軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ユウの生態観察レポート【ワームース・ワルフル】

拠点内に入って少しすると、とっぷりと夜になった。

窓から眺めてみると外は完全に暗くて、ガーデン全体が静まり返っている。昼間はあれほど賑やかだったワームースたちの動きも落ち着き、ワルフルの足音も少なくなっている。よく見れば後半に仲間になった二匹を残して三匹は丸くなって一箇所で眠っていた。ワームースたちもぽてっと地面の上で寝ていたり、半分埋まりかけて眠っていたりする。大変可愛い光景だ。

まずは入り口脇の納品箱に、最初に手に入れたムースを納品しておく。他のムースは保管庫から自動で納品されているはずなのでこれだけだ。ムースだけだと今のところダイレクトに食べる以外に使い道がないからね。他にもお菓子系の食品があればまた違うんだけど。

「……じゃあ料理をしてみようかな」

そう伝えると、すぐにチュートリアルが起動した。

メニューが開いて彼女の説明が続く。

とはいえ、内容自体は難しくなかった。指定された材料を選んで料理コマンドに放り込むだけ。完成までの工程も、ほぼ自動だ。

オートだと品質は基本的に【並】で一定。マニュアル操作で上手く作ることができると【良】と【優】が出るようになる。何回も上のランクの品質を作って熟練度が上がると、オート料理でも上の品質の料理を自動で作れるようになると。

この辺りの操作感は他のVRゲームとそんなに変わらないかな。よくある機能だ。

「今、作れるのはなにがある?」

「塩茹で野菜が可能です。また、白米も炊飯できますね」

じゃあ、それにしよう。私は野菜を選び、白米も一緒に指定した。塩も選択して……っと。

調理中の描写は、まぁでっかい寸胴鍋の中に選択した食品を順番に入れて【料理】ボタンを選択。ボフン! と銀色の光が出て、食品しか入れてないはずなのにお皿にしっかり盛り付けられている料理がポーン! と飛び出てくる感じだった。ここだけやけに魔法的だ……。

これが大釜とかでやってたら、ファンタジーの魔法実験で想像するようなアレになっていたところだろう。

飛び出してきた皿が一人でにキッチン台に着地してキラキラと輝く。銀色だ。まあ、はじめてだから並なんだろうけど。

陶器のお皿っぽいのに高所からキッチン台に着地して大丈夫なのは、なんだか見た目に違和感がある。割れそうで怖いのに割れてない。キャッチしてもいいんだろうけど、皿が割れたりしないんだったら別にいいか。

湯気の立つ茶碗と皿が二つずつ。分量的に二人前作れたようだ。ちょっと入れすぎただろうか?

「料理も納品をすることが可能です。片方を納品してみましょう」

「うーん……お金はまあまあムースで増えるだろうし……えっと、これもチュートリアル? 納品しなくちゃダメかな?」

「……保管したいということでしたら構いません。料理の扱いは自由でございます」

チュートリアルで絶対納品しなくちゃいけないってわけじゃなさそうだし、じゃあいいかな?

私は塩茹で野菜の乗ったお皿と白米の入ったお茶碗を片方ずつシーちゃんに差し出した。

「……一緒にどう?」

「業務中ですので、お受け取りしかねます」

即答だった。

「そっか……」

しょんぼりする私に、入り口付近に立っていた彼女は、代わりにソファに座ることだけは了承してくれた。私が休んでいるのにシーちゃんだけずっと立たせたままっていうのはなんか罪悪感があるし……心配になるから。AIだから大丈夫と言われても、私の視覚的な安心のために立っていないで、せめて座っていてほしい。

背筋を伸ばし、完璧な姿勢でソファに腰掛けるシーちゃん。これはこれで……あまりにきちんとしすぎていて、逆に申し訳なくなるな。

「……ごめんね。業務中、眠れないのかな」

返事はない。緩く目をつむって微動だにしないあたり、その状態で眠っている可能性もあるけど……さすがにそれはないか。本当に機械的な子だなあ……って思う。露骨すぎるくらいに露骨だ。きょうびこんなにAIらしいキャラクターも珍しい気がするくらい。

返事がないと分かっていても、声をかけずにはいられなかった。

「早くレポート書いて、寝るから。ちょっとだけ待ってて」

私は料理にラップをかけてアイテムボックスの中に保存して、自分の分だけを口にした。

塩茹で野菜。うーん、素朴な塩み。普通だけどちゃんと美味しいあたり、食にも力を入れていそうだ。

――――――

【塩茹で野菜】

お野菜数種類をさっと塩で茹でた料理。

ほのかな塩みが素材の味を引き立て、野菜本来の甘みが口の中に広がる素朴で安心できる味付け。

――――――

アイテム欄に入った料理を見ると、なんとフレーバーテキストがそこにあった。嬉しい。そうそうこういうのだよ。こういうのを見たかったんだよね。

塩茹で野菜にこういうのがあるってことは、それなら白米にも……!

――――――

【炊き立てご飯】

ツヤツヤの真っ白なお米の一粒一粒が立っていて、いっそ芸術的なまでの炊き立てご飯。湯気まで甘く感じられるほど。

――――――

塩茹で野菜より説明が短いのに、より美味しそうに見えるテキストだ。すごい、期待しちゃうな。

「いただきます……んっ、おいしい!」

塩茹で野菜とご飯を食べると、どっちも美味しかった。これで品質が【並】だなんて信じられないくらいだ。食品の味の再現度はVRゲームによってまちまちだけど……このゲームは結構リアルめにしてるんだね。

見てみれば、食品のアイテム説明欄にしっかりとスポンサー名が書いてあるから、このおいしさを現実でも味わいたい場合は買ってねって意味だろう。強制的に視界をジャックしてCMを流してこないあたり、かなり良心的だ。

「ふう、ごちそうさまでした。このメーカーのレンジご飯もいいね」

まあ、電子レンジでここまでのおいしさが出るのかはちょっと怪しいと思うけど……。

ご飯を食べたところで、私はそのままベッドに腰を下ろした。そして窓から夜のガーデンを眺めながらレポートを書き始める。

公式の生態観察含めてほとんど図鑑は埋まっているし……まずはワームースからだ。

公式の説明を読み上げる。

【ワームースの生態観察】

ワームースは、土壌の回復が始まった土地に最初に現れることが多い基礎的な浄化モンスターである。

体組織はムース状の物質で構成されており、摂取した食物の成分が体色や生産物に反映される。

移動と同時に表層土壌の回復を促進する特性を持ち、群れを形成すると浄化効率が向上する。

土地の状態に対して非常に敏感で、汚染の少ない環境を好む。

ガーデン再生の初期段階において、不可欠な存在とされている。

うん、かたい。文章がかたいよね。

シーの記録レポートって言っていたからシーちゃんが書いた可能性があるけど、そこは不明……なのかな。学術的なレポートをそのまま載せているだけにも見えるし。

さて、私だったら……ワームースについてはこう書きたい。

【ワームースの生態観察レポート】

【観測者:ユウ】

綺麗な土ができると、だいたい最初にやってくるのがワームース。ガーデン再生の第一歩、第一匹め。

ムースの名前の通り、食べたもので体の色や生産物が変わるらしい。

体の中にムースがたっぷり詰まってるみたいだけど、確かめる勇気は出ないかも。

ちょっと古いゲームのフレーバーテキストっぽい感じに書いてみた。うんうん、私はこういう感じが好きなんだよね。こんな感じに書いていこうかな。このレポートに加えて、シーちゃんはスケッチも載せられるよって言っていたから、あとでスケッチと一緒に【みんなのモンスター研究誌】にアップしてこよう。

続いて、ワルフルの生態観察である。

この子は生息地がまだ判明してないけど、五匹の群れがちゃんとマックスでいるからプレイヤーの生態観察も書けるようになっている。

さて、公式の生態観察はこうだ。

――――――

【ワルフルの生態観察】

ワルフルは、草地に縄張りを形成する防衛型のスイーツ系モンスターである。

外敵の接近に対して敏感に反応し、吠えることで周囲に警告を発する行動が確認されている。

単独でも一定の防衛能力を持つが、群れを形成することで撃退性能が大きく向上する。

人間を守るというよりも、自身の生活圏を守る意識が強い。

適切な給餌と距離感を保つことで、安定した防衛戦力となる。

――――――

公式説明を読んでから私は少し考えた。

そういえば、みんなのモンスター研究誌で見ることができるのって、生態観察だけだったよね? それで、アップしたものは誰でも見ることができる。

そこで知らないモンスターについてを、プレイヤーの書いた生態観察だけ閲覧できるとしたら……うん。

普通の人は、スケッチを見てこのモンスターがほしい! って思っても、来訪条件すら分からないんじゃ結局、自然と条件を満たすまでもやもやすることになるよね?

なら、私はプレイヤーの書いた生態観察を見るだけでヒントを拾えるようなテキストを書こう。

ワームースはほぼなにもしなくても来るし、ワルフルもガーデンを綺麗にしていれば自然と来るけど、これから先のモンスターたちはそうもいかないだろう。

だから、これを私が生態観察を書くときのスタンスにしたいと思う。

図鑑を見るだけでほんのちょっとのヒントを!

ヒントだけでも分かれば、いろいろ考えてモンスターを集めるのに目標を設定しやすくていいんじゃないかな。

人は果てしないヒントのない旅より、目標が確かに見えているほうがやる気が出るものだ。

私がこうして図鑑を書くことで他のプレイヤーのやる気も出て、みんなで楽しめるようになればいいなあ……なんて。

人と話すのは苦手だけど、好きな作品を布教したい気持ちは私にだってあるからね。

そうしたら、ワルフルは……。

【ワルフルの生態レポート】

【観測者 ユウ】

耳が美味しそうなワッフルでできていて、体にも綺麗な焼き目がある生き物。少し広めの敷地で上品にミルクをごくごく飲む姿は犬みたいだけど、語源的には多分狼。

ワッフルのいい匂いがするけどミツをかけて齧りついたりしたらダメ! 逆にワルフルの不興を買ってこっちが噛みつかれてしまうかもしれない。

ガーデンに住み着いたとしてもワルフルの多くは自分の縄張りだから守るだけで、別に人間のことを守りたいとかは思っていないらしい。

守ってもらいたいなら、ちゃんと彼らの「ご飯係」になってあげよう。

……これでよし。

「ユウ様は、熱心にしておられますね」

シーちゃんの声が、少しだけ柔らかく聞こえた気がする。

「他の人は、そうでもないの?」

「ええ」

短い返事。

でも、どこか残念そうにしているような気がした。

まあ、合う合わないは結構別れそうだもんね。補佐AIさんも大変なんだなあ。みんなそれぞれにシーちゃんがいるんだもんね。

「じゃあ、今日はここまでにしよっかな」

「……はい」

照明を落とし、ベッドに入る。

「空中都市は時間同期のため不可能ですが、ガーデンから離れる際にガーデン内の時間を固定することなどは可能です」

仕事とかで遊べる時間が固定されちゃう人向けの機能かな? 空中都市は現実時間と同期しているけど、ガーデン内は本当にのんびりマイペースに進めることができるんだろう。

放置ゲームとしてしばらく放っておくこともできるし、時間を固定しておいて、自分の見ているときだけ時間が流れるようにすることもできる。ここをコントロールできるのは、かなりありがたいことだ。

私は夜にやりたいことも済ませたし……ちょっと休憩して戻ってこようかな。それなら……。

「じゃあ、次来たときに朝になるよう調整しておいてほしい」

「かしこまりました」

「ありがとう、シーちゃん。それじゃあ、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさいませ。良い夢を」

セーブを確認してから、ログアウト。

ヘッドセットを外して体を伸ばした。

「ん〜」

水を飲んで、トイレに行って、深呼吸。

ちょっとだけストレッチもしてから私はもう一度ヘッドセットを装着し、すぐさまゲームを再開するのだった