軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編6話「ショコラ」

ミレア姉さんへ

カカオの収穫が始まりました。専門店のオープンに向けて今めちゃくちゃ忙しいです。

工房の皆からも姉さん宛の手紙を預かっているので同封しておきます。

新しい味が出来たらそちらに送るので楽しみにしていてくださいね!

*──*──*──*──*

「さて本日は試作です。各自、準備はいいですか?」

菓子工房長の凛とした声が響く。

事の発端はミレア姉さんへのお土産に、俺が辺境に持ち込んだ一本のカカオの苗木だった。いや、王都でショコラがおいしかったからこっちでも作れないかなーっていう。

温暖な環境を好むカカオは「自分で何とかしなさい」って後日、返された。

とりあえず精霊たちに頼んで温めながら育ててたんだけど、カカオって単体じゃ甘くないんだな。

果物みたいに甘い物かと思ったけど違った。

王都からショコラを送ってもらって研究してたけど、貰いすぎたから菓子店に何かの参考になればと思って差し入れたが最後。

今思い出しても怖かった、勢いが。

「どうやって作るのか」「材料は何なのか」と怒涛の勢い。

カカオを増やすこと、そしてショコラ専門店を必ず立ち上げることがその場で決定した。速いし強い。

そんなこんなで菓子工房にちょいちょい呼び出される俺に、ついに師匠がキレた。

ここでも最強なのはやっぱり菓子工房の女性陣とショコラだった。

無理矢理に食わされた一粒でジジイ、即陥落した。

そして師匠は設備の大半を整えた偉大な出資者となった。

短期間で温暖な気温を保つ農園ともいえるレベルの巨大工房を誕生させた。さらには加工に必要な機械まで導入した。

魔石を惜しげもなく使っているしさぁ……侯爵家の本気を見た。

さて、ショコラの生産にあたっての一番のネックは甘さ。砂糖は超高い。ないわけじゃあないんだけど、他国からの輸入品だしそんなんで作ったら平民には手が届かないレベル。

俺だってゴルディの特別なご褒美分くらいしか買わないし。

で、今回は砂糖の代わりになる素材を探して試作しましょうの会。

「私たちが準備したのは巣蜜を細かく砕いて乾燥させたものになりますね」

菓子工房らしく正統派。

「液体だとレシピ上、再現が出来ると思えなかったのでこちらを準備しました」

なるほど、やっぱそうだよな。

「俺は中を甘くすればいいと思ってな……ナッツとドライフルーツを蜂蜜と白樺シロップにそれぞれ漬け込んだ物だ」

師匠が何かすげぇ似合わないもの出してきた。

筋骨隆々のジジイがカラフルな蜂蜜漬けの瓶を持参。何も言ってないのに無言で後ろ頭を叩かれた。

「カカオだけでショコラを作るのが一番品質が安定するだろう!温度管理がショコラ作りには大切だからな?甘みはフィリングで調整した方が断然いい」

何かめっちゃ詳しくなってるし語ってる。

「で、リシアンは何を用意してきた?」

こう、何か人が語った後って出しづらいよね。

「俺はこの」

小瓶に入った淡いクリーム色の粉末。

「グリチライザの粉末か!」

……そして人が言う前に正解するのもマジやめてほしい。薬草から抽出した薬の原料になるやつだから、師匠にすぐバレるのは当然だけども。

「そうだけどさぁ、何で先に言」

「お前はえらい!」

いや、聞けよ。

俺が持ってきたグリチライザ粉を少し味見してから「この砂糖と比べ物にならない甘み。少々薬草味はあるが、組み合わせ次第でこれは化けるぞ」とめっちゃ褒めてはくれるんだけどさぁ。

「リシアン!やっぱり上級薬師としての実力はあるぞ、お前!」

「やだよ、何で菓子作りの成果で上級薬師になるわけ?!」

こんなにも上機嫌で褒められてもうれしくないことってあるんだな。

薬の素材となるものと組み合わせて「これは新たな薬草菓子として効果が……」とか熱く語ってるけど、落ち着いてくれ。皆ポカーンとしてる。

落ち着いたところで、いざ試作。

外側は師匠の言う通り、やっぱり何も混ぜないほうがつやつやして見た目もいいのでこれを採用。

甘みはフィリングで調整することで方針は決まった。

「あ。これ、うまい」

小さく切り分けた巣蜜にシンプルにコーティングしただけで、サクサクした食感でフツーにうまい。胡桃あたりを追加してもよさそ。

「こっちも……おいしいです」

女性陣に好評なのはナッツの蜂蜜漬けや、ドライフルーツを刻んだものにほんの少しのグリチライザ粉末を追加したもの。

季節によって味を変えたいとか、どのフルーツが合うかで話は弾んでいる。

師匠?黙々と配合を変えながら試作を続けている。ちょっと真剣すぎて声も掛けられないから、あれはスルーしとこう。

俺は俺でふと思い出した組み合わせがあるから、それの調合中。

ふわりと爽やかな香りがするのに、周りも気が付く。

「……リシアン、何を混ぜているの?」

「え?ミントの精油だけど」

何か前世の店であったと思う。色んな味の「アイス」が並んでて、俺その中でも淡いグリーンに小さなショコラの欠片が入ったやつが好きだった。

たしかショコラミントだったと思う。これは間違いない組み合わせ!

「……臭み消しになら分かるけど、食べるの?」

「私は虫除けのイメージが強いわ、それ」

なぜか反応がイマイチ。巣蜜と……食感の追加に刻んだナッツを追加して、と微調整をする。

出来立てを食べると、甘みと爽やかさが広がる。

うん、やっぱ間違いない組み合わせだったなと満足する。

「……そんなにおいしい?」

味が気になるらしい菓子工房の面々の分も追加で作って手渡す。

最後にゴツい手がぬっと出てきて、反射的に手を引っ込める。並ぶな、ジジイ。

食べた後の反応は、まちまちだった。

「慣れれば癖になるかも?」

「えー、私は無理。使っている石鹸と同じ香りなのよ、これ」

鉄板の組み合わせだと思ったんだけど。師匠からこの味の余った試作分は全部、お前一人で持ち帰れとまで言われた。ひどい。

好きな味だから俺は食べるよ?!

師匠渾身の酸味の強い姫林檎をドライフルーツにして蜂蜜漬けにした物に、シナモーネとグリチライザ粉で風味付けたのは確かにおいしかったけど。

……しかも微妙に薬効まであるときたし、やっぱり師匠にはまだまだ敵わない。

◇──◇──◇──◇──◇

「お疲れ様です。新たな名産を作ろうとするとはご立派です」

……何でクレメンテは俺より年下なのに、たまにこうやって親のようなことを言ってくるのか。

色々な味がある、指先ほどの小さな試作ショコラは全部クレメンテに託す。

井戸端会議常連のクレメンテだから、いい感じにどれが人気かをリサーチしてくれるだろう。

「皆さん、喜ぶと思います」

うれしそうに眺めているから、大粒の一つを口の中に放り込む。

固まっているクレメンテに

「俺のオススメ」

と言うと、やっと口を動かし始めて……すぐに止まった。

「……領主様?これには何を?」

「ショコラミント!俺の好きなやつ」

無言で咀嚼して、飲み込んだ。

「この味だけはやめておきましょう。かなり人を選びます」

真っ直ぐな目で言われたので、さすがに「はい」としか言えなかった。

ショコラミントは、この異世界にはまだ早い存在だったのかもしれないと思った。