軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お姉ちゃんも殺した

顔を上げて辺りを見れば、自分以上の強者がぞろぞろと居る。

本当にこの場所はふざけている。

再確認をしてユーリカは意識がはっきりするのを待った。

「もう終わりか?」

「……まだよ」

気を抜けば疲労から膝の力が無くなる。

それでも必死に足を動かし体を起こす。

踏ん張って立ち上がれば、この施設で最強の人殺しがニタリと笑っていた。

「串刺し……貴女が戦場で嫌われていた理由がよく分かるわ」

「そうか。なら理由を聞こうか?」

ペッと口の中の唾液と血を一緒に吐き出し、震える手で剣を構えた。

「楽しそうに人を殺すからよ」

「そうか」

クルッと棒を回してカミーラは構えた。

「癖だ。気にするな」

いつも通りの猛攻に圧倒され……ユーリカは地に伏した。

全身が痛い。

ここまで容赦しない串刺しも凄いがそれを止めない回りも凄い。

毎日最強に挑んで……たぶん自分の頭がおかしいのだと気付いている。

違う。死にたいのだ。

どうにか体を動かしてゴロンと転がる。体を、顔を空へと向ける。

自分はあの日、全ての闇を吐き出した。

内にしまっていた黒い感情を全て外に出した。

結果として奴隷や護衛を含めて多くの者を死に追いやった。

後悔なんて言葉で言い表せないほどした。罪だって死をもって償うはずだった。

それなのにだ。

「ふにゃ~」

「えっ!」

響いた甘い声に自然と声が出た。

ドスンと足元から飛び込んで来た衝撃に彼女……ユーリカは息を詰まらせる。

「ぐっ……何よ?」

目の端に涙を浮かべて見やれば、この施設で最も自由な少女がユーリカの胸を枕に倒れていた。

「ノイエか」

「はい」

ガバッと顔が動いて少女のクリっとした目がユーリカを見る。

純粋で曇りのない綺麗な瞳だ。

「何してるのよ」

「転んだ」

「どうして転んだのよ」

「危ないお姉ちゃんが」

危ない? 何のことだと少女の首根っこを捕まえて体を起こす。

何故かノイエが胸を枕にし続けているが、気にせず辺りを見渡したユーリカはそれを見つけた。

少し遠い場所に確かに変なお姉ちゃんが居た。

力尽きたのか寝ている様子にも見える……エウリンカと言う名の変人だ。

「あれに追われてたのか?」

「はい」

あの変人は確かに変人だが少女を追い回す趣味は無かったはずだ。

「まああれには気をつけろ。日々の言動が怪しいから」

「はい」

「……ノイエ?」

「はい」

「離れてくれると嬉しいのだが?」

何故かべったりと張り付いてノイエが離れないのだ。

無理やり引き剥がすことも考えたが、後のことを考えると正直気が引ける。

何より王女様である彼女を怒らせるのは……貴族と言う地位を失っていても抵抗がある。

「離れろ」

「いや」

「おい」

「同じ」

「ん?」

フニフニと胸に顔を押し付けて来る少女が、その表情を柔らかくして笑っている。

「お姉ちゃんと同じ。いつもこうするとギュッてしてくれた」

「……そうか」

話は聞いている。ノイエには『姉』が居たそうだと。

けれどもう居ないとも聞いている。ノイエはそれを見ていてとも聞いた。

少し緊張しながらユーリカは手を伸ばし少女を抱きしめてやる。

素直に受け入れて甘えて来るノイエは、自分を信頼しているということが分かる。

その気になれば頭を捻って細い首をねじることも出来る。それなのに少女は大量殺人者である自分に甘えるのだ。

「ねえノイエ」

「はい」

「私は人殺しだ」

「……」

少女の顔が胸から離れてクリっとした目がユーリカの顔を覗き込む。

「魔法を使って沢山の人を殺した」

「はい」

「……怖く無いのか?」

率直な意見だった。この場に居るのは人殺しばかりだ。

けれど少女はそれを理解しながらもこうやって甘えて来るのだ。

と、ノイエはまたユーリカの胸に顔を押し付けた。

「お姉ちゃんも殺した」

「……」

「わたしを救うためにお父さんを石で」

ポツリと呟かれた言葉にユーリカの胸の内がズキズキと痛んだ。

呼吸が苦しくなるほど胸の内が軋んだ。

「でもお姉ちゃんは優しかった。とても優しかった。わたしはいつも甘えてた」

グリグリと顔を押し付けて来るノイエは何かをこらえるような、涙を拭っているようなそんな感じだった。

「わたしを救おうとお父さんを殺したお姉ちゃんは悪い人なの?」

「……」

その返事をユーリカは持ち合わせていない。

胸から顔を離しその目に涙を浮かべたノイエがユーリカを見る。

「お姉ちゃんは何もしなければ良かったの?」

「違う! そんなわけない!」

叫びユーリカはノイエを抱きしめていた。

溢れる涙が止まらない。止めることは出来ない。

だって少女の姉はただ妹を救おうとして父親を手に掛けたのだ。

何もしなければ父親が妹を殺す……それを見殺しにしていたことになるのだ。

選びようのない選択肢に少女の姉はきっと自分の心が付き動くままに体を動かしたのだろう。

石を掴み自身の父親でもある人物に向かいそれを使ったのだ。

確かに殺人だ。けれど何もしなければ妹を見殺しにする。それだって殺人だ。

どちらが悪いのかなんて偉い人が決めれば良い。

どちらとも悪なのだから。人が死ぬのを止めていないのだから。

「ノイエのお姉ちゃんは頑張ったんだね」

きっと深く妹を愛していたのだろう。分かる気がする。

こんなにもノイエは純粋で優しいのだから。

ただもう少し過保護を止めて自分のことは自分で出来るように……たぶん愛が深すぎたのだろう。

こんな風に甘えてくる少女を抱きしめているとその気持ちも分かるが。

「お姉ちゃんも頑張ったの?」

「えっ?」

ふと手を伸ばしたノイエがユーリカの頭を撫でる。

「お姉ちゃんも優しいから頑張ったの?」

「私は……」

良し良しと撫でられているとユーリカの胸の奥からその思いが溢れて来る。

結局自分は要らない子だった。

優れているから嫌われ、期待されているのに女性だからと言われる。

誰も褒めてなどくれなかった。

大切だが褒められない仕事をさせられているのに、必要だからしているのに……誰も何も評価もしてくれなかった。

「ノイエ。私はっ!」

「うん。がんばりました」

ポロポロと涙をこぼすノイエと共にユーリカは声の限り泣くのだった。

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