軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

いいえ。お師匠様

「にいさま」

見送りは禁止なのでポーラはノイエと並んで窓から彼が王都に向かうのを見ていた。

毎日胸が張り裂けそうなほど辛い時間を過ごしている。

それは手を繋ぎ、その繋いだ手を震わせ続けている姉も一緒だ。

彼女は余り言葉を発しない。ただ代わりに沢山の涙をこぼす。

「ねえさま」

顔を向ければ彼女はやはり泣いていた。

ポロポロとこぼれる涙が止まらない。

ギュッとポーラは姉の手を握った。

「かえってきます」

「……」

涙で濡れる視線が自分に向くのを見た。

「にいさまはかえってきます」

「……はい」

「それに」

グッと一度込み上がって来た感情を飲み込む。

飲み込んでポーラは乗っ直ぐ姉を見た。

「いつものねえさまなら、まってないから!」

「……」

「まつわけないから」

ボロボロと涙が溢れるポーラをしゃがんだノイエが抱きしめる。

静かに……そして力強く。

北側で1人。まあ仕方ない。

今日はナガトを連れてノイエ小隊の人たちも下がって貰った。

住民の避難は……色々と難しいからここは僕が踏ん張って最悪時間を稼げば良い。

せめてもの武器にエウリンカ作であろう魔剣を持つ。どう見ても槍だけどね。

怖い怖くないの感情は意外と静まっている。

この世界に来ていっぱい楽しんだ。ノイエが居て、他も居て……凄く楽しい。出来たらこの生活は終わらせたくない。

だから軽く終わらせてさっさと帰ろう。気づいたら僕は簡単に休めない人なのだ。

これほどの無茶……この4日で走馬灯3回のハイペースで見たのだから無理はしているはず。そんな僕が明日も仕事とかどんなブラック世界だろう?

「まあ……勝てば良いんだけどね」

『世の中そんなに甘くないわよ』

出たな性悪?

『次に会ったら全力で潰すから』

はいはい。それで?

『……ノイエが泣くからせめて生きて帰りなさい』

当然!

『本当。だから嫌いよ』

言葉が消えて僕は正面を見据える。

分厚い雨雲が……ちょっと待て? あれは色々とアウトだろう?

金色の三頭首のドラゴンがゆっくりと飛んで来る。

色んな法則を無視してゆっくりと羽を動かして飛んで来るのだ。

映像にしたら著作権的にアウトなのがラスボスとかどうなの?

「つかゴ〇ラを連れて来いっ! 何で異世界でキングギ〇ラと戦わなくちゃいけないんだよ!」

異世界の片隅で僕は余りの不条理に叫んでいた。

「だる~」

もそっと動きながらイーリナは頭を掻く。

いつもの隊長室だ。違うとしたら小さなメイドが掃除をしてくれて綺麗なのと、机の上には焼き菓子が山と積まれている。

マットレスの傍にある焼き菓子に手を伸ばしそれをモソモソと食べる。

起き上がるのも面倒臭い。何もかもが面倒臭い。

働くのは嫌いだ。と言うか嫌いになった。

魔法学院に入った頃は人並みに向学心もあった。ただ自分の能力以上の仕事を押し付けられた。

好きなことは何一つできず、ただ命じられるままに作業をする日々。寝て起きて作業ばかりをしていたら頭の中で何かが切れた。

何もする気を失った。

だって働いても終わらないし、周りは自分に無理ばかり押し付けるのだから。

だったら好きに生きようと……そう思い振る舞ったら『落第生』になった。

学院を追い出され王国軍に拾われても変わらない。『能力はあるのだから』と言って仕事ばかり押し付けて来る。こちらの気持ちなど一切関係無い。

増々やる気を失ったところで近衛に拾われた。

待遇は今までの中で一番良いかもしれないが仕事は多い。

勝手に仕事量を決められて押し付けられる。それをしなければ給金は得られないのだから拷問だ。

モソモソと唇を動かして焼き菓子を口に入れる。

契約は4日間のはずだった。

初日に予定外で全力で魔法を使った。結果こうして寝ている。

本来なら首根っこを掴まれて現場に引きずられて行くのが普通なのに……それが無い。あったのは山のお菓子と手紙と呼ぶには適当過ぎる紙切れだ。

『ご苦労さん』

それだけだった。それ以降『復帰しろ』と言って来ない。

ゆっくりと体を起こしてイーリナは頭を掻いた。

「何かこれはこれで無能扱いされて面白くない」

仕方なく立ち上がりローブを掴んだ。

「ふにに~」

ギュウギュウに包帯を巻いて貰うが……巻いているナーファの力加減に容赦がない。全力に何かを押し潰す勢いで締め上げて来るのだ。

「苦しいです」

「大丈夫。まだ潰れます」

「なにを~!」

拷問の様な時を過ごし、ルッテは包帯の都合革鎧は着れず代わりに男性物のシャツを纏う。

「行くのかね?」

「はい先生」

病室に顔を出したキルイーツがやれやれと頭を掻いた。

「もう何か所か肺に穴を開けても治してやる。安心して行くが良い」

「いや~。怪我はしたくないんですけどね」

あははと笑いながら頭を掻いたルッテは、ペコリと頭を下げた。

「無理を言って済みません」

「案ずるな。こんな無理は慣れている。医者としては失格だがな」

苦笑しキルイーツは手にしていた矢をルッテに投げた。

一本だけだ。破裂の矢と同じように矢じりの部分に丸い陶器が付いている。

それを受け取りルッテは矢から彼に視線を移した。

「昔の研究で得た技術でな。本来なら外に出さない方が良いのだがな……持って行くと良い」

「はい。ありがとうございます」

もう一度頭を下げてルッテは診療所を出る。

行く場所は北だと分かっている。それに行くまでの足は"彼"が確保してくれている。

ルッテを見送ったキルイーツは廊下を歩きもう1人の患者が居るであろう病室を見る。

見るだけ無駄だと分かっていたが……案の定無人の病室を覗くこととなった。

「さてナーファよ」

「はい」

「包帯と諸々の準備をしておこうか」

「はい。お父さ……いいえ。お師匠様」

改めて娘を弟子とすることとしたキルイーツと、弟子となることを選んだナーファは支度へと向かった。

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