軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 ユーリカ

私は罪を犯した。と言うよりも罪を犯し続けてきた。

生まれは王国内の西部だ。

領地持ちの上級貴族の長女として生を受けた。

父親が柔和政策の一環として側室にした地元の女性との間に誕生した私は、地元では本当に喜ばれる存在だった。

これでこの領地は1つにまとまってい行くと本当に喜んで貰えた。

武闘派の父親から剣を、魔法使いだった母親からは魔法を教わる。

その2つを体得出来た私はいつの頃から『ユーリカ様が男の子であったら良かったのにと……』と陰で言われるようになった。

結果として正室の子供である兄たちは面白い顔をしない。

側室である母が男の子を生めば騒ぎの元になると……母はある日毒入りの食事を食べて吐血して倒れた。

一命は助かったがベッドから起き上がれなくなった。

毒が体の一部を壊したらしく、腰から下が麻痺して動かなくなってしまったのだ。

結果として母が誰からか狙われることは無くなった。

次に狙われるとしたら……それは私になるのだから。

剣を学び魔法を覚え、いつしか私は領地内で最重要な場所に通うようになる。

炭鉱だ。

山を掘り土を削り突き進んでいくその作業は命がけの物だ。

基本炭鉱奴隷と言う死罪を言い渡された罪人が働く場所でもある。

大半が人殺しであるが、人を殺したのに自分が殺されることを恐れる人が多い。

だから炭鉱を掘り進めることで精神を狂わせ発狂する。

ふとしたことで死と隣り合わせの職場だから仕方のないことだけど。

「お嬢様」

「はい」

私の為に改修された待機室で本を読んでいたら護衛の騎士が飛んで来た。

まただ。

「どうしたの?」

「済みません。新入りが発狂しました」

「そう」

それは仕方ない。

きっとその人は自分の隣に『死』が居ることに気づいてしまったのだろう。

特に新しく来た人はまだ感覚が鋭いからすぐに気づいてしまう。

案内されて歩いて行くと、騎士たちに左右を固められた奴隷が何やら吠えていた。

言葉にならない言葉だから内容などに耳を傾けない。

下手をするとこっちが恐怖や死に飲まれてしまう。

「顔をこちらに」

「はい」

一緒に来た案内役の騎士が慣れた手つきで奴隷の顔を掴んで私に向ける。

物心ついて魔法を覚えてからずっとやって来た仕事だ。だからもう精神的な抵抗は無い。

「わたしの目を見なさい」

命じてこちらから相手の顔を、その目を覗き込む。

「狂う狂う狂う。彼の者の意識を奪いそして偽れ。侵食」

静かに魔法語を紡いで魔法を行使する。

私の視界はいつも通りだがきっとこの紫の瞳はグルグルと回っているはずだ。それが私の魔法の……母から伝えられた魔法の特徴だから。

口の端に泡を浮かべて騒いでいた奴隷の表情から険しさが取れトロンと柔らかな物になる。

そのまま目を瞑れば眠ってしまいそうに見えるほど穏やかだ。

「怖くないわ。死は怖くない」

嘘だ。誰だって死は怖い。死を怖がらない者は絶対に居ない。

口では何とでも言えるがそう言っている者はただ自分が死ぬ番じゃないと思い込んでいるだけだ。

その首に刃を押し付けられれば否が応でも納得する。そして恐怖するだろう。

「誰の傍にも死は居るのだから。それは母親のように恋人のように貴方の傍に常に居る」

死は優しくなんて無い。甘やかしてもくれ無い。無常で無慈悲な存在だ。

「だから恐れて突き放そうとするとかえって近づくの。死とは常に傍に居ると思い行動なさい。怖がらずに……ただその存在を認めて」

「はい」

その顔を恍惚とした表情に変化させ奴隷の彼は作業に戻る。

私はそんな相手の背を見送り、大きく息を吐いて待機室へと戻る。

「お疲れですか。お嬢様?」

「ええ。けれど疲れたのは別の理由なの」

私を気遣う騎士の声に足を止め、今一度炭鉱の入口へと視線を向ける。

きっと彼はまたあの場所に戻り作業を開始する。

別に死の恐怖を乗り越えたわけではない。死と隣り合わせで居ることを"いつものこと"と思い込んでいるに過ぎない。だから何かの切っ掛けで彼は直ぐにでも思い出す。

そうすれば私はまた魔法を掛けて奴隷を炭鉱へと送り込むのだ。

「わたしは思うの」

「何をでしょうか?」

「きっとわたしほど人を殺している女は居ないって」

「……」

騎士は何も答えない。

私の魔法が何であれ炭鉱に奴隷を送り込んでいるという事実は変わらないのだから。

「まあ家の為、国の為ってことは理解しているから……辞めたいなんて言わないわ」

止めていた足を動かし部屋へと向かう。

そう。私はこの仕事を辞めるわけにはいかない。

母がずっとしてきた仕事であり、私が引き継いだ仕事なのだから。

そしてベッドの上の住人となった母親が日に日に明るく元気になっていくのに対し、私は日に日に精神をすり減らして行くのを自覚している。

これはある種の呪いだ。私の体に流れる不浄な呪いなのだ。

《私は産まれるべきでは無かった》

何度も思っては決して口に出来ない言葉だ。

けれどその思いは間違えていない。だって私が産まれなければ……この悪しき魔法は母親の代で潰えていたのだから。兄たちに嫌われ疎まれずに済んだのだから。

《どうして私だけが?》

何度も何度も思い苦しむ言葉を胸の内に溢れさせ、そっとその気持ちに封をする。

溢れさせてはいけない思いだと理解している。溢れさせれば私は狂ってしまう。

だからそっと封をする。誰にも覗かれないように……自分で解き放たないように。

けれどそれは突然やって来た。

甘い声で語りかけ……私が必死に隠し封じてきた胸の内を全て覗いて行った。

放たれた。全ての思いが。隠して来た思いが。

私は笑った。声の限り笑って、そして魔法を使い続けた。

目に見える者全てに、視界に入る者全てに魔法を放ち狂わせた。

そして私は捕らわれて処刑台を昇った。

これでようやく自由の身だ。私はようやく自由になれる。

世の中そんなに甘くなかった。

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