軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編41話「伝承」

とりあえず無事に王弟殿下のせいになりそう。

騎士団も撤退の準備に慌ただしくしているが、この後は外交問題のため王城はさらに忙しくなるそうで。

エルシア様もまた王都へと向かうらしいがその前に……保護していた森の仔を住処へ送り届けるのに着いていくと言ってきかない。

数人の護衛をつけて、というか見張りの意味もあるだろうけど条件付きで本人の希望が叶ったところ。

「リシアン様!借りていたもの、返すのが遅くなって悪かったわ」

「いや、別に?ルイシン様とは話せた?」

戻って来たネックレスを着けながら問い掛ける。

「……何て物を渡してきたのよ」

声を潜めてそう伝えてくるエルシア様に「へぇ、ルイシン様はけっこう色々話したんだな」と意外に思う。

まぁ、でも好都合かな。色々知ったこの王女様をおいそれと祖国に返せなくなるよねと思う。

「まぁ、あの叔父は手強いと思うけど頑張って?」

顔を赤くして「何の話なの?」と怒る素振りを見せているけれど……王族の名前を上げる時にはいつも、真っ先にルイシン様から呼び始めるなんて可愛いとこあるよなと思って笑う。あんまり笑い過ぎたらさすがにマジで怒られそうだからこの辺でやめとくけど!

「ねぇ、聞いてるの?」

というエルシア様を軽くあしらうと、むくれていた。

深層部まで辿り着くとお蚕さんたちが呼び寄せていたのか、森の仔たちも揃って出迎えに来ている。

年若いのから年配のまで、意外と人数が多いなと思って眺める。ほとんどが女性だけど、たぶんそういう民族なんだろう。

あと一斉に人を見てはその拝む仕草は何なの?無事に送り届けることは出来たのでよしとするけれど。

その内の一人とエルシア様が何か話していると思ったら、抱き合っている。

「お祖母様!お会いしたかったです」

ポロポロと涙が頬を伝っている。エルシア様がしがみついて泣いているから、森の仔の手の動きでする会話は成り立たずにあやすようにずっとその背を撫でている。

そして、俺を見ると手招いてくる。俺も?

とりあえず撫でたりしたらいいのかとそっとエルシア様を頭に触れると……すごく残念そうな目で見られた。違ったか。

「……何?リシアン様」

びっくりしたのかエルシア様は泣き止んだので結果オーライだと思う。

エルシア様の祖母だという人が、しきりに何かを伝えようと忙しく手を動かしている。

エルシアがその様子を見て、俺に問い掛けてくる。

「リシアン様……そうね、年の頃で七十くらいかしら?それくらいの年齢に親戚っている?」

「じいちゃんがそんくらいと思う。……生きてるかどうかは知らないけど」

確かそのくらいだったはず。子爵家に引き取られてからは一切関わりがないからだいぶ記憶もぼんやりしてるけども。

「女性で。髪色は私たちと同じよ」

「あー……」

こないだルミちゃんがつらつらと俺の出自を述べていたのを思い出す。

……祖母か?あぁ、そういや母さんが母譲りの髪色でと言ってた気がする。

「そのせいでお父さんはあたしの事もあんたの事も嫌いだから。近付かないでよ?また機嫌が悪くなるんだから」

……久しぶりに妙にハッキリとそのへんの声音も思い出したなと苦々しく思う。母さんを産んで間もなく亡くなったからだろうな。

「祖母が、おそらく。見たことはないんではっきりとは言えないけど」

大体は一致するけど、絶対そうってわけではないから言いづらい。それも故人だし……。これはエルシア様も知っているけど、黙っていてくれるみたいだしそのままにしとこう。

「おわっ!」

顔をよく見せてとばかりに引っ張られて少しバランスを崩す。そしてめっちゃ撫で……力強いな?!この人!

「リシアン様のお祖母様の妹なのよ。お姉様は前回の集団魔獣暴走で、グラティア王国に危険を知らせに向かって以来ずっと行方が分からなかったそうなの」

「え?じゃあ俺たち」

「黙って」

親戚なんだ、たぶん。黙れと言われたから黙るけども。その複雑そうな表情にこっちもリアクションが取りづらい。

そんな嫌がらなくてもいいと思う、お兄ちゃんは。

◇──◇──◇──◇──◇

帰りの道中で、しばらく考え事でもしていたのか黙っていたエルシア様がやっと口を開く。

「それにしてもリシアン様、何をしたの?魔を統べる者……?」

知らない。俺は何も知らない。

どうやら森の仔たちが俺を崇める仕草はどうやら「魔を統べる者」と思っているらしく、マジで崇められていると判明した。

ひたすらに知らないと言い募る俺に、勢いよくエルシア様が森の仔に伝わる伝承とやらを教えてくれる。

――天と地を司る魔獣を従へし、魔を統べる者といふ者あり。その者現はるるとき、人々は力尽き世は闇に包まれり――

聞いてから、始祖の精霊様と裁定の場面かなと思った。けれど……天と地を司る魔獣。お蚕さんと蜘蛛たちを引き連れた俺がどうもおかしな具合にマッチした気がする。

「……ちなみに森の仔の中で魔を統べる者ってどんな扱い?」

「難しいわね。こちらの言葉に合わせると……魔王?でも、そんな悪い意味じゃないわよ?禁忌を侵さなければ守ってくれる存在で!」

慌てて言い募るし、それやっぱ始祖の精霊様だよなと改めて思ったけれど……この事もまたそのうちルイシン様から聞くだろう。これ以上この話はやめておこうと思ったけれど。

「その子たちも言ってるわよ?ご主人ご主人って……守護獣様なんでしょう、その子たちも。だからリシアン様を魔を統べる者と森の仔は認めたのよ」

「え?」

隙あらばポケットから出てきたがる白玉もちを押し込んでいたら不意に声を掛けられる。てか、こいつらポケットとフードを定位置にしたいのか外に出たいのかマジ分かんねぇ。

「森の仔は守護獣様の声が聴こえるのよ、リシアン様?昔はもっと色々な能力があったみたいだけれど、今はこれだけね」

待って待って。そんな事を知らされたってどうすりゃいいの?白玉もちを押し込む手もさすがに止まった。

「母から聞いた話では、守護獣様以外の魔獣だったり……力が強い森の仔には精霊様のお声も聴こえる方がいたんですって」

ヤバいヤバい。これ確実に遺伝か何かじゃん。絶対、祖母が森の仔な気がする。エルシア様とは血縁だと、この事でマジで確信した。

エルシア様からは

「まだ何か隠しているでしょう?」

と聞かれても最後まで「知らない」と言い続けていたら「そういう煙に巻くとこ大っ嫌い」と言われた。

隣国とはこれからまだ少し揉めそうだけど、この気が強い姫君なら何とかなるかなと思った。

「ルイシン様の前ではもうちょい素直にね?俺は親戚の兄ちゃんだからいいけど」

と言ったら

「だから親戚ぶらないでちょうだい!」

そう言いながらも、口元の笑みは隠しきれない。