軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 7

「ししょう」

『何かしら?』

「だれにもいわないで、へいきでしょうか?」

『あら? 良い女はこうやって周りを心配させて存在感を見せつけるのよ』

「そうなのですか?」

箒に腰かけポーラは揃えた材料を袋に詰めた物を背負っていた。

行先はユニバンス王都から見て北に位置する門と呼ばれる場所だ。

今の速度だと日が沈み草木が寝静まった頃にたどり着く。

材料を得るのに時間がかかってしまったせいで出発が遅れたのだ。

「ししょう」

『ん?』

「どらごんのきばなんて、なににつかうのですか?」

『それ? 封印の解除に使うのよ』

「ふういんですか?」

『ええ。門の根幹は簡単に開かないように私が徹底して封印を施したの。それでその封印を解くために何個か材料が必要で……まあパスワードを複雑にしてセキュリティーを高めている感じよ』

「よくわかりません」

『……簡単に開かないからそれが必要なのよ』

「よくわかりました」

説明を省いたら理解してもらえたので魔女は口を閉じる。

箒に腰かける少女は自分の膝の上に乗せている中型のドラゴンの牙をマジマジと見つめた。

大きかった。でもなかなか見つからなかった。何でもまだ寒いから大半は寝ているらしい。

仕方なく少女の師である刻印の魔女は、活動している個体の捜索を諦めて寝ている個体の捜索に切り替えた。

巣穴を見つけては中を確認して行く。

何か所か覗き込んだらドラゴンが口を広げてバクっとして来たから、その度にポーラは祝福と魔法を合わせて使い、巨大な氷柱を口の中に置いてあげた。

結果バクっと口を閉じる度にブシャーと血しぶきを上げてドラゴンが動かなくなる。

何度かそれを続け。ようやく中型のドラゴンを発見した。

ご飯を食べて万全の状態でポーラたちは中型のドラゴンの巣穴に突入し、祝福で氷漬けにして氷柱を作ってそれをドラゴン目掛けて突き伸ばす。

胴体部分に大穴を開けて絶命した個体から牙を取り出した。

「ししょう」

『どうかした?』

「わたしもねえさまのような“どらごんすれいやー”になれますか?」

『ん~。まだまだね。大型は倒せないでしょうし』

「ならおおがたをたおしたらなれますか?」

『うん。あれを簡単に倒せるようになったらこのお師匠様である私が認めてあげる』

「わかりました。がんばります」

キュッと両手を握りしめ、ポーラは箒の上で自身に誓う。

『姉のような立派なドラゴンスレイヤーになる』と。

ただしポーラは知らなかった。

この大陸では小型のドラゴンを簡単に倒せる存在、もしくは複数を殺められる存在にはその称号を得られることを。

そして彼女の右目で大半を暮らす魔女は知っていた。

が、あえて言わなかった。

だってその方が楽しいからだ。

こうしてユニバンス所属の5人目のドラゴンスレイヤーは、その存在を意図しないまま隠され……のちに問題となるのだが、それは先の話である。

《ポーラ様ポーラ様ポーラ様……》

ミネルバは自身の胸を引き裂かれる思いで城内を走り回っていた。

出会う同僚のメイドたちに驚きの目を向けられるが気にしない。気など向けられない。

自分の命よりも大切な存在である『主人』が居ないのだ。

近衛団長である王弟ハーフレンの協力も得られ、知り合いが多く所属する密偵衆が捜索に加わってくれた。

ラインリアの相手をして疲れ果てた様子のスィークも同じだ。

ただ協力を頼んだ時に自分の失態を叱られた。

『目を離すなと言ったはずですが?』と言われれば返す言葉もない。

言葉で済んだのはミネルバが真剣にポーラを捜索し、なりふり構わない姿勢を見せているからだろう。ため息を吐いてからスィークは全てのメイドにポーラの捜索を命じたのだから。

だからミネルバは必死に足を動かし捜索し続けた。

それは深夜にまで続き……それでも見つけられずヘトヘトとなってドラグナイト邸に戻って来た。

「せんぱい」

「ふぇ?」

馬車の手配が出来ず馬を借りて帰宅したミネルバは、目を丸くしてそれを見た。

玄関先で箒を手に掃き掃除をしているのは間違いなく自分の主人だ。ポーラなのだ。自分が敬愛し『守る』と誓った愛らしい存在なのだ。そんな彼女が居た。

「ポーラ様?」

「おそいじかんまでごくろうさまです」

深々と頭を下げてくる存在に、当初『見つけたらちゃんと言って聞かせます』と胸に誓っていた言葉が吹き飛んだ。

だって目の前に愛くるしい存在が居るのだから。

「ポーラ様っ!」

「だめです。ふくがよごれていて」

「構いません!」

詰め寄り両膝を着いてミネルバは正面から自分の主を抱きしめる。

ギュッと抱きしめると、少し困った様子で……でも嬉しそうな声でポーラが口を開いた。

「たいへんなしごとだったんですか?」

「……そうですね。大変な仕事でした」

「おつかれさまです」

そっと抱き返されてミネルバはもう死んでも良いという気分になる。

このまま死んでも本望だと強く思った。

しばらく抱き合い……そしてそっとポーラがミネルバの顔を覗き込む。

「せんぱい」

「はい」

「おふろのおゆをあたためてます」

「はい」

「いっしょにはいりましょう」

「……はい」

普段なら断るはずだがミネルバはその気持ちを払い去った。

今日1日生きた心地がしなかったから……少しでも一緒に居たいと強く願ったのだ。

だから手を繋ぎ浴場へ移動し一緒に風呂へ入った。

「えへへ……きょうのせんぱいはやさしいです」

「今日だけですよ?」

湯船に浸かるミネルバは腕の中で甘える主人にそう告げる。

自身にも『今日だけ。今夜だけ』と何度も何度も強く言い聞かせている。

「きょうだけですか?」

「今日だけです」

「……ならいっぱいあまえます」

胸に頬を寄せてきて甘える主人をミネルバはキュッと抱きしめる。

『今夜だけ。今夜だけ……でもたまになら?』と少しずつ誘惑に屈しそうになりながらも、ポーラを抱いて微笑み続けた。

「そうです。ポーラ様」

「はい」

「勝手に姿を消して……何処へ?」

お風呂から出てポーラの体を拭きながらミネルバは問う。

今後の為にも彼女がどこに行ったのかを知っておく必要があるからだ。

「しゅぎょうしてました」

「修行ですか?」

「はい」

タオル越しに彼女の体を拭くミネルバは、ポーラが全身で力んでいるのを感じた。

「つよくなればにいさまもつれていってくれるはずです」

「それは……そうかもしれないですね」

やる気を見せている主人の気持ちを尊重し、ミネルバも彼女の言葉を否定しなかった。

「だからがんばります。いつかおおがたのどらごんにもかちます」

「そうですね。理想は高い方が良いとスィーク様も言ってました」

「はい」

しかしミネルバは知らない。限定的な条件であればポーラは中型すら倒せる事実を。

「でも突然居なくなって皆さまが心配しました。ですから明日は謝りに行きましょうね」

「はい」

素直に頷くポーラを部屋まで送り届け、ミネルバは満足して自室に戻った。

主任として個室を与えられているミネルバは、誰の目も気にせずメイド服姿のままベッドに飛び込み目を閉じた。

明くる日……ポーラは普段通りメイドとして振る舞い。そして心配をかけた人たちに謝って回った。

その様子にミネルバはひと安心した。やはりポーラは賢くて素直な主人であると。

しばらくしてまたポーラは姿を消した。

不意に忽然と姿を消したのだ。そして……

「ポーラさま~!」

と、なりふり構わず走り回るメイドの姿が王都内で目撃されたそうだ。

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