作品タイトル不明
2人で行こうね
「オーガさんが見つかったの?」
「はい」
眠るノイエをベッドに残し、僕らは食堂へと移動した。
ポーラの給仕を受けつつ朝食を食べているとミシュの部下が報告にやって来た。
キシャーラのオッサンが報告を持ってこないのは、まだ戦後処理で混乱しているかららしい。
「それでどんな感じ?」
「はい。何でも早朝、捜索していたキシャーラ様の部下たちが発見したそうです」
何でもオーガさんは森の中で座り休んでいたとか。
現在もっと詳しく報告を集めて纏めているそうだけど、とりあえずで僕に報告が届けられた。
「なるほどね~。それでヤージュさんは?」
オーガさんの傍でセットでパックとなっていたあの人もどうせ、
「戦死したそうです」
「……」
流石に言葉を失った。
そうか。僕らは戦争をしていたんだ。何処かその認識を忘れていたよ。
「詳しい報告は後でお持ちします」
「……頼んだ」
「はい」
一礼をしミシュの部下が立ち去っていく。
自然とテーブルに両肘を置いて僕は組んだ手の上に額を押し付けた。
悲しいとも思うが涙は出ない。そこまで親しかったわけではない。
けれどあのオッサンの部下の中では一番会話していた人だ。心に来るものはある。
「にいさま?」
「大丈夫。ちょっと……ね」
「はい」
それ以上何も言わずにポーラは僕の傍で待機する。
しばらくしてから顔を上げ、僕はポーラに顔を向けた。
「ねえポーラ」
「はい」
「ワインとグラスを2つお願い」
「……畏まりました」
右目に模様を浮かべたポーラが一礼して部屋を出ていく。
何処か『上出来』とでも言いたげな笑みを浮かべていたけれど、あれの思考なんて僕には分からない。
何となく窓の外を眺めていると、彼女がカートを押して戻って来た。
僕の前にグラスを2つ、それとワインのボトルを置いていく。
ボトルを掴んで中身をグラスに注ぐ。
「まっ何だ。約束は守るんでご心配なく」
グラスを手にしてもう片方のグラスに触れさせる。
チーンと音をさせてから僕は手にしているグラスの中身を飲み干した。
約束は守らないとな。
律儀にあの世までノイエの秘密を持って行ってくれたんだ……だったら僕はその義理に応えないといけない。戦後の融資は今度ホリーお姉ちゃんと相談して考えないと。
「残りのワインはオッサンとオーガさんに」
「はい。にいさま」
恭しく一礼をしたポーラがボトルに封をした。
「トリスシア」
「何だい?」
荷車で荷物のように運ばれてきたオーガを出迎えたキシャーラは何とも言えない目を向ける。
だいぶ無理をしていたと右翼で戦っていた僅かな生き残りから報告を受けていた。
その証拠にトリスシアは両腕両足を骨折していて自力で歩くことも出来ない。彼女が持つ驚異的な自然回復力が全く発揮されていないのだ。
人並みに落ちている回復能力となっている彼女は、荷車の上でどうにか身を起こした。
「ヤージュなら逝ったよ」
「そうか」
寂しげに笑い報告して来る彼女に、キシャーラは歩み寄りトリスシアの肩に手を置いた。
「詳しい報告は落ち着いてから聞こう。それよりも」
「ああ」
トリスシアは自分の傍らに置かれていた皮袋を掴むと、顔を顰めてそれを放って寄こす。
受け取り苦笑しながら中身を確認したキシャーラは、それを部下へと押し付けた。
酷い有様であるが見覚えのある頭部だった。
帝国軍師……セミリアの物だ。
「女狐は確実に狩ってみせたぞ?」
「そうだな。ああ……そうだな」
こみ上がる感情に言葉を詰まらせ、キシャーラはただただトリスシアの肩を何度も叩く。
その衝撃で骨折の痛みに顔を顰めながらもトリスシアは黙って受け入れる。
相手の気持ちは分からなくもない。
「いい加減にしな。キシャーラ」
「そうだな」
最後に一回とトリスシアの肩を叩き、キシャーラは真っすぐ彼女の顔を見つめた。
自分の優秀で忠実な部下であった者の……たった一人の娘の顔を。
「流石ヤージュの娘だ」
「はんっ! あんな狐を狩ったぐらいで大げさな」
笑みに顔を歪ませ、トリスシアはその牙のような犬歯を覗かせる。
「次は帝国皇帝の頭を取りに行くよ」
「それは……」
現状難しいが、それを口にしてもこのオーガは止まらない。
相手の気持ちを察するに制止することが出来ないキシャーラは、この場で適した言い訳を思いついた。
「ならばアルグスタ殿の許可を取って来い。そうすれば考えよう」
「分かった。なら」
折れている足を動かしトリスシアは荷車の台を叩く。
「このままあの王子の所に向かう。直接行って説得するよ」
「そうすると良い」
ゴロゴロと動き出した荷車を見送り、キシャーラは軽く頭を掻いた。
たぶん暴力による説得をトリスシアは実行するだろう。すればあのドラゴンスレイヤーが抵抗する。結果として屋敷の中で大立ち回りの大喧嘩が生じる可能性がある。
ヤージュが居ればそれを制することも出来そうだが……もうそれは期待できない。
「本当にお前という存在は大きかったのだな。ヤージュよ」
目を閉じ頭を振って……キシャーラは頭の中を切り替えた。
居なくなった部下の代わりに自分が頑張らなければいけなくなったのだ。
「この齢でまた学ぶこととなろうとはな」
お昼も過ぎて借りている部屋に向かうと、ノイエが寝ながらご飯を食べていた。
仰向けの姿勢で居るノイエにポーラがパンを運んで押し込む感じだ。
スルスルと口の中に消えていくパンの様子を見つめていたら、何故かポーラと2人で面白がってノイエに食事を与え続けていた。
使い終えた食器を乗せたカートを押してポーラは部屋を出て行く。
僕はベッドに上がりノイエの隣に座ると、彼女が甘えるように抱きついてきた。
「ノイエ?」
「……むう」
スリスリと頬を擦り付けてくる。相変わらず愛らしい。
「まだ寂しいの?」
「……はい」
「そっか」
手を伸ばしノイエの頭を撫でてあげる。
眠そうな感じはだいぶ薄まっているが、何故か寂しげな感じが前面に出ている。
宝玉を枕の上に置き、甘えてくるノイエのアホ毛がヘニャッとしている。いつもの元気がない。
手を伸ばしアホ毛を持ち上げてみるけれど、ピンと張らずにヘロッとシーツの上に落ちた。
燃え尽きているのか寂しさで力が入らないのか。
そういえば昨日からノイエはずっと甘えん坊だったな……僕が気絶している間に何かあったのか?
ああそうか。
彼女の頭に手を置くと良し良しと撫でる。
僕が気絶して目覚めたら辺り一面死屍累々だった。それを誰が作ったと言えば、気絶していた僕には不可能なので……つまりそう言うことだ。
優しいノイエに無理を強いてしまった。
「ノイエ」
「……はい」
寂しげで弱々しい感じの彼女の目が僕を見つめる。
「帰ったら2人でのんびりしようね。温泉とかに行きたい」
「……2人?」
「うん、2人」
「……」
何も言わずにノイエがグリグリと顔を押し付けて来た。
嬉しそうだから照れているのだろう。
問題は……少しだけ開いた扉からこちらの様子を伺っているポーラの表情だ。
捨てられた子犬のような顔をしている。けれど今回はダメです。だって君は約束を破って前線に来たのだから留守番を命じようと思います。
「2人で行こうね」
「……はい」
少しだけノイエのアホ毛がフリッと動いた。
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