作品タイトル不明
もう、へい、き
領主屋敷に戻るとまずポーラが活躍する。おかげで王都に戻せない。
部屋の準備から食事の手配。僕は怪我もあるので今日は無理だけどお風呂の手配と……驚くほどテキパキと準備をしてくれるのだ。
何この万能メイド? もう一人前のメイドだよ……諦めたよ。色々と。
ノイエは僕に抱きついたまま食事を飲むように食べ続けた。
それから激しい抵抗を見せたが、どうにかお風呂へ。僕は頭の裂傷があるから今夜の入浴は無理です。
体を拭いて済ませていると、若干モジモジしたポーラが声をかけて来た。
「にいさま」
「ん?」
「おせなかふきましょうか?」
うむ。背中は何かと拭き辛いのである。
「そうだな……頼める?」
「はいっ」
キラキラと輝く笑みを浮かべてポーラが桶からタオルを掴もうとしたら桶ごと消えた。
空振りをした彼女は、辺りを見渡し……僕の方を見てシュンと気落ちする。
最近『天才』とか呼ばれているポーラですらやはりお姉ちゃんには勝てないらしい。
ただそのお姉ちゃんは色々と問題を抱えていますがね。
「拭く」
「ノイエさん?」
「拭くの」
桶を抱えているノイエがやる気を見せている。それ自体は悪くない。問題はその格好だ。
まだ若干髪の毛が濡れている。何より下着姿だ。お風呂上りに急行して来たのだろう。
白い肌に完璧なプロポーションを空色の下着が良く映えている。
手にしていた桶の置き場を求め、何故かポーラの頭の上に置くとタオルを絞って迫って来た。
暴走状態だ。こうなるとノイエが満足するまでやられるしかない。
「お願いします」
「はい」
プルンとアホ毛と胸を揺らしてノイエがタオルを振るう。
頭上に桶を乗せたポーラは両手でそれを抑えていたが、自然と片手を自分の胸に。
どうしてギュッと拳を作って『負けません!』的な目をするのかな? ユニバンスって胸にコンプレックスを持つ女性が多すぎやしませんか? ねえ?
ノイエがゴシゴシと背中を拭いてくれるけど、時折痛みが走る。
「痣とか出来てる?」
「……」
「ポーラ」
「はい。あおあざが」
拭くのに集中しているノイエからの返事は期待できないのでポーラに確認を取る。
どうやら背中は酷い状況らしいな。慣れたけどね。
と、ノイエの手が止まって……こっちを見ているポーラが顔真っ赤にした。
感触で分かる。ノイエが痣を舐めだしていた。
「それはリグじゃないと無理だよ?」
「大丈夫」
その自信はどこから?
しばらくノイエの好き勝手にさせたけれど、やはり無理だと気付いたのか……ノイエが作業を止めて僕に抱き着いてきた。
「ならば次の手を使いますか。セシリーン。リグをお願い」
これでリグが出てきてくれるはずだ。
ノイエに抱きつかれ……と言うかお嫁さん。そろそろ服を着ようね?
ポーラにお願いをしてノイエの服を準備してもらう。
それを着替えるようにお願いすると、手を繋いだままで服を着ようとしないの。
どうしたのノイエ? 今日は本当に甘えが凄いよ?
ポーラと協力してノイエに服を着せてソファーに移動する。
ベタリと張り付いたノイエの色が変わらない。ずっと待てども変わらない。
リグさんや? お~いリグさんや?
甘えてくるノイエを撫でていると、ようやく彼女の色が変わった。
「ファシー?」
「は、い」
現れたのは小動物のような存在であるファシーだ。
甘えていたノイエの体が増々僕に密着して来る。全力の甘えだ。
ただファシーは出てきたら抱きしめてあげることを挨拶にしているから、ギュッと抱きしめる。
顔を赤くしながらも甘える彼女はやはり可愛い。
「と、リグは?」
本題を忘れてた。リグに頭の裂傷を見てもらおうと思ってたんだ。
けれどファシーは甘えて来るだけで何も答えない。
むむ? ファシーまで甘えん坊モードか?
「ファシーさん。うりうり」
「や、ん」
甘えた声を発してファシーが喘ぐ。
恐ろしい破壊力だ。だが耐えた。
「アルグ、スタ、様」
「はい?」
「……ほん、もの?」
「僕の偽者とか居るの?」
ジッと僕の目を見て来たファシーが顔を動かしチュッとキスして来た。
「アルグ、スタ、様」
「はい?」
「……リグ、出れ、ない」
「どうして?」
「お腹が、痛くて、蹲って、る」
「……」
何をしたの? あの巨乳っ娘は?
「怪我をしたの?」
「ちが、う」
「なら?」
「王女、様と、魔女、が、リグの、お腹を、裂いたって」
「……」
返事が見つからねえ!
何をどうしたらリグのお腹を……ああ、あれか。というか確認のために普通裂くか? ノイエの中の普通って外での非常識が常識なの?
「お腹、痛いって」
「それは仕方ないね」
なら頭の方はしばらく我慢か、それか明日一度帰ってキルイーツ先生の所に行こうかな。
「教えてくれてありがとうね」
「は、い」
スリスリと頬を擦り付けてきて甘えるファシーを撫でていると、ふとポーラの視線に気づいた。
無表情でこっちを見ている。気のせいか感情が死んでいないか?
ああ。もしかしてポーラはまだファシーが怖いと思っているのかもしれない。
大丈夫。ファシーは笑いださなければ怖くない。そう怖くない。
「ポーラ」
「はい」
「こっちに」
軽く首を傾げながらポーラが歩いてくる。
迫って来る彼女に気づいたファシーが小さく震えだすけれど、僕がギュッと抱きしめてあげると震えが止まった。
「ファシー」
「は、い」
「妹のポーラとも仲良くしてあげてね」
「……は、い」
けれどビクビクと震えちゃうのがファシーなのです。
そう考えると最初から他人を怖がらなかったポーラも……ああ。出会った時は怖がってたか。
「ポーラも僕の所に来る前は酷い目に合ってたんだ。知ってる?」
そっと覗き込んで尋ねると、ファシーは小さく顔を左右に振った。
「……知ら、ない」
「そっか」
抱きしめ直して、ファシーが正面に居るポーラを見えるように背中からギュッと抱きしめてあげる。彼女は僕の手を掴んで離さない。
「両親を病気で亡くしてからあの色を嫌われてね……傷だらけだったんだよ」
「き、ず?」
フルッと震えたファシーが握っていた僕の手を離すとポーラに手を伸ばす。
ポーラはその手に向かい歩み寄ると、何故か自分の頬を押し付けた。
「集落の人たちに仕事を押し付けられて、蹴られたり殴られたり」
「……」
「僕と出会った時も殴られると思って頭を抱えてたよ」
「そ、う」
両手を伸ばしファシーがポーラを捕まえる。
そっと自分の方に抱きよせると、キュッと抱きしめた。
「もう、へい、き」
「はい」
「守る、から」
「うれしいです」
良し良しとポーラを撫でるファシーが若干笑顔なので僕が全力で抱きしめ続ける。
こんな風に少しずつファシーが周りに馴染んでくれれば、ますます成長するかもしれないしね。
しばらくファシーのやりたいようにさせていたら、ずっとポーラを撫で続けていた。
うむ。戦いの後にこの様な癒しは大切だと思うのです。
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