軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たぶん僕らを狙うだろうね

ユニバンス王国・王都郊外

「暇ですね」

「そうですね」

雨期も終わり気温上昇と共に地面に吸収されていた水分が蒸発でもしているのか、全体的に蒸し暑い日々が続いている。この蒸し暑さが過ぎれば夏に該当する季節の到来だ。

ただ現状はとにかく暑い。

ルッテは革鎧の首元を解き手で胸元に風を送り、モミジもまた同じ動作をする。

胸の谷間に熱が残って汗も出てとにかく不快なのだ。

「イーリナさんって凄いですね」

「ですね」

ふと視線を巡らせ2人は言いようの無い表情を浮かべた。

視線の先に居るのは、木陰で横になり魔法書を読みながら小隊に配給されている焼き菓子を食べている副隊長だ。フード付きのローブ姿でゴロゴロとしている。

何が凄いって朝から晩まであの位置からほとんど動かない。動くのは手洗いの時か、焼き菓子の補充かのどちらかだ。

「魔法隊に所属していた時からあんな感じだったと聞きましたが?」

「はい」

モミジの問いに応じるルッテは内心でため息を吐く。

『元魔法隊の隊長』と言う触れ込みで異動して来たから色々と期待していた。

前に所属していた先輩のフレア並みに働いてくれることを期待していた。

けれど現実は残酷だった。

「魔法学院時代からあんな感じで、それが原因で学院を追い出されて国軍へ。そこでも態度を改善しなくてハーフレン様が『最低限の仕事をしろ』と言って近衛の魔法隊へ。それが今回ミシュ先輩の代わりに遊撃隊へ異動になったみたいで」

「……厄介払いですか?」

「そうお城では言われてますね」

ルッテが聞いて回った噂ではそんな感じだ。

ただイーリナに関しての評価は、勤務態度は最悪だが実績だけは抜けている。魔道具の解析であれば最近まではユニバンス最高峰とも言われていた。現状イーリナが解析できない物は学院で数年かけなければ無理だとも言われている。一定の道具であれば彼女は苦も無く解析してしまうのだ。

そんな彼女の評価が落ちたのは『術式の魔女』が存命していると知られたからだ。

魔女の存在は規格外すぎて比べることも失礼かもしれないが。

モミジにそのことを伝え、ルッテは深々と息を吐いた。

「たぶんアルグスタ様関係で異動して来たんでしょうね」

「どうかしたのですか?」

「あれです。王女様と魔女の話です」

「えっと……話は耳にするのですが……」

噂に疎い……と言うか噂話にあまり耳を傾けないモミジは情報に疎い。

何よりこの国の歴史など最近学びだしたのでよくまだ分からない。

だからどうしても反応が薄くなってしまう。

「でも魔女の方はとても凄いとか。アーネス様が熱く語っていました」

その時のことを思い出してモミジは頬を赤くする。

両手を拳にして『術式の魔女』について熱く語る彼の様子に……モミジは嫉妬した。少なからずも自分を前にして他の女性のことを熱く語ることなど許せない。絶対に許せない。

だがら自分が彼にとってどれほどの存在なのか、その魂や肉体に刻み込んだ。もちろん物理的な意味も含んで一晩かけてたっぷりと。

「……本当はしていただける方が嬉しいのですが」

「何の話ですか?」

恥じらいながら頬を抑えて顔を振るモミジに、ルッテは半ば呆れる。

けれど自分も相手のことを思い出して……気持ちが分かった。彼とキスした時のこととか思い出すと自分も似たような動作をして何故か両親から生温かな視線を向けられるからだ。

「……それでその魔女や王女様がアルグスタ様とどんな関係で?」

恥じらいから復帰したモミジは話を戻す。

「あっはい。何でもその2人の居場所を知っているのはアルグスタ様だけだとか」

「あのお方は……秘密を抱え込むのが本当に好きな人ですね」

半ば呆れながら、モミジは何となく自分の胸の奥に突き刺さる棘のような不快感を覚えた。

魔女と言うことは魔法使いのことだ。魔法使いと言うことは……ふとそのことに気づき、モミジは思考を停止した。余計なことを知りすぎれば自身が破滅することを思い出した。

具体的に言えばカエルに姿が変わってしまう。こんな幸せな状況でそれは絶対に嫌だ。

「だからあのイーリナさんをここに配置して、あわよくば魔女の技術や魔法を盗ませようって企んでいるんじゃないかって……お城の人たちが噂してましたよ」

「そうなんですか」

改めて2人はイーリナに視線を向ける。

ゴロゴロと木陰の下で過ごしている人物がそんな密命を帯びているようには見えない。見えないのだ。

「人って見かけによりませんしね」

「そうですね」

それ以上の会話を止めて2人はまた『あつ~』と思いながら胸元に風を送る。

普段ならドラゴンが活動を始めるはずなのに、今年は恐ろしいほどに動かない。

何かの前触れか……と王都では危惧する者も居るが、実は簡単な理由からだった。

先日牙を求めたポーラが王都近郊のドラゴンを狩り尽くしてしまったのだ。

故にドラゴンはただ人知れずに姿を消していた。

ユニバンス王都はそれから数日……とても平穏な時が過ぎたという。

ユニバンス王国自治領・領主屋敷敷地内

「こちらが最新の分布図となります」

「あ~。厄介だな」

屋敷の外に机を運び僕らはそこで今後の打ち合わせをしていた。

あの会談から3日……帝国軍は三方向からじわじわと進軍を開始した。

問題は後方に置かれたドラゴンと言う遊軍だ。本当にあれは厄介だ。

「それでオッサンは?」

「はい」

ヤージュさんが地図の上を指さす。

「キシャーラ様は中央にて約3千を率いて待機しています」

「右は?」

「トリスシアと私が。同じく3千です」

「つまり左がコッペルの爺さんか」

腕を組んで僕は地図を見つめる。

総勢8千のユニバンス軍としては出来れば兵の分散は避けたい。けれど敵が3つに分かれて三方向から迫ってきている状況ではこっちも3つに分けるしかない。

しばらく地図を眺めて僕は一つ頷いた。

「この手の作戦立案は僕には無理です!」

「全力で恥ずかしげもなく……」

潔い僕の決断に何故かヤージュさんがため息を吐いた。

無理な物は無理です。だからこの世の中には専門家が居るんですから。

ただウチの専門家は、あっちの方でオーガさんと肉の奪い合いをしている。

牛を一頭丸ごと焼いた豪快料理だ。その焼かれた肉の部位をあの2人は壮絶に奪い合っている。

「オッサン的にはどうしたいと?」

「はい。まず中央を囮にし、右にトリスシアを。左にアルグスタ様とノイエ様を」

地図の上にヤージュさんが駒を置く。

盤上遊戯の駒だね。元々こうした事前戦術で使用されていた物が遊戯になったとか言われているしな。正しい使い方なのだろう。

ただ僕を示す駒が遊び人なのは何故だろうか?

「こうなると敵は中央にドラゴンか……読むでしょう?」

「ええ。ですがこれ以上の分散は出来ませんから」

「ん~」

ファシーが操るリスのおかげで、敵にこれ以上の伏兵や迂回しての挟撃のような作戦が存在していないことは分かっている。

「あの軍師は……たぶん僕らを狙うだろうね」

あの馬鹿なグローディアがそうなるように仕向けたし。

「だったらそれを逆手に取るかな」

「逆手にですか?」

「そっ」

つかこの手があったな。

「ノイエ~」

「はい」

牛の前足を抱えてノイエがやって来た。

足って普通食べるっけ? 向こうでむしゃむしゃと骨ごと食べているオーガさんは無視するとして……普通食べないよね? 食べるの?

「ちょっとお願いがあるんだけど良いかな?」

「はい」

いつもながらにお嫁さんからの無償の信頼が……失敗できないんだよね。本当に。

(C) 20201 甲斐八雲