軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奇跡の子だね~

「レニーラは難しいと思うよ」

「ん」

木陰で座っていた黄色い髪の女性の元に来たノイエは、彼女の言葉に耳を傾ける。

あの朱色の人の踊りは凄いらしい。でも踊ってくれない。

「セシリーンも難しいかな」

「ん?」

首を傾げるノイエは相手の顔をする。

寂しげに笑っているその人物もやはり悲しそうに見える。

何があったのかは知らないけれど、彼女が楽しそうに笑うところをノイエは見てみたいと思う。

「お姉ちゃんも?」

「私?」

「うん」

みんなの笑顔を求めて元気に活動するノイエに女性……シュシュは苦笑する。

自分が笑うなんてことは出来ない。だって自分は両親を、何より親友の家族までも手に掛けた。

その事実をまだ告げることが出来ずにいる酷い存在なのだから。

「私は良いのよ。今はレニーラとセシリーンでしょ?」

「……」

『そうじゃない』とノイエは言いたかった。

自分の姉が教えてくれた。『人は笑顔で居る時が一番幸せな時なのよ』と。

だからみんなに笑顔で居て欲しい。みんなに幸せで居て欲しいのだ。

「今日はレニーラは止めてセシリーンの元に行ってみなさい」

「……はい」

助言を貰いノイエはパタパタと駆けて行く。

そんな少女の背を見つめ……シュシュは微かに微笑む。

あの子なら本当にこの場に居る全員を救ってくれるかもしれない。少なくとも自分の親友には何かあったのか、ここ最近表情が明るくなった。

《ノイエは本当に奇跡の子だね~》

「……」

「歌って」

パタパタと駆けて来て抱き付いて来た少女は、この施設の中で唯一心を病んでいない少女だった。

横合いから斜めな角度で抱き付いて来たノイエは全力では無かった。だから倒れることも無く立ったままで居られた。

優しく抱き返していたセシリーンは、真っ直ぐ向けられる思いと言葉に返事に困る。

「ごめんなさい。私はもう歌わないの」

「どうして?」

返事に納得いかない様子のノイエが一回離れると、また正面から抱き付いて来る。

セシリーンの胸に顔を押し付けて甘えながらその顔を向けて来る。

目の見えぬセシリーンだが、相手の行動などからその動きを十分に予測できた。

「私は歌で人を殺したのよ」

「……」

目が見えない分、他の感覚が優れるセシリーンは……少女に嘘をつかない方が良いと察した。

この子は確かに幼いけれど決して馬鹿では無い。頭の良い子なのだと分かるからだ。

「この声で人を殺したのよ。その場には貴女よりも幼い子もたくさん居た。私を愛して育ててくれた祖父や祖母たちも居た。その人たちを私は殺したのよ」

「……」

真っすぐな気持ちだからセシリーンも真っすぐ答えた。

ノイエの反応は……ギュッと抱き付いて来ることだった。

背中に手を回し力いっぱい抱き付いて来る少女をセシリーンは優しく抱きしめ返す。

「ごめんなさい」

「いいのよ。ノイエが優しい子だって知っているから」

興味本位で聞いて来た訳じゃないとセシリーンは理解していた。

この子は本当に『歌を聞きたい』と思い、その思いに突き動かされて突撃して来たのだ。

そして自分の行いの酷さを知って心を痛めている。優しくて純粋な子なのだ。

だからセシリーンはギュッとノイエを抱きしめる。

自分は人を多く殺したけれど、この腕の中に居る少女を守る行為をしても良いはずだと。

地面に両膝を着いて改めてノイエを抱きしめる。

自分の肩に顎を乗せて甘えて来る少女にセシリーンは、増々少女の背に腕を回して強く抱く。

「ありがとう。ノイエ」

「ぐすっ」

「こんな私の為に泣いてくれてありがとう」

人殺しの自分にこんなにも優しい気持ちを差し向け泣いてくれる存在をセシリーンは出会ったことが無い。無償の愛を向けてくれたのは家族だけだった。あとは欲に塗れた人たちのどす黒い気持ちばかりだった。

「優しい貴女はこのままで居ればいいのよ」

グスグスと鼻を鳴らす少女に……セシリーンは、ノイエの背中に回している手でポンポンと軽く叩く。

歌わないと誓っているから歌わない。

けれど優しく少女の背を手ていていると自然と奏でていた。

それはただの鼻歌だ。歌だなんて物と呼べないけれど、それでもセシリーンは奏でながら優しく優しくノイエの背を叩く。

少しでも傷ついてしまったノイエの心が癒されますようにと願いながら……。

「そうだよね。歌姫だって歌えないんだよ」

木の裏に姿を隠ししゃがみ込んだレニーラは自分の膝を抱きしめた。

溢れて来る涙が止まらない。

きっとノイエは純粋に歌姫の歌を聞きたかったのだろう。だから彼女も正面から少女の全力を受け止めて真実を伝えた。

溢れる涙を流しレニーラはブルブルと全身を震わせる。

自分だったらあんなことが出来るのだろうか?

きっと出来ない……それが分かるからこそ怖いのだ。

真剣な思いのぶつけ合いだからこそ、軽い気持ちで居られない。

もしあの少女があんな風に真正面からぶつかって来たら……レニーラはその日からノイエを避けるようになり、全力で逃げ出した。

分け目も振らずに全力で逃げる相手に、流石のノイエも追いかけることが出来ず……毎日しょんぼりとする姿を見せるようになった。

彼女を溺愛するカミューの機嫌が日増しに悪くなっていったのは言うまでもない。

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