軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あっこれは死んだかも?

軍師に向かい突進すると、彼女の背後から矢が飛んできた。

何故それが矢だと分かったのかと言えば、自動で迎撃した剣が弾いて地面に転がったからだ。

「舐めんなっ!」

さらに踏み込んで接敵しようとすると、軍師の背後から黒い影が湧き出て来た。

人の形となって相手も剣を振るい僕に襲い掛かって来る。

ギンッギンッと鉄同士の嫌な音を発して魔剣が相手の剣を弾く。

完璧だ。流石稀代の魔剣打ちだなエウリンカ! 今度出てきたらプラチナのプレートだって魔剣の材料にしても良いぞ!

ノリノリで剣を振るい相手の攻撃を……そして気づいた。

軍師がスタスタと歩いて僕から遠ざかる様子に。

「珍しいわね。自動で相手の攻撃を防ぐ魔剣かしら?」

馬鹿な……何故気づく?

「魔剣じゃないし。実力だし」

「そんなへっぴり腰で何を言うのかしらこの馬鹿は? 剣術を習いだした子供だってもう少し腰の入った立ち振る舞いをするわ」

「違うし~。こういう流派だし~」

「……醜い言い訳ね」

はぐあっ!

何故か相手の物理攻撃は完璧に防いでいるのに、言葉の暴力でバッサリと切り捨てられたよ。

「ふふふ……道具も実力の内って言葉を知らないのか!」

「潔いまでの開き直りね? けれどその言葉には私も同意するわ」

告げて軍師が腰の後ろに手を回すと、前回刻印の魔女に封じられた魔道具を取り出した。

ライトなセーバー的なあれっぽい形をしたヤツだ。

彼女はこっちに先端を向けると、

「目がぁ~!」

ピカッと光って僕の視界が真っ白になった。

閃光とか卑怯なり! くあ~! 目が……涙が溢れて止まらない!

「前回の時は動かなくて驚いたけれど、今日はちゃんと動いたわ」

「うな~! そんな卑怯な道具ばかりっ!」

「道具も実力の内なのでしょう?」

誰だそんな悪役チックな卑怯者の発言をしたのは! 断じて僕が許さんぞ!

何故ならば現在余りにも目が痛くて涙を拭いたいけど剣から手が離せない。

地味な嫌がらせに意外とピンチなんですけど!

「アルグ様っ!」

ノイエの声が聞こえるけど何も見えない。

まだ目がチカチカしていて……このまま失明とかないよね? リグの魔法じゃ目とか治せないよね? というか眼球を舐められるとか色々とハードすぎて違った意味で僕が死ぬから!

「マジで誰か助けて~!」

思わず本音が口から出ていた。

「私、が」

「ダメよファシー!」

咄嗟に手を伸ばしたセシリーンだが小柄な彼女はその手をかいくぐる。

小動物のようなすばしっこさを時折見せるファシーは決して運動が苦手というわけではない。

たぶん武器を得た戦いでもそれなりに立ち振る舞うことが出来るというのが、彼女の現在の師であるカミーラの見立てだ。

故に背後から自分を掴もうと伸ばされた手をファシーは見もしないで避けた。

「きゃんっ!」

「えっ?」

ただその攻撃は想定外だった。

突如自分の方へと倒れ込んできたファシーをセシリーンは慌てて抱きしめる。

何が起きたのかよく分からないが、ファシーを抱きかかえる自分の手に鎖のような物が触れた。

「あは~! ファシーも~拘束~された~ぞ~」

外の様子にジタバタと暴れ必死に自分の拘束を解こうとしているシュシュは、ファシーの首に生じた首輪を見て絶望じみた声を上げていた。

「こら~! 刻印の魔女! 旦那君が死んじゃうから!」

シュシュの隣でジタバタと暴れるレニーラもまた拘束されて動けない。

どうやら刻印の魔女としてはノイエの姉を自称している者たちに協力させたくないのだろう。

それを察してセシリーンは自分の耳を全力で働かせる。

こんな絶望的な状況をひっくり返す人材は、 魔眼(こ) の中であれば3人。

グローディア。アイルローゼ。カミーラだ。

けれどカミーラは我関せずといった様子で尻を掻いて寝ていた。

他の2人とは違い外の様子を知ることが出来ないという致命的な問題もあるが、その全体的に伝わって来る疲労の様子から魔力は残ってなさそうだ。

ならばと次にグローディアに耳を向ける。

彼女は……カミーラ以上に我関せずといった様子で壁に向かい魔法の式を綴っている。

意外と研究熱心で暇さえあれば彼女はこうしているのだ。

「グローディア! 彼が危ないの!」

『……無理。あれほどの減速を食らってたら、私だと変わった瞬間に卒倒するから』

もしかしたら外の様子を知らないのかとセシリーンは声を飛ばした。

けれど返事はつれなかった。現状を把握していると言えなくもないが、それでももう少し言いようがある気はする。

だったらと最後の希望アイルローゼに耳を向け……セシリーンは、人生初の二度見ならぬ二度聞きをした。

確認のために全神経を集中して詳しく、細部まで確認する。

ファシーの報告に合ったホリーの状況も詳しく聞いたときは違った意味で引いたが、こっちもこっちで引いてしまった。

あの術式の魔女が全身をたぶん縄のような物で縛られ吊るされているのだ。雁字搦めだ。

何と言うかたぶんこれを芸術的というのかもしれない。どうやったらあんな風に結べるのか……その過程を眺めていたくなるほどだ。目は見えないけれど。

『はずれ……んっ……外れな……んんっ……どうして……食い込んでくる……はんっ』

抵抗すればするほど縄のような物が食い込んでいるのか、アイルローゼが悲鳴にも似た……というか若干甘い吐息を吐いている。

これは他の人に見せてはいけない物だと理解して、セシリーンはそっと自分の耳を遠ざける。

ただし完全ではなくて少しは聞こえるようにしておく。悶えるアイルローゼなんて大変に珍しくとにかく可愛らしい。これは最後まで聞いていたい。

「打つ手が無いわね」

自分の趣味を楽しみつつも、セシリーンは万策尽きたことに気づいた。

「アルグ様っ!」

ノイエは声を張り上げた。

泣きながら必死に剣を振るう彼を見つめる。

自分がダメだから彼が困っている。自分が弱いから彼が泣いている。自分が……

沸々と胸の奥から湧き上がる何かは分からない。けれど自分がダメなことは分かる。

自分が姉たちのようにちゃんと出来れば彼は泣かない。そのことも分かる。だから必死に体を動かし前進し続ける。あと少し。もう少し。

ようやくその位置に来てノイエは足を動かす。

拳大ほどの石に自分の足を、全く動いてくれない足を動かし……全力でその石を蹴った。

ただ唯一ノイエが間違いを起こしたというのなら、それは彼を思うがあまりに“全力”で石を蹴ったことだろう。減速の魔法かの中ではノイエの力に関しては制限は受けない。

ただ四肢の動きなどが制限を受け低速になるだけのことだ。

全力で蹴られた石は、その力に耐えられず細かく砕けた。

そしてアルグスタの幸運だったことは、速度に対して働く減速の中で、ノイエの蹴りを受けて飛び出した石にもその力が働いたことだ。

本来なら人など穿ち貫くであろう無慈悲な攻撃も人並み程度の速度に落ちていた。それでも人並みだ。

飛んできた散弾のような石礫を食らったアルグスタと軍師の護衛は……見事に吹き飛び気絶した。

「アルグ様~!」

自分がやったことを理解できず、ノイエは泣き叫んでいた。

「あっこれは死んだかも?」

上空からポーラの姿をして状況を見ていた刻印の魔女は思わずそう口にしていた。

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