軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

彼からもっと愛されるわよ?

ノイエの魔眼・“左目”内

「あったね~。ちょっとノイエにお願いして魔女の所から布を盗み出して来て貰おうと思ったんだよね~。そうしたらあの子、普通にアイルローゼに『布ちょうだい』って。挙句に私が頼んだことも話して……あの時は生きた心地がしなかったわ~」

「どうして~布を~盗ませ~ようと~したんだ~ぞ~?」

「ん? 確か踊る度に胸が服に擦れてね~。ブラジャーの代わりに使おうかと思ったんだけど、奇麗な布ってあの頃だと誰も持ってなかったでしょう? だから唯一それを確保していたアイルローゼから頂こうと思ったんだよね~」

「納得だぞ~」

同じ施設に居たシュシュはその言葉で理解した。

布などは最初配給されていたが、時が経つにつれて配給は滞るようになり、何より人一倍馬鹿なことをして服を汚すレニーラは布不足が深刻だった。

普段1人で静かに過ごし余り動かない術式の魔女はその真逆であり、何より彼女は前もって多くの布を持っていた。だからこそレニーラはそれを狙ったのだ。

「マジで殺されるかと思って逃げだしたらあの魔女は冗談抜きで魔法とか唱えだすし……死んだ~と思ったらノイエが庇ってくれたんだよね~」

「だね~。あの時は~奇麗に~左腕の~肘から~先が~溶けて~なくなった~よね~」

余りにも奇麗すぎて腕を失ったノイエはしばらくキョトンとしてから『腕。ない』と言って……そして痛覚が戻ったのかワンワンと泣きだした。

「カミューが飛んで来た時は流石に人生終わったと思ったけど」

「だね~」

だがレニーラの人生は終わらなかった。

何故ならノイエの腕を消したのはアイルローゼだからだ。

結果として魔女対暗殺者の壮絶な殺し合いが行われ、ノイエの仲裁で引き分けで終わった。

「で、それをノイエが覚えているとは驚きだね」

「だぞ~。余程~痛かったん~だぞ~」

「痛いでしょうね。腕が無くなったんだしね」

レニーラとシュシュは思い出話に花を咲かせている。

が……セシリーンはゆっくりと顔を巡らせた。

グローディアは仕事を終えたとばかりにもう奥に引っ込んでいる。

『何かあったらすぐに呼びなさい』と働きたくないと言う割には勤勉な言葉を残してだ。

ホリーもまた奥に戻った。

『ご褒美は……アルグちゃんで酒池肉林よね~』と、本当に外で帝国軍師を罵り追い詰めていた人物と同じとは思えないほど、荒い鼻息を吐き出しながらだ。

物見えない歌姫の目が、彼女が座っているであろう場所を捉える。

「違うの。本当はレニーラを狙って……でもノイエが……」

両膝を抱いてシクシクと泣いているのは術式の魔女だ。

どうも一度張りつめていた物が崩れてから弱気の虫が姿を現しやすくなっている。

意外と精神的に脆く、演じることで自分を強く見せていたようだ。

案外心を許す相手にはだらしのない格好を見せていたのかもしれないと……セシリーンは今度リグに聞いてみようと決めた。今のあの子なら話してくれるだろう。

通路の隅でお腹を抱えて『アイル。許さない』と愚痴を言っているあの子なら。

「ん?」

珍しい人物が歩いて来た。

久しぶりに聞く足音にセシリーンは魔女に向けていた顔を動かす。

目は見えないが両方の耳を正面に向けた方がよく聞こえる。

「お久しぶり」

「歌姫か。最近姿を見ないと思ったらここに居たのね」

「ええ。それで貴女はどんな気まぐれ?」

久しぶりに聞いた声にセシリーンは笑みを浮かべた。

「……帝国領が見えると聞いてね」

入り口で立ち止まった人物はどうやらノイエの視界に目を向けた様子だ。

ただ今のノイエは真っすぐ自分の夫を見つめている。馬車に乗り宿である領主屋敷に向かっているところだ。

「見えないか」

「ええ。それにここはアルーツ王国だった場所よ」

「そうか」

残念そうに呟いて相手が踵を返す。

「ノイエに頼めば帝国領ぐらい見に行ってくれるかもしれないわよ?」

「そんな我が儘は言わないよ」

足を止めて返事が相手の口から聞こえて来た。

「ただ一度見てみたかったんだ。両親の故郷をね」

「そう」

「お邪魔したね」

告げて相手はまた奥へと消えていく。

思い出話をしていたシュシュやレニーラは驚いた様子でセシリーンを見つめてくる。

「ねえねえ歌姫?」

「何かしら?」

「あれって 中枢(ここ) によく来るの?」

「来ないわよ。基本深部に居るもの」

「だよね。私も深部以外だと初めて見たかな?」

思い出しうんうん頷くレニーラの脇腹をシュシュが突いた。

「レニーラは~知り合い~なのか~だぞ~?」

「親しいわけじゃないよ? 普段の私って 魔眼(こ) の中の変化を求めて色々と見て回ってるからその途中で会えば挨拶するくらいかな? 私より歌姫の方が親しいみたいだけど?」

「私もそんなに親しいわけじゃないわよ」

2人の視線にセシリーンは少し困った様子で返事をする。

「昔に何度か私の歌を聴いてくれたみたいなの。それで会いに来てくれて……何度か会話をしたくらいよ」

「そうなんだ」

「だぞ~」

納得した様子の2人は、ついで『最近あの2人を見た?』などと会話を始める。

その様子に薄く笑ってセシリーンは意識を深部へと向けた。

普段深部と呼んでいる場所は、厳密に言えば違うのかもしれない。ただ中枢から一番遠い場所を指さすノイエの魔眼の中に居る者たちが名付けた呼称でしかない。

現在その深部には大半の者が居る。

ある時期はやり場のない感情に誘われ暴れている者など多く居た。

その度に『弱いのが吠えるな』とジャルスが暴れたり、『運動不足だ』とカミーラが暴れたり、『邪魔よ』とアイルローゼが融かしたりと、鎮圧と言うことで考えれば過剰戦力とも言える面子が動いていた。

ただノイエが結婚し、何より彼が自分たちの味方であると理解してからは静かになっている。

逆に穏やかすぎて怖いほどだ。それはまるで死ぬ時を待つ老人たちのような心境なのだ。

《でも仕方ないわよね》

きっと穏やかな時を過ごしている人たちは本当に終わりを待っているのだろう。

自分たちのようにこの中枢に来て外に興味を抱いている方がおかしいのかもしれない。

死ねない状況でいつ来るか分からない他人任せの終わりを待つ日々。

普通の精神ならとても耐えられない。

《何より深部に居る人たちの大半の願いは…… 魔眼(ここ) からの解放ですものね》

それはつまり“死”を望んでいるのだ。

けれど絶望からの死ではなく、役目を終えて静かに眠るような穏やかな死を。

《このことを彼に告げたら……彼はどんな顔をするのかしら?》

見てみたいと思った。

人が悪いかもしれないが、もしかしたら彼は泣き顔を見せるかもしれないとそう思ったセシリーンは、その顔を見たいと思ったのだ。

自分たちの為に泣いてくれる人の顔を見たいと思ってしまったのだ。

トクンと胸の奥が動いた。

言いようの無い感情が込みあがって来る。

「ねえ」

「ん? なに?」

セシリーンの問いかけにレニーラが話を止めて声をかけてくる。

「今度落ち着いたら宝玉を使って外に出たいの。良いかしら?」

「ん~。私は良いけど?」

「構わ~ないぞ~」

「ありがとう」

そっと微笑んでセシリーンは声を飛ばす。

大半は外に出る可能性のある者たちにだが、誰もが『構わない』と言ってくれた。

唯一ホリーだけが『私が楽しんだ後なら良いわよ。嫌だけど』と返事をくれる。

深く彼を愛しているホリーらしい返事だ。でも彼女は意外と義理堅い。

ここに居て何かあれば彼のことを教える自分に感謝していることをセシリーンは知っていた。

「アイルも良いかしら?」

「……好きになさいよ」

膝抱きの状態で横になって拗ねているアイルローゼの返事は素っ気ない。

その心は嫉妬と不安とでごちゃ混ぜになっているのにだ。

「ねえアイル」

「何よ?」

クスリと笑いセシリーンは言葉を続けた。

「もう少し素直になれば、彼からもっと愛されるわよ?」

「……煩い」

拗ねる魔女はますます意固地になってしまった。

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