軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の特訓は厳しいけど受けるか?

「なっはぁ~!」

何処から声を出せばそんな音が出るのか?

そんな世にも珍しい声に全員の手が止まった。

ゴロゴロと地面の上を転がっているのはシュシュだ。

ただ対戦相手であるレニーラは呆然自失だ。

それもそのはず、レニーラは何もしていない。

しいて言うならばシュシュが怪我をしたであろう一撃を食らうのをマジマジと見つめていた。

「済まんシュシュ……生きているか?」

「おおう。おう。おうう」

いつものフワフワとした動きを忘れ、彼女は地面の上を転がり回る。

結論として生きてはいるがかなり痛そうだ。

ばつの悪そうな顔をし頭を掻いたカミーラは、その目をカミューへと向けた。

「済まん。医者の手配をしてくれ」

「……良いんだけど、今度から出来たら周りを見てその棒を回してくれる?」

「気をつけよう」

カミーラの対戦相手だった桃色髪の女性は地面に崩れ落ち、大粒の汗を顎先からしたたり落していた。

必死に回避し続ける相手の動きに興が乗ってしまったカミーラの一撃を、フワフワと回避していたシュシュが直で貰い吹き飛んだのだ。

完全な貰い事故である。

「……とりあえずリグね」

苦しんでいるシュシュの様子からして、たぶん確実に骨折しているはずだからだ。

「腰回りが~細くなったよ~」

「はい」

左のろっ骨を数本と左腕の骨をやられたシュシュは、リグの治療を受けて胸から下を包帯でガッチリと固定されている。お蔭でフワフワすることも出来ずにいた。

何よりカミーラの棒で抉られた怪我の個所は包帯で隠れているが、その部分はかなり酷い。

内出血で肌の色が変化し……女性のシュシュとしては余り見て欲しくない状態になっている。

最初の頃とは違い最近は実践訓練や場合によっては魔法訓練まで開始された場所において、怪我人の治療をする者は居ても世話をしてくれる人など居ない。

ただ訓練を免除されている者を除けばだ。

横になっているシュシュの脇腹に濡らして絞った布をノイエは何度でも当て続ける。

まだ幼く何より剣術のセンスのない少女は実戦訓練を免除されている。

魔法訓練は何か呼び出すと大騒ぎになるから呼び出すことも出来ず……結果としてこうして大怪我を負って寝たきりのシュシュの看病をするのだ。

「お姉ちゃん。痛い?」

「すっごく~」

濡らして絞った布を一番酷い部分にあてがい、ノイエは布越しにその部分に手を当てる。

「ノーフェお姉ちゃんが言ってた。痛いところに手を当ててると痛くなくなるって」

「だね~」

少し押されてズキズキと痛むが、ノイエの優しさを踏みにじることは出来ない。

もしあの3人の過保護な姉に知られたら怪我が増えること間違いないからだ。

「ここか」

「ん?」

ノイエが反応し顔を向けると、閉じられていた扉が開いていた。

そこから顔を覗かせるのはカミーラだ。

「済まんなシュシュ」

「あはは~。今度から~気をつけると~良いよ~」

「む~!」

シュシュを傷つけた相手を知りノイエが立ち上がってカミーラの元へ行く。

ポカポカと握られた手で叩かれながら、彼女はノイエを好きにさせながら寝ているシュシュを見る。

「怪我の具合は?」

「左側の~骨がね~。先端が~抉った~部分の~打撲と言うか~そんな感じの~あれが~酷い」

「そうか」

言いながらカミーラは小さな壺を取り出し、ポカポカと叩き続けて来るノイエの頭の上に置いた。

「パーパシから貰って来た軟膏だ。しばらくはそれを塗ってくれと」

「ん~? どこか~行くの~?」

「ああ。急遽外での訓練が決まった」

「逃げ出す~絶好の~機会だね~」

この施設の者たちがその気になれば逃げ出すことなど容易なはずだ。

「だがお前とノイエ。リグは留守番だ」

「あはは~。それだと~半数以上が~逃げられないね~」

ノイエを愛する者は多い。

少女から『姉』と呼ばれ慕われる者は確実に少女を置いて行けない。

そして魔女にはリグと言う首枷がある。

あの少女にも特別製の首輪がはめられていて、施設の関係者が特殊なカギを使うとその時点でリグの首輪が破裂するのだ。

「と言うか~歌姫も~?」

「ああ。何でも彼女の力が居るそうだ」

「そっか~」

器用にも頭の上に壺を乗せたままで、ノイエはカミーラへの攻撃を持続していた。

流石は舞姫の一番弟子だ。

無駄に体幹が鍛えられているのか全く頭上の壺が落ちる気配を見せない。

「まあ頑張って~。ノイエの~面倒は~私が~見るよ~」

「と言うか見て貰え」

「だね~」

現状シュシュはノイエの手を借りないと1人で起き上がることも出来ない。

正直ノイエを独占できるのは有り難かった。

「ん~」

「はい?」

コクンと首を傾げるノイエを見てシュシュは考える。

静まり返ったこの場所に残っているのは自分とノイエだけだ。

と言ってもすることは多い。

まず食料の改善と言うことで、豚と鳥が飼われることになった。

育てて食べろということらしい。必要なら自分たちで繁殖までさせれば良いという趣旨だ。

おかげで『今直ぐに肉を食べたい派』と『数を増やして食べよう派』との間で壮絶な争いが生じた。派閥争いにまで発展したその戦いを終わらせたのたノイエだった。

『雛とか子豚が見たい』と言い出し、増やそう派への勝利を導いた。

最初は『お肉食べたい』と言っていたはずなのにだ。

誰の入れ知恵かは分かっていないがとりあえず増やすことになった。

畑で取れる野菜の葉っぱなどを餌にして豚と鳥を育てる。

糞などは畑のたい肥にするから持ちつ持たれつだ。人糞をたい肥にしなくなったのは色んな意味で助かったとも言えるが。

「私は~思うんだ~」

「はい」

動物の世話をしながらノイエはシュシュを見る。

まだ派手に動けないが、ゆっくりと動く彼女はビシッとノイエを指さした。

「みんなが留守にしている間にノイエが成長して居たら絶対に驚くと!」

「おお」

フワフワを止めて真面目に語るシュシュにノイエは感銘を受けた。たぶん。

「そんなわけでノイエ」

「はい」

「私の特訓は厳しいけど受けるか?」

「はい」

胸の前でキュッと拳を握りノイエはやる気を伺わせる。

うんうんと頷いたシュシュは、またビシッとノイエを指さす。

「ならば私がノイエを何があっても動じないアイルローゼのような女性にしてあげる!」

「はい!」

あの赤い人みたいに動じない女性……ノイエは強くそれに憧れた。

だからこそシュシュの課す課題を耐えて耐えて耐え抜いた。

結果……ノイエの精神の一部が狂ったのか、とにかく何が起きても動じない子になった。

違った意味でマイペースが酷くなりすぎたとも言える。

そしてようやく骨折を癒したシュシュは、施設に戻って来て妹の様子に気づいた過保護すぎるノイエの保護者3人から……この世の終わりを想像させる罰を受けたそうな。

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