軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

にいさまにしんさくりょうりをと

「むが~」

「近づけ~ないんだ~ぞ~」

「この~!」

全力で中枢に接近しようとしているレニーラとシュシュの様子に、セシリーンはそっと息を吐いた。見ていることしか(セシリーンは聞いているとか)できなかったが、どうにか今回も無事に乗り越えられた。

魔眼の中に戻って来たジャルスは、しばらく機嫌を悪そうに壁などを殴ってから横になった。

あとでグローディアたちが状況の説明を求め向かうかもしれないが、今は用心棒となるカミーラも魔力切れであり、アイルローゼはまだ縛られたままだ。直ぐには動かないだろう。

何より魔女はまだ拘束されたままだ。

途中からずっと熱い吐息を発して動かなくなってしまったが問題は無いはずだ。

聞いているのは自分だけだし、今の魔女の有り様は誰にも見せたくない。愛らしいからだ。

「……」

「お帰りなさい」

「ただ、いま」

動かしていた体を本人に返し、ファシーは座っていた椅子から立ち上がると、ちょこちょこと歩き出してセシリーンの傍へと来た。

「どうだった?」

「……妹が、出来た」

「そう。良かったわね」

耳を外に向けていたからセシリーンは大半の内容を理解していた。

あのポーラという子がファシーに馴染み、最後は存分に甘えていたのだ。

自分の過去に通じる経歴を持つ相手にファシーはどこか心を許している節も見えた。

「何でファシーだけ出れるんだよ! 卑怯だ!」

「だぞ~だぞ~」

「そんなことを言って暴れているからじゃないの?」

「「……」」

セシリーンの指摘に2人は沈黙する。

ファシーが出れたのは純粋にアルグスタの身を案じてだ。

何より気になったのだろう……彼が変化してしまったことを。

終始耳を傾けていたセシリーンの判断では、彼の内側から別の何かが姿を現した感じに思えた。

言うなれば自分たちと同じだ。

「でも旦那君があんなに戦えるだなんて知らなかった」

「だぞ~。何て~言うか~凄く良かったぞ~。胸の~奥が~熱く~なったぞ~」

「だよね、だよね? 私なんてこう下腹部がキュッと」

「品が~無いぞ~」

「何おう?」

出られないことを受け入れた2人は開き直った会話を……蹴り合いを始める。

見た目ではきっと彼は別人のような活躍だったのだろう。けれど耳で全てを知るセシリーンからするとあの時の彼は本来の状況でなかったと理解している。

狂ったわけではない。しいて言えば元に戻ったのだ。

その証拠に彼の体は自然と動き、骨格から筋肉に至るまで無理を感じさせなかった。そう思えば今の彼の方が若干ではあるが体に負荷をかけている。本当に僅かだが。

《彼にも何か秘密があるというのなら……あとで王女様や魔女と相談するべきなのかしら?》

思考しセシリーンは軽く頭を振った。その振動で抱きついているファシーが少し反応したが、すぐに落ち着いてまた胸に顔を押し付けて来た。

「今日は甘えたいの?」

「は、い」

「そうね。いっぱい甘えられて、彼に甘えられなかったものね?」

「……は、い」

ムギュッと胸に顔を押し付けてくるファシーを優しく抱いて歌姫は彼女の頭を撫でる。

孤児院などで歌を披露していた頃はこうして甘えてくる子供たちを抱きしめたりしていた。

女の子は純粋な甘えだったが、男の子の場合は半々だ。甘えと……目が見えない自分をそのように見てもらえたことは素直に誇ろうとセシリーンは決めていた。

今腕の中に居るファシーは純粋に甘えてくる。

自分が全然得られなかった優しさを求めての行為だ。

だから愛おしく……何よりこうして抱きしめていたくなる。

《難しいことは後で良いわよね》

今は自分の腕の中の存在を抱きしめて居たいと純粋に思う。

レニーラとシュシュの会話が『あんな風に旦那君から命令されて扱われたら……私ったらどうなっちゃうのかな? 想像するだけで興奮が止まらないよ!』とか『私は~優しい~方が~良い~かな~。でも~強気な~のも~悪く~ない~かも~』と暴走している。

正直言って酷い雑音だ。

ファシーが穏やかな音を宿しているのに……この2人は。

少しだけイラっとしたセシリーンは自然と口を開いていた。

歌うのはまだ難しい。舌が張り付いて声が出ない。

けれど音を発するぐらいなら……だから一音のみを発してセシリーンは音楽とする。

流れ聞こえる物にレニーラとシュシュは目を見開いて視線を巡らした。

ファシーを抱いて背中を優しく叩きながら音を発する歌姫は……まるで子守唄を歌う母親のようにすら見える。

その慈愛に満ちた音に、レニーラとシュシュは会話を止めて目を閉じると横になる。

起きているのが勿体なく感じるほどに穏やかな音に眠気を覚えたのだ。

2人は黙り目を閉じて眠りにつく。

その範囲は次第に広がり……遂にノイエの魔眼の中を支配した。

「ノイエ? どうかしたの?」

「……」

昨夜はファシーがポーラを抱えて静かだったこともあってぐっすり寝ることが出来た。

頭の傷もあるから無理はしたくなかった。それを察して出てきてくれたのなら僕のファシーに対する感謝の気持ちは後日何かしらの形にする必要がある。

ケーキとかどうかな? ファシーが甘い物とか好きならいいけど。

おかげで今朝は体調ばっちりだ。スカッと爽やかだ。

でもノイエがどんよりしている。宝玉に巻きついているアホ毛なんて力を失い顔の前まで垂れている。

あれだあれ。提灯が大きすぎるチョウチンアンコウに見えるな。

「ノイエ?」

「……眠い」

「はい?」

一度起きたノイエだが、またモゾモゾと動き出すと横になってシーツを頭までかぶる。

二度寝を決め込むノイエとかレアだな。普段は起きたらその瞬間からトップスピードで動き出すのに……何かあったのかな?

ノイエが落ち着いてから確認するしかないか。

「にいさま。ねえさま。おはようございます」

「おはようポーラ」

一緒に寝ていたはずなのにポーラが部屋の外から扉を開いてやって来た。

完璧メイドな妹さんだ。

「ねえさま?」

珍しく起きだしていないノイエにポーラも不思議そうに首を傾げた。

「ねえさまもおつかれですか?」

ベッドの傍に移動してポーラがシーツをかけ直す。

横になっているノイエは身を丸くしてぐっすりと寝ていた。

「ポーラ?」

「はい」

「もって?」

僕の問いにシーツの皺を伸ばしていたポーラが手を止める。

今皺を伸ばしてもノイエが寝返りを打てば意味はない。

それでも皺を伸ばすのはメイドの宿命なのか?

「はい。きょうはししょうもねてます」

「……珍しいの?」

「めずらしくはないです。でも……」

チラッと僕を見て妹が視線を逸らす。

「けさは、にいさまにしんさくりょうりをと」

「あの馬鹿賢者め……」

どうやら僕には馬鹿従姉と馬鹿賢者という敵が居るのだと理解した。

絶対にまとめて張り倒す。

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