軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今から~大変だぞ~?

「済まんが、少しずつここの活動が変化していく」

「それは上の判断か何かかしら?」

「そう思って貰って良い」

普段はふざけた態度で居ることの多い監視が珍しく真面目な顔をしている。

壁に寄りかかり話しかけて来る監視は少しやつれた表情を魔女へと向けた。

「お前にはこれからもプレートを刻んで貰うことになるだろう。だが普段は外に出て他の奴らと一緒に暮らして貰う」

「そう」

頷いて魔女……アイルローゼは腰かけていた椅子から立ち上がる。

立ち去るのに準備が必要無いのは助かる。持って行く物は着替えのみだ。

「それであの子は?」

「俺は大丈夫だと言ったんだが」

「体のいい人質ね?」

「そう言うことだ」

スッとその視線を冷ややかにし、魔女は薄く笑う。

「ならば気をつけなさい。もし私を怒らせればここに居る者たちが全員死ぬことになるわよ?」

「分かっているさ。お前ほどの化け物がそんな首輪1つで大人しくするわけがない」

「そう。理解しているのなら問題無いわ」

着替えのみを丸めて抱え、アイルローゼは歩き部屋のドアの前に立つ。

「最後に質問よ」

「何だ?」

「……きっとこのままだとここの施設は破たんする。それを上は分かっているのかしら?」

「分かっていないだろうよ」

クシャクシャと自身の髪を掻き混ぜ監視はため息を吐く。

厳しく流通を制限されていたアイルローゼのプレートがずっと市場に出回る。それを若き宰相が不思議に思い調査を始めた。

贋作が混ざっているのかもしれないとの判断らしいが、切れ者であるあの第一王子なら全てが本物だと気付きかねない。だから一度大量生産を止めて輸出網を構築し他国へと売ることを考えている。

施設を支配する者たちはプレートでだいぶ稼いでいるはずだが、ここの生活が少しも良くならないのは……やはり信念を持って活動している者が少ないからだろう。

だから目先の利益を求め暴走する。

結果としてこの施設の存在が明るみとなり、自分たちの命が危うくなることを馬鹿者たちは気付いていない。

「上の人間が全てお前のような者なら問題は起きないだろうな?」

「そんなことは無いわ」

クスリと笑いアイルローゼはドアのノブに手を掛ける。

「私のような人間ばかりなら……たぶんここを作ったりはしない」

「それもそうだな」

苦笑し部屋を出る魔女を見送った監視は、今一度自分の胸を軽く叩く。

そこには主人から手渡された手紙がずっと納められていた。

「お姉ちゃん」

「はい?」

腰に抱き付いて来たノイエに、シュシュは柔らかな視線を向ける。

こんな風に甘えられる経験が無かったシュシュとしては……何となく妹という存在の良さを理解しつつあった。つまり可愛いのだ。

「青い人が言ってた。お姉ちゃんはいつもフワフワしてたって」

「あ~」

「どうしてフワフワしないの?」

誰がノイエにそのことを告げたのかは分かる。幼馴染のミャンだ。

彼女もまたノイエを自分の妹のように……それ以上に可愛がっている。

「ん~」

言わない方が良いと心の奥で何かが囁く。

けれどジッと見つめて来るノイエの目は卑怯だ。可愛らしくて逆らえない。

「何だろう。あの日以来体が凄く重いんだ」

「……太った?」

「女の子にそれは禁句なんだよ。ノイエ~」

「いふぁい」

ぐに~と頬を左右に伸ばして少女にちゃんと指導する。

言う相手を間違えれば大惨事だ。普段贅沢とは無縁な食生活を送っていても不思議と体重が減らない者も居る。体質と言うらしいが、それでも減らないことに少なからず良からぬ感情を抱くのが女と言うものだ。

「太ってないから。むしろ痩せたから」

「……お胸が?」

「この子はどこでそんな嫌がらせを~」

「いふぁい」

また左右にぐに~と伸ばして躾とする。

「スハと同じくらいはあるからミャンよりも大きいから」

「はい」

赤くなった頬を摩りながらノイエはコクコクと頷いた。

そんな相手の頭を撫でてシュシュは少し苦笑する。

「私は自分の家族とミャンの家族を殺してしまったの」

「……」

「それが心の奥ですごく重い存在になってて私を苦しめるの」

「苦しいの?」

「うん。凄く」

ノイエはそっと手を伸ばしシュシュの胸に小さな掌を当てる。

「ギュッてしたら痛くない?」

「今はね。ノイエがそうしてくれるなら」

「はい」

ギュッと掌を押し付けて来る少女が余りにも真剣で可愛らしい。

「お薬飲んだら治る?」

「無理だと思う」

「どうして?」

「これは心の病だから」

そう。結局のところ自分自身がずっと心を傷つけているからこその痛みなのだ。

分かっている。せめて親友に両親のことを打ち明ければ……きっと酷く怒られ罵られ、その分だけ自分の心が軽くなると。

けれどシュシュは怖かった。

自分が両親のことを告げたら今の彼女は耐えきれるのか?

大切にしていた生徒たちを失った彼女が耐えきれるのか?

何より自分が耐えきれるのか?

「お姉ちゃん」

「えっ?」

「涙」

そっと小さな手が頬を触れる。

どんなに木剣を振るってもマメ1つ出来ないノイエの手は、プニプニとしていて気持ちが良い。

指で頬の涙を拭ってくれる少女をシュシュはそっと抱きしめた。

「ありがとうノイエ」

「はい」

分かっている。どこかで覚悟を決めなきゃいけないのだと。

親友に全てを打ち明けどんなに怒られようが罵られようが……全てを受け入れるしかないのだと。

それで耐え切れなければ、自死すれば良いのだと。

「お姉ちゃん」

「なに?」

可愛らしい顔でノイエはシュシュを見る。

「ならお姉ちゃんはいっぱい色々な物を見なくちゃだよ」

「見る? 私が?」

「はい」

コクンと頷くノイエに迷いは無い。

「お姉ちゃんがいっぱい見たものをいつか家族にお話するの! わたしもノーフェお姉ちゃんに言われたよ。たくさん見ていつかお母さんに聞かせてあげなさいって。だからいっぱい見るの」

屈託のない笑みでノイエはそう告げた。

この子もそしてノイエの姉も、死を終わりとは考えていないのだ。

続きがあっていつかまた逢えると信じているのだ。だから見て告げろと言うのだ。

「凄い考えだね。ノイエ」

「はい」

「私に出来るかな?」

「出来るよ。きっと簡単」

「おお。ノイエは~簡単に~言い切ったね~」

「うん?」

小さく首を傾げるノイエをシュシュは抱きしめる。

そうだ。結局は自分が何で終わりにするのかを決めるしかないのだ。

「よ~し。私も~これからは~色々と~見るぞ~」

「はい」

少女を抱きしめフワフワとシュシュは揺れる。

なら手始めに……まずは親友の元に行こうと決めた。

「ノイエ~」

「はい」

「カミューの~ところへ~行くと~いいぞ~」

「いや。お姉ちゃんと居る」

「今から~大変だぞ~?」

「それでも」

本当にこの少女は変に頑固な一面を見せる時がある。

仕方なくシュシュはノイエの手を引いて一緒にミャンの元へと向かうのだった。

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