軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ししょうにはさからえませんでした

「ようやく屋敷が見えて来たね」

「はい」

ポーラを抱きしめながら僕に寄りかかって来るノイエが可愛いのです。

ただお腹が空いて自分で座っているのも億劫で僕に寄りかかっているのが本音っぽいが、それでも僕はお嫁さんが常に寄りかかって来れる存在で居たいのです!

きっと僕の前世は椅子か何かだったのかもしれない。

「ん?」

馬車の向かう先に何やら小さいのが飛び跳ね自己アピールしていた。

売れ残りの代名詞であるミシュだ。ユニバンスの王城では行き遅れている女性たちが『あの人よりかは先に』が合言葉になるほどの残念な存在でもある。

それがピョンピョンと飛び跳ねているのだ。

「何事かな?」

あれの奇行は有名だからできれば放置したい。

したいのだが……そんな存在が真っすぐこっちに向かい駆けてくる。手を振りながら全力で。

「アルグスタ様~!」

「……」

御者をしているヤージュさんに『止まらず轢いちゃって』とお願いする前に、馬鹿が突如馬車の上に姿を現した。

「居た~!」

そして吠えやがった。

何故か売れ残りがノイエに抱かれているウチの可愛いポーラを指さしてるんですが、若さに対する嫉妬か?

「このチビメイドが魔道具を見張っていた部下2人を昏倒させて逃げ出したんですけど!」

僕に顔を向けてきてウチの可愛い妹を非難して来た。

何て悪質なクレーマーだ。全く……だから売れ残るんだよ。

「ウチの可愛いメイドに掃除されるお前の部下が悪い」

「おいっ!」

事実を告げたらまた吠えたよ。

何なのこの売れ残り? ウチの愛らしいポーラに暴言ですか?

「メイドだから掃除するのは当たり前だろう? さっきも帝国軍の伏兵たちを大掃除してたぞ?」

「違うから! そんなのメイドの仕事じゃ……メイドの仕事か」

何故か憤っていたミシュがポンと手を打って納得した。

気持ちは分かるがその認識は世間一般的には間違えらしい。ユニバンスの常識は世間では非常識という典型的な例だ。

「って、何でそのチビがここに居るのよ!」

「チビがチビと言うな。お前も大概チビだろう?」

「失礼なっ! 私は大人の女性よ!」

馬車の車体の上に立つ馬鹿な売れ残りが偉そうに踏ん反り返る。

「ポーラの方が胸あるぞ?」

「嘘っ!」

悲しい現実を告げてやると、馬鹿がポーラに詰め寄る。

ノイエが抱きしめているせいで逃げ出せないポーラのメイド服のスカートから手を入れ……何故か太ももから上へと確認するように触っていきやがる。

「いやっ……にいさまのまえで……やめてください……」

「嘘よっ! ここは?」

「そこは……やめて」

「ちょ~! どういうことよ!」

甘い声を出しながらチラチラとこっちを見てくるポーラの視線は、僕に救いを求めてのものなのだろうか? 何故か若干ノイエの中の人たちの系譜を感じさせる視線にも見えるのだが?

「いやっ……いたいです」

「胸が揉めるだと? 何故だ~!」

君より膨らみがあるからだろう?

それに胸を揉まれているポーラが痛がっているから止めなさい。

いい加減にその手を止めろということでミシュの頭を叩いて黙らせた。

「分かったかね? 君はウチの妹にも劣る悲しい売れ残りなのだよ」

「嫌よ……こんな現実認めたくないっ!」

泣きながら崩れ落ちたミシュが馬車の床を殴りつける。

「だが安心するがいい」

「ふぇ?」

片膝を着いて悲しい現実に打ちのめされている元部下の肩を僕は優しく叩いてやる。

元が付いても可愛くはないが部下は部下だ。その身を案ずる元上司の優しさを知れ。

「マツバさんに君の実家の位置を伝えた。それに白装束で出向いて『もし婚姻を認めないならこの場で腹を切って果てます』と言えば絶対に婚姻を認めてっ」

「思い出したぞ! この糞野郎がぁ~!」

憤慨して僕に襲い掛かって来るミシュを、ポーラを抱いたままのノイエが軽く片手で捕まえて投げ飛ばす。

ゴロゴロと地面を転がって……悪は滅びた。

「煩い」

「そっちなのね」

「はい」

コクンと無表情で頷いたノイエは空腹なのか機嫌が悪そうだ。

座席に座り直して抱いているポーラを抱え直すと……何故ウチのお嫁さんは、自分の妹のお尻を撫でているのでしょうか?

「アルグ様」

「はい?」

スッとノイエが僕を見つめる。

「これが良いの?」

「……」

ガバッとポーラのスカートを捲って、ほぼ紐な下着を僕に見せつけてくる。

何故ポーラさんは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてこっちをチラチラと見ているのかな? 求むコメント状態なの?

「ノイエには似合いそうだけどポーラにはまだ早すぎるかな」

「はい」

「……」

若干勝ち誇ったようにアホ毛を揺らすノイエと、敗北者然とした表情を見せるポーラは……いったい何の戦いをしていたのだろうか?

でもノイエさん。最近の貴女ってば、どんな服を着ていても最後は全裸になって僕に襲い掛かって来るよね? 今夜もそうする気なのですか? ねぇ?

僕の気持ちなど知らず、ヤージュさんが静かに手綱を操って馬車は領主屋敷にたどり着いてしまった。

キシャーラのオッサンはまだ前線に居て指揮を執っているし、オーガさんはやっぱり帝国軍の工作員がしたらしい焚火の火に激怒し、その火で子牛を丸焼きにしているとかで屋敷には居ない。

僕らを送ってくれたヤージュさんも『コッペル将軍と話を進め帝国軍との戦いに備えます』と告げて前線に赴いた。

売れ残りとその部下たちも今夜から戦争になりえると知って準備に走った。

つまり現在領主屋敷に居るのは僕らのみだ。メイドさんや使用人さんなどは含まない。

よって家族会議です。

「被告ポーラ」

「はい」

「全ての行いをこの場で正直に言いなさい」

「はい」

僕らの前に立つポーラは、その小柄な体をますます小さくしていた。

『危ないから連れていけない』とあれほど言ったのに勝手に前線に来たのだ。兄としてここは確りと叱るべきだ。

ただ本日のノイエさんはお姉さんとしての何かを思い出したのかポーラに対して甘いので、現在僕の膝の上で横抱きにしている。決して甘やかしているわけではありません。

ノイエがポーラを庇わないために心を鬼にしているのです。

「ぜんぶししょうのしじです」

「やっぱりか」

納得した。

「判決……あの糞賢者が全部悪い」

「ちょっと待て~!」

ポーラの右目に模様が浮かんだ。

「待ちなさいよ!」

「出たな元凶? ウチの可愛い妹を唆して?」

「違うから! 共犯だから! むしろ脅されて手を貸したぐらいだから!」

はぁ? 主成分が優しさと素直さで構成されているポーラが人を脅すなんてことをするわけがない。

「自分の胸に手を当ててよく考えなさい」

「……」

そっと馬鹿が自分の胸に手を当てた。

「何カップ?」

「A寄りのBぐらい?」

「ポーラを汚すな!」

「言わせておいてっ!」

失敬な。質問はしたが返事をしたのはそっちだ。この場には黙秘権も存在している。

プンスカ怒る賢者が言うには、『私を除け者にして遊びに行く根性が許せない』らしい。ポーラの脅迫はどこに消えた?

「やはり嘘だったか」

「はっ! 違うから!」

慌てて馬鹿が訂正して来る。

「だから貴方たちを追いかける方法があると言ったら、この子が私を命令して来たの! 本当だから!」

「……ポーラに代わりなさい」

スッと右目から模様が消えた。

「馬鹿な賢者がそう言ってますが?」

「……ごめんなさい。にいさま」

ウルウルと涙ぐんでポーラが僕らを見つめる。

「ししょうにはさからえませんでした」

「うむ」

これで決まった。

「判決……やっぱ馬鹿賢者が悪い」

「っておいっ!」

馬鹿が出てきてまた吠えた。

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