軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

フィッシュサトウってなんだよ(困惑)

私はあのあと、カウンターで食材とモンスターの卵を交換して慌ててガーデンに戻ってきた。余ったお金で食材を追い購入するのをガッツリ忘れて。

もちろん、カウンターでモンスターの卵を受け取ったときも内心で「フィッシュサトウってやっぱモンスターなの!?」と荒れ狂っていたが、口にはギリギリ出していない。

でも多分。いや絶対、動揺が顔に出ていたと思う。すれ違った人にちらっと見られた気がするし、なんならちょっと避けられた気もする。

でもさ、動揺するなってほうが無理でしょうよ!!

これまでのモンスターを思い出してほしい。

イモムシとムースでワームース……なのは正直ちょっと字面だけだと微妙だけど、ちゃんと可愛かったし。ワッフルとオオカミでワルフルなのも分かる。すごく可愛い名前だ。

元の食べ物と動物の名前が、いい感じに混ざっている。聞いただけでこのゲームはそういう感じで行くんだなってすぐに理解できるネーミングになっていていいと思う。

それなのに。

フィッシュサトウ。

……なんで!?

もっとこう、なかった!? フィッシュガーとか! フィッシュトウとか! せめて、サトウフィッシュとか!!

順番とか、語感とか、あるでしょうよ!! どうしてこうなった!? なに!? ネタ切れか!? さすがに名前がギャグマンガすぎる!!

ツッコミどころが多すぎて、もはやどこから突っ込めばいいのか分からなくなってきた。

頭を抱えながら、ガーデンの拠点に入る。

ワームースたちは、相変わらず地面を行ったり来たりしているし、ワルフルたちはオート防衛で外縁を巡回している。食堂での喧騒を忘れられる静かでのんびりとしたガーデンに帰ってきたという感じがする。

実に平和である。

だけどこの平和な空間にヘンテコなものが持ち込まれてしまった。他ならない私によって。

フィッシュサトウ。モンスターの名前として絶対浮いてるよね?

と、とりあえず……やることはやっておこう。これはモンスターの卵なんだし、きっと最初のワルフルのときと同じだ。

「孵卵器に、乗せればいいんですよね?」

自分に言い聞かせるように、シーちゃんに確認する。

「はい。住民化の際に来訪した卵はテンカウントで孵化しますが、食券によって引き換えた卵には孵卵器が必要となります」

淡々とした返答だった。もう少し混乱している私になにか言うことがあるんじゃないかとか思ってしまったが、フィッシュサトウも彼女にとっては当たり前に存在する名前なんだろうな……ツッコミを入れるポイントと認識していないんだろう。これの浮きっぷりが分かるのはプレイヤーたる私だけだ。

「フィッシュサトウについて教えてくれたり……」

「未発見のモンスターですので」

「アッ、はい。ですよね」

このなんとも言えない気持ちは卵が孵化するまで拭えないのか……卵が孵ってからさらに謎が増えたらどうしよう。

だけど、冷静に考えてみれば、こんなにも訳のわからないモンスターの卵って、すごく気にならないか? どんな姿をして、どんな生態をしているんだろう。

そして、SRということは、当然ワームースやワルフルたちよりもずっとずっと上のレアリティだ。どこに生息して、どんな能力を持っているのだろう? こんなにも図鑑の内容が気になる存在を入手できたというのは結構ラッキーだったんじゃないか?

うん、そうだよね。かなりのラッキーだ。たとえ人の脳みそを混乱に陥れて、目の前に『極度の精神の乱れ』を感知したぞ! って警告文が出ようが、私はラッキーだったのだ。そう思うことにしよう。

私はアイテムボックスを開き、問題の卵を取り出した。

……引き換えのときは直接アイテムボックスの中に入る仕様になっていた。これもカウンター付近で揉め事が起こらないようにしている措置だろう。

だから、この子の卵の模様を見るのははじめてだ。結構ずっしりと重いけど、そんなに大きくはない。ワルフルの卵と同じくらいのだろうか。香りは……うん、磯臭い。水の匂いだ。殻の表面には緑色の草? それとも釣竿? みたいなものが描かれていて、その先に釣られた魚の模様。

要するに、卵の表面に向け釣り上げられた魚の模様がある。情報量が多い。まだ私の脳みそを混乱させたいのかこいつ。

そっと、孵卵器に乗せてみて、表示されたカウントを見た私は目を見開いた。

【孵化まで:72時間】

「……三日?」

三日。

このよく分からない感情の正体が分かるまで、なんと三日も待たされるらしい。

シーちゃんに確認すると、ゲーム内時間で三日必要になるらしい。そうなると、リアルで食事もトイレも時間を切り詰めまくって、ものすごく夜更かしをしてギリギリ孵化まで行くかな……くらいの時間だろう。

うわ気になる。絶対知りたい。この状態で明日の昼間リモートで仕事とかできる気がしない。絶対ずっと頭の中にフィッシュサトウの文字列が踊り狂って集中できないだろう。

ということで、今日は深夜までゲームをすることが決定事項になった。早く正体を知ってスッキリしたい。ちょっとくらいなら仕事に支障ないし大丈夫だろう。むしろフィッシュサトウの正体を知らずにいるほうが支障出るだろうし。うん、仕方ないよね。

さて、孵卵器にこの子を置いたことだし、私は頑張ってその卵から目を逸らして当初の目的だったスケッチをしてしまおう。

ワームースとワルフル。まずは、この子たちだ。

スケッチブックを取り出して拠点の中で腰を落ち着ける。

ワームースのもにゅっとした質感にゼリービーンズみたいな可愛いフォルム。透明感のある皮膚にムース。

ワルフルのワッフル模様の背中。にワッフルそのものの垂れ耳。ぶんぶん振られる尻尾の躍動感。可愛い目をしているけど、いざとなると頼れる凛々しい感じ。

描きながら図鑑のテキストを改めて確認する。

――――――

No.001

名称【ワームース】

・ 分類:スイーツ

・ 原型食物:ムース

・ 原型生物:ミミズ

・ 危険度:D

・ レア度:N

・ 大きさ:1タイル

・ 生息地域:枯れ果てた草原

・ 好物:チョコレート、???

・ 来訪条件 :

1タイル分の汚染されていない土、または草地がある。

・ 住民化条件:

3タイル分の汚染されていない土、または草地がある。所属するワームースが三匹に達していない。

・ 能力 :

一時間につき15タイルの表層土壌回復。3匹所属することで全体のタイル浄化数が1.2倍に上昇する。(*群れボーナス)

・ 汚染タイル数: 陸上2

・ 備考:与えた食物によってムースで構成された体色が変化することがある。土壌を10タイルを回復させるごとに空の容器があると1瓶のムースを生産する。(一匹で約16時間)

・ 【プレイヤー入力欄】

【プレイヤー入力欄】

・ 生態観察:

ワームースは、土壌の回復が始まった土地に最初に現れることが多い基礎的な浄化モンスターである。

体組織はムース状の物質で構成されており、摂取した食物の成分が体色や生産物に反映される。

移動と同時に表層土壌の回復を促進する特性を持ち、群れを形成すると浄化効率が向上する。

土地の状態に対して非常に敏感で、汚染の少ない環境を好む。

ガーデン再生の初期段階において、不可欠な存在とされている。

――――――

――――――

No.002

名称【ワルフル】

・ 分類:スイーツ

・ 原型食物:ワッフル

・ 原型生物:オオカミ

・ 危険度:D

・ レア度:N

・ 大きさ:2タイル(1×2)

・ 生息地域:???

・ 好物:ミルク、??? 、???

・ 来訪条件 :

10タイル分の汚染されていない草地がある。

・ 住民化条件:

20タイル分の汚染されていない草地がある。卵を1つ食べる。ミルクを1瓶飲む。所属するワルフルが五頭に達していない。

・ 汚染タイル数: 陸上3

・ 能力 :

同危険度ランクの生物による汚染を50%で軽減。

1段階上の危険度ランクの生物に対し、30%の確率で撃退を試みる。(ランク差が1段階広がるごとに成功率は10%低下)

初来訪の生物を吠えて知らせる。

・ 備考:

五頭の群れが形成されている場合、撃退成功率に+30%。(ただし対象のランクが離れている場合、10%ずつ成功率が減衰する状態は影響する)

・ 【プレイヤー入力欄】

【プレイヤー入力欄】

・ 生態観察:

ワルフルは、草地に縄張りを形成する防衛型のスイーツ系モンスターである。

外敵の接近に対して敏感に反応し、吠えることで周囲に警告を発する行動が確認されている。

単独でも一定の防衛能力を持つが、群れを形成することで撃退性能が大きく向上する。

人間を守るというよりも、自身の生活圏を守る意識が強い。

適切な給餌と距離感を保つことで、安定した防衛戦力となるだろう。

――――――

二匹の『生態観察』項目はすっかり埋まっていた。住民化できるマックスまで集めたから、この項目の上に自分で入力できる部分もできている。これもあとで書いてみよう。今はとりあえずスケッチを完成させないとね。

「そうだ、ワルフルの生息地って不明だけど、これは?」

「生息地については、該当する地域の探索を行ったことがある場合に表示されるようになります」

「つまり、今はワルフルの本来の生息地は行けない?」

「はい、現在はワームースの【枯れ果てた草原】のみ探索地として外出することが可能です」

「探索はまだ早いかな」

「明日には行けるようになるでしょう」

「そっか……明日?」

夢中になっていたからだろうか。気がつくと周囲が暗くなってきていた。

「そろそろ夜になりますね」

シーちゃんの声を聞いて、完成したスケッチをもう一度チェックしてからスケッチブックをしまう。

「夜間、ガーデンテイマーは拠点内で過ごしていただきます。ガーデン内では任命された防衛モンスターのみ活動しますが、昼夜行動を行ったモンスターは疲労が溜まっていくのでご注意ください」

シーちゃんに促されて拠点となっている小屋に入る。それからメニューを開いて任命の項目を表示する。

ってことはワルフルたちも、何匹かは任命から解除して休ませてあげたほうがいいんだよね? 後から住民になった二匹だけオート防衛モードにして、他三匹は防衛任務から外しておく。

「就寝中のモンスターの能力は発揮されません。夜間に起きた出来事は、翌日の防衛ログにて詳細をご確認いただけます」

「任命を解除されてお休みになったモンスターは、寝ているから防衛をしないってことでいいんだよね?」

「はい」

うん、やっぱり任命の項目をいじっておいて良かった。

「夜間はあなた様が就寝することでスキップすることが可能ですが、拠点内では図鑑のアップデートや、料理コマンドを選択することが可能となります。ご自由にお過ごしください」

夜の間はガーデンに関することはオートになって、プレイヤーはなにもすることができないってことだよね。そうなると、本当に図鑑のことやったり、料理したり、あとはガーデンを窓から眺めたりすることしかできないだろう。

今回は夜になる前に気づいたから良かったけど、今後はガーデンについて触れられなくなる前に、ちゃんと任命の項目の選び直しとかするようにしておかないとね。うっかり防衛をマニュアルモードのままにして夜になってしまって、来訪モンスターに好き放題されるのをただ窓から眺めるだけってことになりかねないから。

ええとまずはなにからしようか?

料理? それとも図鑑? どっちもやるけど……まずは料理からかな。

ベッド近くのフィッシュサトウから全力で目を逸らしてキッチンに立つ。

さーて、今の食材だとなにが作れるかな〜。