軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

酒の肴が足らないから、ちょっとそこまで行きたいんだよ

ブロイドワン帝国軍・本隊

「準備は?」

「完了しました」

部下の報告にセミリアは薄い笑みを浮かべる。

自分を馬鹿にし尽くしたあのユニバンスの白い化け物を殺す手立てが整ったのだ。

何よりあの国はフグラルブ王国の生き残りまで隠し持っていた。見つけ出しその子宮に収められているという鍵を引き抜き……あの魔道具を手に入れる。

残念なことに今回の遠征では持って来ることはできなかった。

あの臆病な皇帝が手放さなかったのだ。唯一の鍵を手にしているのにもかかわらず、セミリアが鍵を隠し持っているかもしれないという疑心暗鬼を振り払えず手放さなかった。

ある意味皇帝の行動は正解だ。鍵を得られればセミリアはそれを使う気でいた。

この大陸がどうなろうがセミリアは気にしない。何故なら全て滅んでも良いとすら思っている。

全ての人間が滅び、そして自分はそれを見ながら最後に死ねればいいと願っているからだ。

あの日あの場所で見た死の象徴を……セミリアは忘れられないのだ。

「まずはあの煩いオーガを殺す」

「はい」

椅子に腰かけている帝国軍師は悠然と部下に命じた。

「全軍を前に。勝利を私に」

ユニバンス王国軍・右翼

「ヤージュよ? 話が違くないか?」

「……」

目の前に展開する状況にオーガたるトリスシアは牙を剥いて笑う。

隣に立つヤージュは全身を冷や汗で濡らしていた。

完全に失敗した。敵はこちらの作戦を読み切っていたのだ。

眼前に迫る敵軍の数は万を超えている。たぶん全軍の半数以上を右翼潰しに投じたのだ。

なら中央か左翼が敵軍を打ち破れば……それもまた難しい。帝国軍としてはその2か所は負けなければいいのだから。

最初から守備を固めて閉じこもればいい。時間が経つごとに不利になるのはこちらの方だ。

「……トリスシア」

「そっから先を言うんじゃないよ」

ズンと腹の底に響く声にヤージュは顔を上げる。

自分より体半分は身長の差があるじゃじゃ馬娘を見上げた。

その表情は獰猛という言葉が良く似合っている。

けれど決して下品ではなく、品のある顔立ちだ。

ただ強く恐ろしい……それがトリスシアというオーガなのだ。

「アタシが敵兵を全部薙ぎ払ってやる」

「ですが」

「それに」

ニカッと笑って彼女は相手の言葉を制した。

「あの馬鹿な王子の企みもある。そうだろう?」

「……そうですね」

話し合いの場で見せた様子からどうしても信用できない人物ではあるが、ヤージュの中で『アルグスタ』は決して敵に回したくない人物の1人だ。

あんな底の見えない化け物を相手にするなど考えたくもない。

「さあお前らっ!」

「「おうっ!」」

吠えるオーガに長い付き合いである兵たちが応える。

「最低5人は殺してから逝きな! それが出来ない奴は、アタシがあの世まで追い駆けてその頭と股間の物を叩き潰してやるからねっ!」

「「勘弁してくださいっ!」」

兵たちの心が一つになった。

ただ勘弁して欲しいと願ったのはどちらの言葉に対してかは謎だが。

『ガハハ』と笑い、トリスシアは金棒を担ぐと……その目を横に向けた。

「ヤージュ」

「……はい」

「品の無いことを言ってるんだからちゃんと叱りな。アンタが騒がないと部下たちも緊張しちまうだろうが」

「……本当に」

苦笑しヤージュは頭を掻いた。

どうやら自分が一番色々と考えすぎて緊張していたらしいと気付いたのだ。

「トリスシア!」

「はいよ」

憎たらしい笑みを浮かべる相手にヤージュも笑みを浮かべた。

「この戦いが終わったら貴女の結婚相手を探しますからね」

「……いやいや。どうしてそうなる?」

突然の言葉に狼狽するオーガに対し彼は胸を張ってみせた。

「決まっています。私もそろそろ孫の顔が見たいのですよ」

「ならアタシじゃなくて別のもんに頼めって!」

吠えてからトリスシアはハタと気付いた。

誰の何の顔が見たいと?

一瞬呆けてから、彼女は正面に居る馬鹿な男を見る。

昔に失ったあの馬鹿な存在に似た……そしてトリスシアは気づいた。

自分がまだあの時のことを引きずっているのだと。

「分かったよ」

軽く頭を掻いてオーガは敵へと体を向けた。

「終わってから考えてみるのも悪くないな」

「ええそうです」

ヤージュも頷いて腰に吊るしている剣を抜いた。

「最低5人だ! それ以上の首を取った男は、アタシが一晩たっぷりと可愛がってやるよ!」

「「別の相手を求めます!」」

部下たちの心はますます纏まった。

その反応に大きく鼻を鳴らしたトリスシアは、ベロリと唇を舐めた。

「だったらまずは生きて帰って来な。突撃だよ!」

ユニバンス王国軍・中央

「右に兵を集中したか」

敵の動きを見つめキシャーラは決断した。

自分の周りに居るのは歴戦の雄だ。そして正面に居る敵兵も同じ。

「相手は4千程度だ。こちらが負ける理由はあるか?」

「「ありませんっ!」」

部下たちの返事に迷いはない。

長年キシャーラに仕え、ともに前線で地獄を見て来た仲間たちなのだ。

頼もしい家族と呼んで差支えの無い部下たちの声に促され、スラリと剣を抜いたキシャーラはその剣先を相手に向けた。

対する敵も元家族たちだ。

王都に残る本当の家族たちを人質に取られて戦うことを強要された哀れな部下たちだ。

だがキシャーラは情けを捨てた。

歯向かう以上は家族とて敵だ。情けは身を亡ぼす。

「正面の敵を打ち破り帝国軍の本陣を食い尽くす! 突撃!」

中央もまた戦端が開かれた。

ユニバンス王国軍・左翼

老将コッペルは敵の様子を眺め苦笑していた。

敵はユニバンス王国軍の性質を良く理解しているのだ。

小国であり攻められることに慣れているユニバンス王国は、守りに優れている。だからこそこう睨み合いになると膠着してしまう。攻め手に欠くという状況だ。

「コッペル様。魔法隊で魔法攻撃は?」

「すれば敵が同じことをする。そうすればこちらは回避できずに直撃を受ける」

「なら打って出ますか?」

「……兵の数は向こうが多いか」

2千のこちらに対し相手は3千程度。

中央からの報告では、敵は右翼に兵を集めて突破を図っているとか。

たぶんそれは違う。右翼を破ったら方向を変えて中央を、そして左翼を襲う気なのだろう。だからこそ右翼は逃げられない。最後の一兵が死ぬまで敵の進軍を防がなければならない。

乾いた唇を軽く舐め、コッペルは昔の記憶に意識を向けた。

バージャル砦の戦いは血で血を洗う物だった。

人間が狂気に蝕まれ、同じ狂気を抱いた人間を襲い殺し合う。

酷いなんて言葉では言い表せなかった。

コッペルがあの地獄で生き残れたのは、部下に化け物が居たからだ。

共和国に怖れられ……そして戦場を地獄に変えた化け物が居たからだ。

『止まれっ! ここからは先はっ!』

遠くから響いてきた声にコッペルは意識を戻した。

昔を思い出していたせいか、似たような場面が記憶に合ったのだ。

あの時も共和国とこのような睨み合いになり、そして彼女は不意に現れた。

酒瓶片手にやって来て『酒の肴が足らないから、ちょっとそこまで行きたいんだよ』と。

ふざけるなと思ったが、打つ手も無かったので好きにさせた。

結果としてあれは単身で敵陣に出向き化け物っぷりを披露した。

串刺しカミーラ……死した化け物の苦い記憶だ。

「退きな。老いた腰抜けに用があるんだよ」

コッペルの耳に声が届いた。

腹の底が一瞬震え……慌てて顔を動かす。

酒瓶片手に歩いて来たのはスラリとした女性だ。

赤い髪と精悍な顔つき……ただその表情は昔と違い多少穏やかにも見えた。

「酒の肴が足らないから、ちょっとそこまで行きたいんだよ」

「……そうか」

言いようの無い胸の内から溢れる感情に、コッペルは自然と涙していた。

あの化け物が処刑台の縄ごときで死ぬわけがない。死ぬわけがないのだ。

「行くが良い。カミーラ」

「悪いね」

老将の言葉に周りの部下たちが言葉と顔色を失う。

『カミーラ』などという名前を名乗る者はユニバンスには居ない。居ないのだ。

同名や近しい名前の者は改名し、その名を忌避したからだ。

軽く笑った彼女は腕を振るう。ポンと投げられた酒瓶を老人は受け取った。

「持っててくれ。今回の仕事の対価なんだ」

こと無げに告げ、彼女はその手に土から1本の棒を作り出した。

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