?」

夢の中で、聞き覚えのある声がした。

それは、朝に見たモノとは違う、ただの夢。

俺の記憶にある光景。高校の部活の頃の光景だ。

高校一年の頃の俺がテーブル卓の前に座り、対面には電遊研の部長が座っている。

「いえ、知りませんけど……」

「そう。主にカードゲームの用語なのだけど、意味は環境情報収集戦といったところかしら」

「環境……」

部長はトレーディングカードをテーブルの上に広げている。カードのレベルや種類別に並べ、同じカードを重ね、対戦に使う束……デッキを組んでいるところだった。

「カードゲームの環境は、刻一刻と変化するわ。最新エキスパンションの内容、更新される禁止・制限リスト。流行のデッキ。発見されているコンボ。デッキを組んで大会に赴く前にそれらの情報を集めていくことはとても大切。なぜだか分かる?」

「カードゲームは素人なので……」

「そう。安心して。教えてあげるから」

電遊研はコンピューターゲームの部活であるが、ホビー雑誌やホビー漫画の類も部室の書架に収まっている。

それは部長こと 星空暦(ほしぞらこよみ) 先輩の趣味がアナログのゲーム、特にカードゲームだからだ。

新入部員である俺もそちらの道に勧誘されており、スターターデッキやプレイマットなど色々もらってしまったので、やらなきゃかなーとは思っている。

「環境情報の収集が重要なのはね、大会で数多く当たるだろう相手に勝つ確率を上げるためよ。例えば、デッキから任意のカードを サーチする(手札に入れる) 効果を多く含んだデッキが流行っているなら、サーチを禁止するカードを自分のデッキに入れておけば、対戦する相手のカードの多くを紙屑にできる。そういう話よ」

「……専門用語が分からないところもありますけど、概ね分かりました」

「けれど逆にサーチを使わないデッキの相手と戦えば、サーチ禁止カードが紙屑になる。大会前のデッキ流行の読み合い。サイドからの変更で修正できる点もあるけれど、それも含めてデッキ構築にはとても気を遣うわ」

気を遣うと言いながらも、部長はとても楽しげにデッキを組んでいく。

「じゃあ色んなカードに対処できるように、色んな対策カードをデッキに入れればいいのでは?」

「それも間違いではないのだけど、安定性がどうしても落ちるのよね。それに……」

部長は目を細めて、言葉を続ける。

「たまに、事前の対策が無意味なデッキもいるのよね」

「え?」

「さっき、発見されているコンボ、と言ったでしょう? 大会には未知のコンボを見つけて持ってくる人もいるのよ。情報社会極まったこのご時世に、広まっていない未知にして凶悪なコンボ。それらの多くは、昔の忘れられたカードと最新のカードの組み合わせで発生する。時を超えて、 忘れられていたモノ(・・・・・・・・・) 、 失念されていたモノ(・・・・・・・・・) が牙を剥く」

「…………」

「まぁ、それ以前の問題として……」

部長はそこで一度言葉を切り、目を閉じながら続きの言葉を発する。

「ランダムな要素が絡んだゲームでは、時に事前準備を凌駕する 事象の偏り(・・・・・) が生まれることもあるわ」

部長は目を開き、ジッと俺の両目を見た。

「椋鳥君。三年くらい後にゲームでそういう目に遭うから気をつけてね。遊……このカードゲームではないでしょうけど」

「な、何でそんなことが分かるんですか……?」

突然予言めいたことを言い始めた部長に、当時の俺は緊張と共に問いかける。

それに対し、部長は……。

「私のデッキ構築占いがそう言ってるわ」

「それ占い⁉」

当時の俺は、「聞いたことないですけど⁉」と突っ込んでいた。

「わりと当たるのよ。副部長を占ったときも引くくらい当たってたわ。カードだけに」

「……ドヤ顔で言われましても」

「まぁ、そういうわけだから三年後に気をつけてね」

そんな部長の言葉で……夢は途切れた。

◇◇◇

体を揺すられる感覚に、俺は目を覚ました。

「レイ、時間だ。呼ばれたぞ」

「ああ……」

隣を見れば、ネメシスが俺の肩に手を置いていた。揺り起こしてくれたのだろう。

時間を見ると、三〇分かそこらしか経っていない。

加速で進行が速く、それに二回戦になれば試合数自体が少なくなるか。

「…………」

今しがたの夢について、少し考える。

なぜ、今になってあのときのことを夢に見たのか。

虫の報せ、でもあるまいが。

どうにも……今日は暗示的な夢を見過ぎている。

「三年後……か」

高校一年の春から、三年。

それはちょうど……今の時期ではないだろうか?

「レイ?」

「……いや、大丈夫だ」

思考を切り替えて、俺は案内係の人に従って再び舞台へと向かった。

……ただ、切り替えたはずのその思考は、心から離れてはくれなかった。

舞台についた俺は、一回戦同様に黒い結界を潜る。

今度は俺の方が先に入ったらしく、まだ相手の姿はない。

一回戦同様に、シルバーに騎乗する。

「…………」

二回戦に進んでも、まだ緊張はしている。

それでも、勝ち筋らしきものは掴みかけている はず(・・) だ。

ラングのように酸素マスクを装備していない相手ならば、いくらかは《地獄瘴気》も効く はず(・・) だ。

状態異常や空中の優位、そうしたもので相手を把握する時間を作り、持ちうる手札から有効なものを選択すればいい はず(・・) だ。

それで……勝てる はず(・・) だ。

『レイ』

「どうした、ネメシス」

『思考と裏腹に、表情が硬い。それに、思考の方も自分に言い聞かせているようだの』

「…………」

言われて、たしかに顔が強張っていると自覚する。

同時に、心臓が軋む。

「……嫌な予感がするんだ」

先刻の夢の内容、三年前の占い。

それが何かの暗示か、あるいは呪いのように……俺を絞めつけている感覚。

これからどうしようもないことが起こるのではないかという……予感だ。

『安心するがいい。今の私と御主は強い。どのようなバケモノが出てこようと、抗えないはずはない』

ネメシスは俺を励まし、奮起させるようにそう言ってくれた。

お陰で、少しだけ心が軽くなった気がする。

「……ありがとよ」

そんなネメシスに感謝を告げると、それから程なくして相手の姿が結界の向こうの通路に見えた。

「…………え?」

『なん……だと?』

試合開始前は結界内の時間経過は外と同じらしく、歩いてくる相手の姿はそのまま見えている。

だが、そうであるがゆえに……俺は気づいてしまった。

俺の感じていた嫌な予感が、正しかったこと。

部長の占いが……本当に引くくらい大当たりだったということを。

驚愕する俺とネメシスの前で、対戦相手は結界を潜って……舞台に立つ。

現れたのは―― チャイナドレスを(・・・・・・・・) 着た北欧風の美女(・・・・・・・・) 。

その人物こそは……。

「わー。お久しぶりだよー」

――――王国四人目の<超級>、〝酒池肉林”のレイレイ。

<デス・ピリオド>にもメンバーとして名を連ねる人だった。

「……お久しぶりです。あの、レイレイさん……事前登録は?」

なぜ、レイレイさんがここにいるのか。

混乱する頭で俺は尋ねた。

「飛び入りだよー。偶々お仕事空いたからログインしたら、抽選当たってイベントに参加できたよー。<UBM>と戦えるかもしれないイベントなんてワクワクだよー。君と試合できるのも嬉しいよー」

イベントに参加できたことが楽しいのか、クランメンバーである俺と戦えることが楽しいのか。レイレイさんはニコニコとしながら俺に応える。

……レイレイさんの言葉を聞いて納得することはある。

たしかにそういう制度はあった。欠席者が出たときの、当日抽選だ。

偶然にも欠席者が出て、偶然にもレイレイさんの予定が空いて、偶然にもレイレイさんが空いた枠に滑り込んだ。

ただの偶然、 事象の偏り(・・・・・) 。

「…………」

失念(・・) していた。

レイレイさんは普段から姿を見ず、定期的なログインも難しい。

連絡も取りづらい相手だ。

今回も、仕事で忙しいとは兄から聞いていた。

だからと言って、“トーナメント”に参加する可能性は ゼロではなかった(・・・・・・・・) 。

さっきの兄の用件は……まず間違いなく、これだ。

レイレイさんが枠を勝ち取ったという話をしようとして、やめたのだろう。

どの道、本選に上がればトーナメント表が公開されるし、先に教えて俺を無駄に緊張させることもあるまいと考えていたのだろう。

だが、今のこの状況。予選から俺とレイレイさんがバッティングしている。

ランダムな抽選結果が、トーナメント表が、同じクラン同士の対決を生んだ。

事前準備を凌駕する事象の偏り。

しかしまさか、よりにもよって、俺とレイレイさんが当たることになろうとは。

『……レイ』

ネメシスの声にも、動揺が滲んでいる。

クランメンバー同士の対決。見ようによっては一人は確実に次に進めると言える。

だが、俺個人として見たときは……恐らくは“トーナメント”最大の壁がこの戦い。

「……三度目だな」

『……うむ』

兄を除く、王国の<超級>との戦闘。

一度目のフィガロさんは、偶発的な接触。

二度目の女化生先輩は、誘拐と拘束。

そして、三度目。

レイレイさんとの戦いは……これ以上なく 戦い(・・) という形で訪れた。

アクシデントではなく、捕らえられるのでもなく、――どちらかが舞台上で死ぬまでの闘争。

俺は……二回戦にして最大の窮地に立たされたと言える。

だが――窮地に折れる俺達ならば、きっと既にどこかで膝をついていた。

『先ほど、私は言ったな。今の私達ならばどのようなバケモノにも抗える、と』

「ああ」

『出てきたのはバケモノを超越した相手だが……私は言葉を翻すつもりはない』

「俺も、負けるつもりはないさ」

「――勝つぞ、ネメシス!」

『――うむ!』

そうして、俺達にとって幾度目かの<超級>との戦いが始まる。

To be continued