軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編7話「精霊お急ぎ便」

私室の机の上に今朝はなかった封筒。そして木属性だろう精霊様が鎮座しているのを見て、僕はそっと扉を閉めた。

誰かが勝手にこの私室に入ることはない。王城医官部所属なので、このあたりは以前より厳重だ。

ちらりと見えた封蝋の色味にも見覚えがあるし……こういう時は大体にして、リシアンの仕業だ。

今度は何かな、少しお手柔らかにしてもらえたらいいんだけど。

覚悟を決めるように一息ついてから、もう一度扉を開ける。

*──*──*──*──*

レオ兄さんへ

精霊お急ぎ便です!上手く届いてる?

*──*──*──*──*

うん、上手く届いてるよ……。届いているけど開幕から心臓に悪いから、そういう事をするならせめて事前に教えてからにしてほしい。

精霊お急ぎ便とか当然のように言っているけれど、おそらくこれは人類初の所業なんじゃないかな。

ダメだ、ここで深く考えると先に進まない。

続きを――……。

*──*──*──*──*

今日は同じくソロで冒険者をやっているルカと依頼を受けに行きました。

ルカとは色々と共通点もあって、一緒にいてすごい気が楽だしいいやつです。

連れている従魔の犬も、もふもふで大人しくてめっちゃかわいい!

*──*──*──*──*

元気そうだし何よりも楽しそうでよかったよ。

辺境伯に就任して間もないし、心配していたんだ。

ソロの冒険者とは珍しいな。リシアンのことだから、あまり気にしていないんだろうけど……。友達が出来たんだなぁと微笑ましく思う。

日常が綴られた手紙を読み進める。

*──*──*──*──*

レオ兄さん、追記事項です。

ルカの連れてる従魔が、犬だと思っていたら狼でした。狼は辺境にはいない動物なので、どう接すればいいか分かりません。王都なら資料も探しやすいと思います。いくつか見繕ってくれない?

*──*──*──*──*

うん、お兄ちゃんもこれを読んで何をどうしたらいいか全く分からないよ。

しれっと動物とか言っているけれど、従魔ってことは魔獣だよね?従魔はテイムした人間にのみ従順だ。主人が従魔を制御しているとはいえ、他の者にとっては魔獣と同程度の危険性は残っている。

動物と魔獣は別物です!

どう接したらって言うけれど、もしかしてそれまで犬のように接していたわけじゃないよね?

リシアンがいうところの「か弱くてかわいいお蚕さん」は「辺境大森林で屈指の強さを誇る守護獣様」だし……。

ダメだ、この子の感覚はたぶんおかしい。

狼型魔獣の危険性についてなるべく詳細に書かれた書物を見繕わないといけない。

このままだと……犬だと思っていたくらいだ。軽く撫でるくらいのことはやってもおかしくない。

*──*──*──*──*

最後にこの手紙を届けた木属性の精霊は、ミレア姉さんの契約精霊になりたいそうです。

ミレア姉さんのお菓子を気に入っているので、そちらで暮らしたいんだって。

ダメでも側に置いててもらえたらなと思います(たぶん放っといても居着くと思うけど)

こいつのことをよろしくお願いします。

*──*──*──*──*

……最後まで爆弾を落としてくるんだね。

リシアン、精霊様側からの契約精霊になりたいとの申し出は滅多にないことです。

あとお菓子が目当てという理由も前代未聞です。

ちらりと精霊様を見ると、期待に目を輝かせてこちらを見ている。

……ミレアさんに相談しないとなぁ。

「少し話は長くなるかもしれませんが、ミレアさんのところへ行きましょうか?」

精霊様に声を掛けると、嬉しげに 瞬(またたき) きながら何度も頷いていた。そして新たな封筒を差し出してきた。

◇──◇──◇──◇──◇

「リシアンから手紙?」

首を傾げるミレアさんに、精霊様が早く読んでとばかりに封筒をペチペチと叩いている。

*──*──*──*──*

ミレア姉さんへ

久しぶり。ショコラの試作品が出来ました!

昨日、作ったばかりのを持たせたからまだ大丈夫と思うよ。

*──*──*──*──*

「ぽんっ」と軽い音をさせて、木属性の精霊様が自分よりも大きな箱を取り出した。

……ねぇ、どこからどうやって出したの?

そして当然のようにミレアさんに渡している。ミレアさんは戸惑いつつもリボンをほどいて、箱の中を確認している。

艷やかな何種類かのショコラが、中のフィリングの説明とともに並んでいた。

内蓋には昨日の日付と、もし3週間以上遅れて届いていたら破棄してほしいと書いてあった。

分かるよ、食品だから傷む可能性があるからそこを明記したのは気が利く。なのに、なぜ……精霊お急ぎ便なんて突拍子もない事をいきなり始めたのか。

そっと胃のあたりを手で擦る。

「……リシアンと御父様がショコラを作ったんですって。まぁ、あの二人のすることだから」

あの二人こと、師匠と弟弟子のやったことだから仕方がないとでも言うようにミレアさんは落ち着いている。これが、彼らの日常だったのだろうか。

*──*──*──*──*

食べたら感想を教えてほしいです。あと菓子工房の皆さんからのメッセージも同封しておきます。

それと、木属性の精霊がミレア姉さんの契約精霊になりたいと言っています。

無理だったら断ってもいいけど、そいつ植物の世話とかすごい得意なんで!せめて側に置いてやってください。

お菓子をあげると喜びます。でも、さんっざん!ミレア姉さんのお菓子じゃないと嫌だとか辺境でわがままを言ってたので……たまにあげればいいと思う。

*──*──*──*──*

……あぁ、こちらにも爆弾を。ミレアさんが肩を震わせている。

いきなり契約精霊志願なんて困惑するはずだ。どう声を掛けようかと思っていると

「もう、リシアンっ!断れるわけなんてないじゃないの!」

違った。怒ってた。

リシアンとバルドレム様が絡むとミレアさんは感情が大きく揺れて、そんなところがまた可愛らしい。

まぁまぁとミレアさんを宥めながら、とりあえずはショコラでも食べて落ち着こうかと声を掛ける。

ちらりとショコラを見て

「……こんな楽しそうなこと、私も参加したかったわ」

ほんの少し拗ねた声色にまた、可愛い人だなと思う。そして、かつて師弟の三人が共に暮らしていたことに……少し妬いた。

さて、リシアンへ返事を書かないといけないが言いたいことは多い。

まずはどこから話さないといけないだろうか。

とりあえずは本棚を見渡して……「狼の 咬傷(こうしょう) 実例と創傷の特徴」と書かれた一冊を手に取った。