軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

春編40話「祝杯」

「お疲れ様、リシアン?」

館での尋問……もとい報告を終えた俺を待っていたのはルカだった。

「ありがと……超疲れた」

わざわざ待っていたという事は、きっと話があるんだろうなと思い連れ立って歩く。ちなみに俺は師匠から「もうお前がいるとかえって邪魔だから帰れ!」と追い出されただけだったりする。まぁ、願ったり叶ったりだけど。

俺に乗じて一緒に場を離れようとしたギンさんは即座に騎士団長に捕まった。何かを訴える目をしていたが、見捨ててきた。王族なんだから頑張れ。あとは任せた。

薬店に帰り着いて一息つく。長かった一日がやっと終わりそう。

「集団魔獣暴走は急に森へ現れた王弟が止めたんだって?」

いたずらっぽく笑うルカにそう聞かれたけど、分かってて聞いてんなと思う。

「知らない。街道でもなーんか隣国の軍勢に不可解な事があったらしいけど、それも王弟がやったって事にしといた」

しばらく真顔を装ったけどダメだった。二人で声を揃えて笑う。

「やっぱそっちはルカだよな?!シルフィーがやったの?」

「うん。森はリシアンでしょ?シルフィーがそう言ってたからこっちもいいかなと思って」

イタズラが成功した子どもみたく笑ってる。

王弟の仕業にしてしまえという目論見はうまくいきそう。向こうも勝手にエルシア様を俺の婚約者候補に仕立て上げたんだし、お互い様ってことで。

それになんたってあの人、前科……じゃない今までの功績の数々があるから多少の無茶苦茶だって誰もが納得するって。日頃の行いってこういう時に出るよね。

「あーあ、これでリシアンに借りを返せると思ったのにこれじゃ無理か」

残念、というルカに借りって何のことだろう?と思って聞いたけど返事は来ない。その代わりに

「……新しい守護獣が生まれたんでしょう?」

なんてことをさらって言ってくるし。ルカは精霊たちが新しい守護獣の誕生ではしゃいでいたのもあって、すんなりと事態を把握していたらしい。

「うん、白玉もちっていう……こいつら」

「どこに収納してるの……!」

そう言ってまたおかしそうに笑っている。いや、こいつら言う事聞かないんだよ。ポケットとフードを定位置と決めたらしく、離しても着いてきて大変なんだけど。

師匠のゲンコツが落ちるのを目の当たりにしてから、俺を守ると張り切っているらしい。さっき精霊たちに聞いた。頼むから森に帰ってくれ。守護獣なら尚更だよ。

「それでね?その時、精霊たちが森に向かってたんだけど……リシアンのとこに守護獣がいるって。リシアンのとこに行かなきゃって精霊たちが言ってた。このリシアンの名前だけ他の人にも聞こえていてね?」

「えっ……」

何それ、困る。こちらの言葉……人名だから精霊言語の枠からはみ出たってことなの?

「まぁ、正確にはリシアンじゃなくてリピニャアだけど」

それならなセーフか?いや、ダメか。何かのタイミングでバレそう。てか、リピニャアがやつらの共通になってんのか。せめてちゃんと呼べ。勝手に人の名前を発音しやすい謎言語にするな。いやでもリシアンだといよいよマズいしと悩む。

「とりあえず古代言語でピニャーはお疲れ様だよって広めといたから安心して?」

こういう情報操作は得意なんだよ、とルカが相変わらず穏やかに笑ってそう言う。

ピニャーは古代言語ではないけれど、精霊言語ではお疲れ様という意味だ。完全に嘘ってわけではない。

とりあえずうまくいきそうでよかったと、ルカと乾杯でもしてこんな日くらいは飲んで……今は色々と終わったことを喜ぶことにする。

「そういえばルミスと会ったよ。会ったというか見かけただけなんだけど」

ルカはあまり酒には強くないのか、ふわふわと笑っている。そして一度笑いだしたら止まらないしご機嫌だ。

「へぇ、どこで見たの?」

ご機嫌なルカには悪いが、話で聞いたルミスがあのルミちゃんとは限らない。別人疑惑のが強い。

「リシアンと同じ髪色の親戚?の人といたよ。久しぶりに見た弟が妹で」

笑い転げてるけど、危ねぇ。飲んでる途中だったら確実に吹き出したと思う。マジであのルミちゃんがあの弟なのかよ。あとエルシア様は別に親戚でない。同じの髪色なだけの他人。

弟が妹って……ルミちゃん、あの侍女仕様は仕事なんだけどな。似合ってるか似合ってないかでいうと、すげぇ似合ってる。

でも普段を知っているだけにすっごい微妙な気持ちになったな、あれは。

「あんな変装なんて見れば分かるよね?あの 鬘(かつら) だって質はいいけど、あれじゃだめだよ。見たら分かるもん」

せめて生え際だけでもある程度は地毛を使わないと不自然だと語っている。同意を求められてもそんなん素人目には分かんないけど……。そして、やっぱそういう教育を受けてたんだなと思った。あと単純に興味深かったのでちゃんと聞いた。

それにしても散々ダメ出しをされているルミちゃん。その気持ちを思うとあまりにも不憫だった。

今度、何か好きそうなもんを差し入れてあげよう。

「話したりはしなかったの?……呼ぼうか?」

せめてちゃんとした時に会わせてやりたいなと思った。積もる話もあるだろうし。

「ううん、元気にしてそうだったから大丈夫」

そんなもんなのかな?と思いながらもルカがやけにすっきりとした顔で、そこだけはハッキリと言ったから頷くだけにしておく。

「あ、そうだ。リシアン、クリーム色の髪に緑色の瞳の医官って知ってる?」

「あぁ、兄上だけど?」

俺がいない間に麓の方では何があったんだろ。やけにルカがあちこちに出没しているような?

「ふーん」

そしてにやにやしていないで、何があったのか教えてほしい。

「何かあった……?」

落ち着かずに自分の分にだけお代わりを注いで飲む。

「いーや?あんまりお兄さんを心配させちゃだめだよ?」

言えよ!と思ったけど……あぁ、これはもう寝落ち寸前だなと思った。

「ちょっと!寝るなら客間のベッドで寝て?」

肩を貸してもしっかり体重を預けてくるのな。脱力した人間って重いんだよ!笑ってないで歩いてくれ。

半ば引きずるようにしてるんだけど、ルカはそれが楽しそうだしさぁ。

やっとの事でベッドへと投げる。あとは目が覚めたら自分でどうにかするだろ。思ったよりルカの酒癖がよくないから、今度からはもうちょい控えめにしないと。

「ねぇ、リシアン?」

「何?寝るんじゃなかったの」

……まぁ、楽しそうだからいいんだけどさぁ。とりあえず水差しに多めに入れて置いとかなきゃ。テキトーに返事をしながら考える。

「リシアンとルミスって、似てるよね」

「はぁ?!」

どこが似てんの?と聞いても、楽しそうに笑ったままこの一瞬ですっかり眠っていてもう返事は来ない。