作品タイトル不明
愛でるのが分かる気がする
「邪魔よ」
「……」
木陰で横になっていたノイエは、その声で起きるといそいそと退いた。
少女を退かした青く長い髪を持つ女性はその場に座ると、機嫌が悪そうに全身に纏わり付いている埃や枯葉を払う。
その様子にノイエは自然と手を伸ばし彼女の背中の枯葉を払おうとした。
「触らないでっ!」
「ひうっ」
大きな声と厳しい視線にノイエは自分の頭を抱えて動きを止める。
一瞬『あっ』とした表情を浮かべた女性……ホリーだが、フンっと鼻を鳴らしてノイエから視線を逸らす。
「いきなり触るなんて失礼よ」
「……ごめんなさい」
「謝ることが出来るなら、最初から一声かけなさい」
「はい」
しょんぼりするノイエに……少しイライラとした様子でホリーは息を吐く。
「カミューが甘やかすからこうなるのよ」
「お姉ちゃんは悪くないです」
「なら貴女が悪いってことね?」
「はい」
コクンと頷くノイエにホリーは呆れながら肩越しに目を向ける。
「だったら貴女を教育している人が悪いのね?」
「……」
「言葉には気を使いない。素直に答えれば良いわけじゃないのよ」
「はい」
コクンと頷くノイエに……ホリーはため息を吐いて自分の背を少女に向けた。
「髪の毛に枯葉が絡んで邪魔なのよ。取って貰える?」
「……はい」
近づいてノイエは丁寧に彼女の髪から枯葉を取り出す。
その間全身の埃を払うホリーが居たが、彼女がどうしてこんなにも汚れているのかはノイエは理解出来なかった。
「お姉ちゃん」
「何よ?」
「ご本」
「……読んで良いけれど分かるの?」
本を抱えてホリーの元にやって来たノイエだが、その本の題名を見たホリーは素直にそう問うていた。
ユニバンス王国史などという本をノイエが何処で発掘して来たのかは謎だが、それを読んでと持って来る彼女の精神も凄い。
受け取ったホリーはニヤリと笑う。
「読んでも良いけど最後まで逃げずに聞ける?」
「逃げない」
ホリーの前にちょこんと座ったノイエはやる気だけを見せている。
『ならば』と覚悟を決めてホリーは表紙を捲った。
膨大な言葉の暴力であっと言う間にタコ殴りにされたノイエだが、約束通り逃げ出したりはしなかった。余りの情報量に最後は泡を吹いて白目をむいていたが、それでもノイエは最後までちゃんと聞いたのだ。
「ノイエをイジメるな」
「あれに纏わり付かれて困っているんだけど?」
「……」
ガシガシと頭を掻いたカミューは何とも言えない表情を浮かべる。
ノイエは基本気紛れだ。気が向いたら誰かの元に向かい何かをやらかす。
最近の被害者は歌姫や舞姫だったが、歌姫とは和解したらしく舞姫は……レニーラは日々全力で逃走中だ。
ノイエが来ると必死に逃げ出す彼女の様子に周りの方が色々とと不安になっている。
次いで目標となったのはどうやらホリーらしい。
「作業の方は?」
「支障は無いわ」
「お前がその辺のことで失敗するとは思えないがな」
鼻で笑いカミューはスッと視線を動かす。
こっちを見ているグローディアが組んでいる腕の手を動かし合図を寄こしている。
「ノイエを余りイジメるなよ」
「あっち次第よ」
「そうだな」
あくまでノイエに対する忠告のように振る舞いカミューはホリーの元から離れた。
パタパタと駆けて来たのは懲りずに本を抱いたノイエだ。カミューとホリーに視線を巡らせ、ノイエは姉では無くホリーの元に駆けてきた。
「お姉ちゃん」
「今日は何?」
「ご本!」
両手で持って突き出して来た本を見てホリーは苦笑する。
ある意味で間違っていない選択だ。自分たちはその存在を退治する為にここに集められたはずなのだから。
「条件は分かってる?」
「はい!」
本を手渡しちょこんと座ったノイエの目は真剣だ。
ホリーも座り手にした本の表紙を軽く撫でる。
条件は簡単だ。読む以上は終わりまで決して逃げないこと。
「なら始めるわよ」
「はい」
本日の本は『ドラゴンの生態について』だ。
言葉の暴力が開始し、しばらくしてノイエがガクガクと震えだすがそれでもホリーは止めない。
終わりまでちゃんと読んで聞かせると……半ば意識を失っているノイエが体をグワングワンと前後左右に動かしていた。
「根性だけは一級品ね。ただの負けず嫌いとも言えるけど」
呆れながら読み終えた本を隣に置いてホリーはその手を伸ばす。
ちょっと手をかけて引っ張れば、ノイエは倒れ込んで来てホリーの膝を枕にする。
「夕飯まではこのままで良いか」
軽く息を吐いて読み終えた本をまた手にする。クスリと笑いホリーは表紙を開いた。
寝ていても言って聞かせたら少しは覚えるか……興味を持っての行為だ。
ブツブツとずっと読み聞かせているとノイエがガタガタと震えだしたが、それでもホリーは言葉を止めない。
夕飯までの時間をそれで潰し、カミューに回収されて行く少女を見送る。
それから暇を見つけてはノイエはドラゴンに関する本を手にホリーの元に来るようになった。
気絶するまで読み聞かせ、気絶しても読み聞かせ続ける。
それでもノイエは挫けずにホリーの元に来ては、その授業とは呼べない時間を過ごすのだった。
「……お姉ちゃん」
また頭の中をいっぱいにさせたノイエが寝言を言いながら伸びている。
膝枕してやりその頭を撫でてやると……自分の弟にももう少し優しくしてやれば良かったホリーは後悔する。
《代わりにしちゃ悪いわよね》
優しく撫でているとノイエが目を開いた。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「……」
膝から顔を離しノイエはジッとホリーを見る。
「えっと……ギュッとしていい?」
「甘えん坊?」
「ん~」
けれどちゃんと声をかけてきた。前に言ったことをノイエは守った。
「良いわよ」
「はい」
軽く飛び込んで来てノイエが胸に顔を当てて甘えて来る。
「こうしたくて私に近づいて来たの?」
「ん?」
甘えているノイエに言葉の意味は理解出来ない様子だ。
けれどホリーとしては悪い気がしない。妹との相手をしているようで嬉しい。
ギュッとその豊かな胸でノイエの頭を包み込んで、ホリーは優しく少女の背を撫でた。
《うん。みんながこの子を愛でるのが分かる気がする》
ノイエは丁度良いのだ。抱き心地が最高なのだ。
こうしてホリーはノイエを『妹』として扱うようになった。
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