軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ところでノイエは何処だ?

「こんな時だけ外に出れるのってどうなんだろう」

愚痴りながらも治療道具を手にしているリグの表情は、普段決して見せないほどの鋭さが宿っていた。

傷は魔法による損傷。皮膚を割いて肉を断ち骨まで抉れている。

熱して消毒した布で傷口を押さえて骨の具合を確認したリグは、放置することを決断した。

自分の師である養父は『骨など放っておけば勝手にくっ付く。医者がすることなどは折れた骨が曲がらずにくっ付くよう案内することだ』と言っていた。

今見える骨は折れてもいない。削れただけだ。

布を動かし断たれた筋肉を見る。

これもまた綺麗に断面が消える。鮮やかに断たれているからだ。

《これなら縫い合わせればある程度戻るはず》

問題は師であるあの人ほどの技術が無い。

本来なら骨折していたらリグだってお手上げだ。治そうにも道具も材料も無いのだから。

お手製の木のヘラで傷口を広げて確認し、助手を務めるパーパシから消毒した針と糸を受け取ってまず肉を合わせる。

それから皮膚を縫って……あとはパーパシの薬草だ。

「傷口を綺麗にして薬を塗って。もしかしたら何日か熱を出すかもしれないけど、それは打つ手がないから」

「分かったわ」

見よう見まねとリグは言うが本当に鮮やかな治療だ。

と、リグは怪我人の手を取ると……その傷口に自分の舌を這わせた。

「何を?」

傷口に塗る軟膏の準備をしていたパーパシはその様子に目を丸くする。

怪我人を前にすると奇行をを見せることのあるリグだが、それでも傷口を舐めるなんてことはしなかった。

「うん。これが無ければこの傷口をもう少し良く出来るんだけど……やっぱり無理だね」

首に巻かれている首輪を叩き苦笑し、改めて傷口を布で拭ってリグはパーパシに軟膏を塗るように頼んだ。

「あまり大きな怪我はしないで欲しい」

「私に言わないで」

「そうだね」

なら誰に言えば良いのか……一瞬悩んだリグだが諦めて立ち上がる。

建物の外には普段不真面目に仕事をする監視が居た。

「終わったか?」

「うん」

「なら戻るぞ」

先を歩く監視を追ってリグは素直に従う。

自分の首に巻かれている首輪は術式の魔女が作った新作だ。

遠隔で仕掛けを発動させることの出来る首輪の鍵を中央の建物で待つ施設長が握っている。彼がその気になれば首から上を失うと聞いているリグとしては素直に従うしかない。

リグの視界の隅にテトテトと印象の薄い少女が走る姿が飛び込んで来た。

彼女が来たのと同時ぐらいで中央の建物へと移動したリグは、確認するように視線でその少女を追う。本当に元気に走り回るノイエは今日も元気そうだ。

「あっ」

「あ」

石に躓いてノイエが豪快に転んだ。

慌てて駆け寄ったリグは膝を押さえる少女を見た。

「ノイエはもう少し足元見た方が良いよ」

「……はい」

小さく首を傾げて『誰?』と言いたげな視線を向けて来る相手に、リグは小さく笑ってノイエの膝を確認する。布で傷口を拭けば、もう傷口には薄皮が生じていた。

本当にノイエの祝福には驚かされる。

「カミューに宜しく」

「はい」

ポンポンと頭を撫でてやり、リグは立ち止まっている監視の元へ向かった。

ノイエはそんな小さいのに大きい彼女の胸を凝視し……ふと自分の胸に目を向けた。

しばらく動きを止めて再起動したノイエは、テトテトと歩いて保護者の元へと急いだ。

「結論としてシューグリットがファシーに向かい吠えたら返り討ちにあったと……それで良いんだな? であの馬鹿の怪我は?」

「リグの見立てだとそれほど酷く無いって。治ってから多少違和感を感じるかも知れないけど、思い通り動くそうよ」

進行役のカミューに振られ、報告に呼ばれたパーパシはそう告げると呆れた様子でため息を吐いた。

最初シューグリットに怪我を負わせたファシーのことをパーパシは非難していた。

しかし事の起こりを聞いたら非難されるべきはシューグリットの方だったのだ。

ファシーはいつも通り施設内の隅で小動物たちと遊んでいた。

シューグリットがその近くを通りかかり、夕飯の材料にとリスを捕まえようとしたのだ。

その邪魔をしたファシーを殴り飛ばし、追い打ちで蹴ろうとしたら彼女の魔法が暴発した。

「ごめんなさい。私は魔法とか詳しくないんだけど、魔法使いって首輪をしていれば魔法って使えないって聞いたんだけど?」

パーパシの問いに魔法使いたちが全員渋い表情を浮かべる。

「ファシーの場合は魔法を使っていると言うより暴発させている」

魔眼を持つカミューは、ファシーの魔法が何故生じたのかをほぼ把握していた。

「この首輪は魔法使いが魔法を使う為の集中を乱す仕掛けだ。集中と言うより魔力の流れと言った方が正しいのだけれど、集中して魔力を流すから……まあそんな感じだ」

専門家じゃないのでカミューは説明を掻い摘んだ。

「で、ファシーはただ魔力を昂らせただけ。結果として流れた魔力がプレートと言う出口から飛び出し……馬鹿か1人大怪我をした」

「ならファシーは今後何かあると人を傷つけるの?」

リグが常に居ない状況では怪我人の面倒を見るのはパーパシの役目だ。

もう2人ほど傷薬を作れる者が居るが、その力量を見た結果……グローディアがパーパシをリグの次と認めたのだ。

「それってどうにかしないと大変なことになると思うのだけど?」

「だろうな」

頭を掻いてカミューはパーパシの言葉を認めた。

問題はこんな時に限って元姫様は月のあれで建物に籠っているし、一番の頼りである魔女は話し合いに参加すらしない。

「姫様は良いとしてあの魔女はもう少し協調性を持って欲しいものだが……」

学院組が全員視線を逸らしたから、たぶん無理なのだろうとカミューは察した。

「問題は魔女を焚きつけるかファシーのプレートをどうにかしないと……ああ。面倒臭い」

『一層のことあの少女っぽいファシーの両腕を斬りやとした方が楽なのでは?』と考えカミューは頭を振った。

こんな時は可愛いノイエの頭でも撫でて……。

「ところでノイエは何処だ?」

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