軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

必ずノイエを助けると

「あれ? シュシュだ」

「……」

ガクガクと壊れた操り人形のような不思議な動きを見せて歩いている女性の前で、レニーラは足を止めた。

骨折の後の骨折も治ったはずなのに……彼女の両手にはグルグルと包帯が巻かれ、傷薬特有の臭いニオイを漂わせていた。

「レニーラ」

「あはは~。今日も労働かね?」

気軽にポンポンとシュシュの肩を叩けば、相手は全身筋肉痛らしくビクッと体を震わせて停止した。

「まあ仕方ないよ。ノイエをあんな風にしちゃったんだし……」

本人的には『動じない女』を夢見たらしいが、傍から見るとマイペースが進化しきった感じに見える最年少の少女ノイエ。

彼女のマイペース振りを酷くさせたシュシュは、3人の保護者からキツイ罰を受けていた。

毎日の労働だ。それも肉体労働だ。

「気のせいかシュシュの二の腕が細くなった気がするし、悪いことばかりじゃないと思うよ。うんうん」

また気軽に肩を叩いてレニーラは軽い足取りで歩いて行く。

残されたシュシュは必死の思いで足を動かし畑へと向かうのだった。

「うむ。見つけた」

ようやく発見した。

茂みの奥に隠れるようにして……問題が発生した。もう1人少女が居るのだ。

栗色の髪をした少女だ。

2人は仲良く小動物で遊んでいるようで、栗色の髪の少女が何処かに行く雰囲気が無い。

と、人の気配がして彼女……エウリンカは茂みに姿を隠した。

「ファシー? ノイエも居たのね」

「はい」

呼ばれてノイエはやって来たユーリカに抱き付く。

精一杯背伸びをして来る少女を抱きかかえてやると、嬉しそうに胸に頬を擦り付けて来た。本当にこうしていると母性が目覚めそうで……このままこの子を娘にでもしたくなる。

《いけない。いけない》

軽く頭を振ってユーリカはノイエを離した。

「今日はファシーに用があるのよ」

「わたしですか?」

「ええ。ごめんなさいね」

ノイエと遊んでいる邪魔をするのは心が痛む。

何よりこの後のことを考えると心が破裂してしまいそうになる。

だけどもするしかない。全員成功してノイエを救うしかない。

「私と一緒に来てくれるかしら?」

「分かりました」

普段は人を避けているファシーだが、話すと素直な相手だと知ることが出来る。

優し過ぎるくらいに優しくて臆病すぎるだけの……ただの女の子なのだ。

ユーリカと同じ歳らしいが。

「わたしも?」

「ノイエはダメなのよ。だから誰か遊んでてくれるかしら?」

「はい」

元気に返事をし手を振るノイエをその場に残し、ユーリカとファシーは一緒に歩いて行く。

ならば次の遊び相手をと考えたノイエは、ふと自分に近寄って来る謎の生物に気づいた。

地面を這うようにして接近して来たそれは、ガシッとノイエの足を掴む。

前のノイエなら掴まれる前に逃げ出すことも出来ただろうが……今の少女は自称『動じない女』だ。これぐらいのことでビクッとなっていたら格好が悪いのだ。

相手が追いかけでもして来れば別だが。

「捕まえた」

「はい?」

「少し良いかな?」

「はい」

持ち上げられた頭らしき物から声がする。

長い黒髪の隙間から覗かせる黒い目がジッとノイエを見つめた。

そこでようやくノイエは思い出した。相手がおかしなお姉ちゃんだと。

「ちょっとお姉さんとお話をしよう。なに……痛いことはないよ。ちょっと目を閉じて話を聞いてくれれば良いんだ」

「はい」

相手はおかしい人だけど……話を聞くだけならばとノイエは応じる。

ここでビクッとなって逃げ出すのは格好悪いからだ。

「実験?」

「ええ」

今にも泣き出してしまいそうなほど自分の胸を痛めながら、ユーリカは素直に話した。

見た目が幼くともファシーは自分と同じ歳であり、ちゃんと物事考え判断する知恵を有している。

真っすぐ自分を見つめる桃色の目が潤むのを見て……ファシーはその小さな胸から外に向け息を吐き出した。

「失敗したら?」

「分からない。どうなるのか……」

だからこそ行いたくない。けれどするしか無い。

自分勝手だが護りたいのだ。あの子だけは。

コクンと頷いたファシーは、その目いっぱいに涙を貯めると微笑んで見せた。

「分かりました。実験して下さい」

「けれど」

「はい」

もう一度コクンと頷くと、ファシーの頬を滴が走った。

「わたしもノイエが大好きだから……あの子の為に練習台にしてください」

「……ごめんなさいっ」

溢れ出る思いと涙と嗚咽を我慢せず、ユーリカは自分の前に居るファシーを抱きしめた。

「ごめんなさいファシー」

「良いんです。ノイエが救われるなら」

そう考えればファシーは十分に幸せな気持ちになれた。

自分のことを救おうとあの術式の魔女に挑んでくれた少女を救いたい。それがファシーの本心だからだ。

その為なら自分の身を犠牲にすることなど怖くない。怖くなんて無い……。

「だから約束」

「約束?」

「はい」

涙で濡れている目をユーリカに向け、ファシーは相手を真剣に見つめた。

「必ずノイエを助けると」

「分かったわ」

覚悟を決めてユーリカは相手の目を見つめた。

「絶対にノイエを救う。私は誓う……ファシーに」

「ふっふふ~ん」

鼻歌交じりで施設内を散歩していたレニーラはそっと自分の掌を見つめた。

綺麗だった掌は最近の剣術練習でマメが出来ている。

ゴツッとしてて嫌な感じだ。

《でもまあ仕方ないよね~》

一応ここはドラゴンを退治する人材育成の場なのだ。

カミーラやアイルローゼならドラゴンぐらい倒してくれそうにも見える。

《あの2人が頑張ってノイエを救ってくれれば良いよね。うん。それが最高だな》

また鼻歌を再開しレニーラはふと足を止めた。

地面に描かれていた模様が見えたのだ。

近づいて確認をすると……文字だった。その内容は決して笑えないものだ。

「誰かっ! こんな時はカミューだ!」

慌ててレニーラは駆けて行く。

地面に残されていたのはエウリンカの走り書きだった。

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