軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編8話「再会と初見」

ルカのもとにトゥーリが帰ってきた、らしい。

連日連夜、火乃から人間言語を叩き込まれてえらく 憔悴(しょうすい) しているようだとは聞いていた。

が、こんなにも機嫌が悪くなっているとは聞いてなかった。

『何で俺が人間なんかの……』

と、今もまだぶつぶつ言ってる。

『これだから教会育ちは!プライド高すぎー』

火乃がふんっと鼻を鳴らしている。

「教会育ちって何?」

聞いてみると、精霊たちには大まかに言うと2種類の生まれがあるらしい。

辺境大森林のような自然で生まれ育ったものと、教会の信仰心で生まれたもの。後者は精霊信仰がある中で育ったので、自分は人間より偉い存在だと思っている節があるんだって。

「だからってお前も、育ちを理由に突っかかってんじゃねぇよ」

火乃のことは軽く指で弾いておく。あと喧嘩は他所でやれ、俺を巻き込むな。

それでも、トゥーリはルカのためになることは理解しているんだろうな。だいぶ発音も上手くなったらしい。

しかし、人間言語は恥ずかしいとかで一向に話したがらない。やれよ、通訳。

そんな中「スノウモスルァーたちがリシアンとルカを呼んでる」との知らせが入った。

何でルカも?と思ったけれど、精霊たちもそこまで聞いてなかった。

もっかい行ってちゃんと聞いてこいとは言ったんだけど、戻って来ないからたぶんどっかでサボって遊んでる。あいつらそういうとこあるんだよ、ホント。

そんなわけで、今日はルカたちをお蚕さんたちの群れの場所まで案内している。

あそこは綺麗だし……まぁ、ルカなら連れて行っても問題ないだろう。 銀影狼(シルフルウールフ) も守護獣ということが判明したし、それが認めたということは主人のルカも危険な存在ではないはずだ。

深層部の入口にはぽつんと白い影。……またお迎えに来ちゃったのか。もう少し奥で待っていてくれてもいいのに。

「スノウモスルァー」

声を掛けるとうれしそうに擦り寄ってくるので撫でる。やっぱうちのもふもふが一番手触りがいいなと思う。

『……リシアンが言ってたスノウモスルァーってその子、なの?』

ふと気が付けば、ルカがだいぶ距離をとったところにいた。

『そうそう。白くてもふもふな俺の友達のお蚕さん』

『聞いてない!何で……お前、そんな……守護獣だろ! 幻蚕(ファントムモリス) を従えているなんて嘘だろ……』

別にトゥーリには……いや、言ってねぇな。幻蚕じゃなくてお蚕さんって呼んでた気がする。

『大人しいから大丈夫。なぁ?』

そう声を掛けると頷いている。そしてじーっとシルフィーを見つめている。

守護獣同士、通じ合うものでもあるのだろうか?

『リシアンも、守護獣様と縁があるからシルフィーのこともすぐ受け入れたんだね』

やっと警戒心が解けたらしいルカが穏やかに笑ってそう言うけど……。「犬と思ってたから」とは言えず、とりあえず笑って誤魔化しといた。

そしてルカたちを群れの縄張りのところに案内をする。

相変わらず季節も関係ないとばかりに咲き誇る花々と、白銀の 翅(はね) のお蚕さんたちが舞うこの場所はいつ見ても幻想的だ。

そしてぽつんと片隅にある黒い塊にも声を掛ける。

「座布団、また端っこにいんの?」

ポンポンと撫でるとこちらはさらりとしているが、冬毛仕様なのかな?いつもより毛足が長く手が吸い込まれた。

パチッと赤い複数の目が何かを訴えるようにこちらを見ている。

『ギャーーーッ!! 玄蜘蛛(アトルムアラクネー) ?!ルカ!シルフィー、助けて』

『……何だよ。うるせぇな、座布団はただの織物職人だから気にすんな』

突然のトゥーリの大声に顔を 顰(しか) める。いちいち騒ぐなよ、こんくらいで。座布団も俺の後ろに隠れたぞ、こら。

『だだだだって、そいつ!俺たちの天敵だぞ?』

『座布団は大丈夫ー!スノウモスルァーたちが捕まえてきたのー』

『そうだよー?あとリシアンがテイムしてるしぃ?』

うちの精霊たちの落ち着きっぷりを見習えよ。

「相変わらずリシアンのいるところは騒がしいな」

楽しげに言うその声の持ち主はただならぬ雰囲気を漂わせている。

「あ、お久しぶりです」

始祖の精霊様だ。何かこう相変わらず人外っぷりがすげぇな。

「そっちが銀影狼が選んだという子か」

ルカの方を見てそう言って手招いている。

『あの……?貴方は誰でしょうか?それとよく分からない単語が混ざっていて』

精霊言語で話すルカに始祖の精霊様もポカンとしている。そしてこの方が出てきたということは「スノウモスルァーと始祖の精霊様」が呼んでたのか?

いつもいるわけじゃないしなぁ。まったく……サボんなって伝令に来たやつには注意しとかないと。

『ルカ、この人?は始祖の精霊様。シルフィーの主人を見たかったみたいで呼ばれたんだと思う』

『……ふきゅう』

と謎の音を立ててトゥーリが地面にひれ伏した。

『で、ルカは精霊言語しか聞こえないし意味が分かんないっぽいです』

『簡単な言葉なら分かるよ?でも随分と前の記憶だから覚えてない単語も多い』

それは知らなかったな。じゃあトゥーリの通訳さえ上手くいけば言葉の覚えも早いのかもしんない。

『あ、こいつに通訳させたらルカももっと楽になるんじゃないかなーと思ってて……どうにか出来たりします?』

『バカっ!!誰に願い出てんだ?不敬なことを言うな!それに人間言語だと他の人間にも聞かれるだろう?!恥ずかしいから絶っ対にイヤだ!』

鷲掴んだトゥーリがギャーギャー反論してくる。

かつて俺の耳飾りに、精霊言語翻訳と発話機能を付与してくれた始祖の精霊様だからいけると思った。

始祖の精霊様はお腹を抱えて、声も出さずにめっちゃ笑ってる。意外とこの人、笑いの沸点低いよね。

『リシアンは本当に相変わらずだな。そちらの子、こっちへおいで』

ルカにも分かるようにか、精霊言語で話してくれている。

『ルカ、です……あの?』

助けを求めるようにこちらを見る目は困惑していた。ごめんって。俺もこの方が呼んでるとは知らなかったから許して。

『……うん、良き人間を選んだようで何より』

シルフィーは始祖の精霊様の前にきちんと伏せをして撫でられている。

『何か触媒になる物を持っていないか?少し手伝ってあげよう』

まだ事態が飲み込めず、おろおろしているルカの腰のポーチからシルフィーが小さな革袋を咥えて取り出した。

そして始祖の精霊様に渡している。賢い犬……じゃない、狼だなと感心する。

『シルフィーの牙?』

抜けた乳歯をルカが取っていたらしい。ほんのり透明感のある乳白色の牙は、ごく薄い銀色を帯びていて綺麗だった。

『いい物を取っていたね』

そう言って、何やら魔法を付与してくれているようだった。――魔法の余波で、いつもは耳まで覆っているルカの黒髪がぶわりと舞い上がった。

耳先が尖って特徴的なその形は……声が漏れかけるのを慌てて抑えた。

忘れもしない、この耳の形と黒髪……カラベルト伯爵家の特徴だ。

友人である王家の影との初対面時もこれで出自を見破って、ちょっと大変だったからよーく覚えている。

王家の影を多数排出した隠れた名門であるカラベルト伯爵家に、ルカの名前はない。王家の影となったルミスと同じく抹消された存在なのかもしれない。

『耳飾りにでもしたらいい。そこの精霊の声は、お前に触れている間はお前にしか届かないよ』

この声でハッと意識を今に向ける。……ちょっと、この気になることは後で考えよう。

それにただの推測でしかないしな。

「 」

ルカの肩に乗ったトゥーリの口がパクパクと動いているが、こちらには何も聞こえない。

パッとこちらを見るルカに聞こえていないよ、と首を横に振ってみせるとうれしそうに笑っている。

『ありがとうございます』

始祖の精霊様に笑顔で御礼を言うルカに、こちらもうれしくなる。

『リシアンも!すごくびっくりしたけれど……君と知り合えて本当によかった』

……とりあえず、迷惑ではなさそうだしよかった?トゥーリの通訳もこれでうまくいきそうだし。

「リシアン、私はいつでもお前たちを見守っているよ。……これからも友達と仲良くな?」

子どもに言い含めるような口調で、最後にそう告げて消えてしまった。

言っている言葉自体はそんなに難しいことではない……けど、少しだけの嫌な予感に肌が 粟立(あわだ) つ。

それを振り払うように、ルカの持っているこの牙を耳飾りに加工するため行き付けの鍛冶工房を紹介しよう。そうしよう……今日はどうも考えることが多過ぎる。

その日の夜。

*──*──*──*──*

ルミちゃんへ

*──*──*──*──*

宛名だけを書いたその手紙は、それ以上は一行も進むことがないまま 屑籠(くずかご) へ捨てた。