軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編最終話「お疲れ様」

騎士団が王都へ帰るのを街をあげて見送っている。一部隊はもうしばらく警戒のために残ってくれるみたいだけど、それ以外は皆王都へと帰る。真っ先にギンさんが……隣国軍の隊長よりも厳重な警備に囲まれて馬車に連れられていく姿には爆笑した。

館と主と騎士団長が何やら握手をしていたのは、すげぇ気になるけど見なかった事にしよう。嬢の数が合わないなとかも決して数えてはいけない。

「聞きしに勝るとはこの事かな?お手柔らかにと頼んだのに辺境伯は全く」

と、今回のあらましを知る騎士団長には終始この感じで絡まれている。これがあるから館と騎士団長とのあれこれなんて俺も迂闊に聞けないんだよ!

騎士団長の息子だしと、アグニスにからかわれてんのを何とかしてと頼もうとした。けれど記録官は忙しいらしく最後まで捕まえられなかった。面白くない。

新年祭の時期に王都に立ち寄った際にはぜひ、我が家の夜会にも参加してくれと騎士団長から直々に誘われて困ってんのに。

我が家の料理長が作るデザートは絶品でとしきりにアピールしてくるのは、火乃を連れて来てくれとのお願いだろう。

あいつ、王城で色んな人からおやつをもらった!また行きたいとか言ってるからしばらく連れて行くの怖いんだけど。

とりあえず陛下は確定している。まさか宰相だとか重臣と呼ばれる面々にまで遭遇してないよな?と思ったけどこれは聞かない方が俺の身のためだろう。

「リシアン!」

駆け寄って来るのはルイシン様。

「此度は……」

ちょっとさっきまでのうれしそうな顔はどこいきました?少し迷ってから、やっぱりにこやかに

「よくやってくれた。民に被害がないのが一番だからな。あとはこちらに任せてくれていい」

なんて健気なことを言ってくる。めっちゃいい子。どこぞの王弟はこちらに色々押し付けてこようとしていたというのに。まぁ、全部押し返したけど。

「あ、そうだ。ルイシン様、一つ頼まれてくれます?」

そんないい子には報わないとね。

「え……。いや、申してみよ」

一瞬すげぇ嫌そうな顔はしたけど、立ち直るのが早いな。まぁあの叔父がいたらそうなるもんなんだろう。

「エルシア様の婚約者候補、おりますね?ここだけの話、どうやら血縁のようでして……お願い出来ます?」

互いの祖母が姉妹ってだけで、別にそんな近しいわけではないけども。

「あぁ、やっぱり。近い親族なら婚姻は無理ですもんね」

あっさりと納得されている。そんなにも似て見えてたんだな。断るのに都合がいいし、この様子だと簡単に候補から外れそう。

「なのでエルシア様のこと、お願いしますね。……あのやべぇのに困ったら、俺が止めるんでいつでも呼んでください?」

「分かった。その時は頼む」

平然としているように見えて、耳だけが真っ赤でやんの。

あのやべぇので通じるあたり何とも言えないけど。まぁ、やろうと思えば止められるだろう。あの人もいい加減に大人なんだしそのへんの良識はあるだろう。

「あ、エルシア様」

ちょうどこちらへ来る最中だったんだな。どこから聞いていたのか……。

「何?!」

照れ隠しなのかいつも以上に元気いっぱいだな!

「いや、俺が用があるのはルミちゃんで……ちょっと借りていい?」

他の侍女を連れて足早に馬車に乗り込もうとしているエルシア様に、ルイシン様が一生懸命に話し掛けようとしているのをしばし眺める。うん、うまくいきそうで何より。

「何です?俺も忙しいんですけど」

こっちはこっちで機嫌悪いな、おい。

「伝言。いつ誰が見ているか分からないから油断しないんだよ?」

お、ルミちゃんが分かりやすく動揺している。

「あと変装するならもっとちゃんとやらなきゃ。侍女をやるなら何で自分の髪を伸ばさなかったの?それが無理なら何で毛先だけの付け毛にしなかったの?詰めが甘い」

完全に沈黙している。

「以上」

最後にルカから教えてもらったハンドサインをして見せる。これあれだよね?キツネか犬だった気がする。何かこういう手遊びあったなぁと前世を懐かしく思う。

「……言われなくっても分かっているんですよ。大体、全部リシアンが悪いんですからねっ?」

「何でそこで俺のせい?!」

王弟殿下と俺がいかにタチが悪いかと散々に罵られることしばし。言いたいだけ言って落ち着いたのか立ち去ろうとする。

「伝言の返事は?」

「……元気にやってるならそれでいいです」

二人して似たようなことを言うもんだなと思った。

「ルミちゃんさー、いい加減にギンさんから休み取れって言われてんでしょ?そのうちまた来なよ。今年は紅鱗鮭が豊漁みたいでさ、奢るよ?」

「リシアンじゃないから食べ物にはつられません!……考えときます」

いつもより少し早く歩いて、エルシア様の馬車へと向かうルミちゃんを見送った。

さて、兄上も探さないと。また薬師たちに捕まってたりしないかなと心配だし!

探すと案の定だよ。薬師集団の真ん中に兄上。

「散って散って!兄上はもう帰らないといけないんだから」

邪魔な薬師たちの間に割り込む。

「リシアンはレオナリス様が身内だからいいけど、俺たちには今しかないんだよ!」

知らねぇよ。気になるなら王都の合同薬師研修にでも行け。

これを言ったら「倍率を知らないのか!」とめっちゃ怒られた。

「王都へ戻ったら医官と薬師とで合同研修が出来ないかを提案しようと思っています。その際には皆さんをお招きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

喜んで!という薬師たちはいい加減に解散しろ、解散。兄上、ほっといたらいつまでも相手をしてそうだからここいらで連れ出す。

「兄上、遅れますよ?そろそろ馬車の準備も出来ているんで……ん?」

え、兄上がまた不機嫌そう。どうしたんだろ。

「リシアン……また敬語に戻ってる。あと兄上じゃなくてレオ兄さんって呼ぶって約束したのにすーぐ破るんだから!」

めちゃくちゃ子どもみたいな言い方になってるし!

「笑ってないで何とか言ってよ!」

「いやいや、ごめんね?レオ兄さん」

まだ堪えきれない笑いをどうにかこうにか抑える。

レオ兄さんのことは尊敬はしているし完璧な方だと常々思っていたけれど、そうではない一面もだいぶ見えてくるようになった。

「ホント……色々心配かけてごめん。でも大丈夫だったでしょ?」

「リシアンのそういうとこ、本当にずるいよね。いいよ……無茶はしないと約束してくれるなら」

最後にはいつものようにくれぐれも何かあったらすぐ報告、追加で新しい事をする時は必ず事前に教えろと言い含めるの姿はいつものレオ兄さんだった。

◇──◇──◇──◇──◇

騎士団の見送りが終わるといつもの辺境の街。集団魔獣暴走がなかったことで、魔獣肉が取れなかったと騒ぐ飲食店。あの王弟殿下だから仕方がないと揃って言っている。

しばらくは食肉になる魔獣の討伐依頼が増えそうな予感。

武器工房は自慢の武器を使えなかったと嘆いてはいたものの、新たに騎士団へと販売ルートが出来たのでこちらはむしろ上々。

これで託児院の子どもたちが帰って来たら、いつもの街の風景になる日も近い。

さて、帰って来たはいいが冒険者ギルドの様子がおかしい。

「オッツー」

「お疲れ様でございますぅ」

こいつら何かやべぇもんでも食ったかなと思い悩むことしばし。

「リシアン、そんなとこで何してるの?」

「ルカ……あいつら、変なんだけど?!」

困惑している俺にルカはしばらく周りの様子を見て「あぁ」と納得する。

「だいぶうまい具合に広まったね?ほら、あの言葉。耳飾り、外してみたら?」

楽しげに笑っているから、そういう事かと納得する。どうやら冒険者たちは精霊言語で挨拶をしているらしい。翻訳機能のせいで妙な変換になってんのな。

「あー……しばらくしたら慣れる、かも?」

精霊を見るたびに誰かしらが言う微妙な発音の「お疲れ様」は聞いてらんなくて、そのまま薬店に戻ることにした。

「リシアン、帰ったか!おちゅかれちゃま」

「何とち狂ったこと言い始めてんだ、ジジイ!」

見て!一瞬でこの鳥肌やっべぇの!!

「何がだ?!誰が広めたのかは分からんが、古代言語ではないな。精霊様の言語だろ、リシアン」

……あぁ、そういう。

「お前、分かるんだよな?俺のおちゅかれちゃまはちゃんと言えてるんだよな、おい……目を逸らすな。それと意味を教えろ」

前言撤回。絶対に慣れない。

どうしよう、とりあえず何とかしないといけない。ポケットにいた白を取り出して、ジジイにそっと渡す。

「白、このジジイとしばらく遊んでて。俺は急用がある」

「あっ!ちょっと待て、リシアン!!」

そう言いながらも、己の手元にいる白からは目が離せないらしい。許せ、白。終わったらすぐに迎えに行くからしばらくはジジイの相手を頼む。

待てと言いつつも追い掛けてくることがないジジイに安堵して、ゴルディを呼んで森に向かう。

始祖の精霊様に会わなきゃ!あの人は前に「ありがとう」だけ発話から除外してたくらいだし……今度は逆に「お疲れ様」の翻訳を除外もきっと出来る。

ていうか、何としてでも頼んでやってもらわなきゃ困る!

早く落ち着いた日常に戻りたい……そう思いながら、慣れた森への道を駆ける。