軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宝玉

「王都が大変そうだからこっちに逃げられるのは幸いなんだけどね~」

ブチブチと文句を言っている目の前の売れ残りに対して軽く足を振り上げる。

頭の後ろで手を組んで歩いているはずの小柄な相手は、全てを理解しているかのような足取りで自身の背後から振るわれた足を回避した。

「避けるな」

「避けるわ」

やれやれと肩を竦め彼女……ミシュは不機嫌な上司を見た。

「面白くないのは分かるけどさ~。仕方ないじゃんか~」

「そうは言ってもな」

ガシガシと頭を掻いた彼……ハーフレンは重苦しいため息を吐く。

ユニバンス王国の南部調査。

それが今回彼が無理を押して進めた計画だ。

こうも過去の亡霊が湧いて出て来る状況に詳しい確認の必要を感じた。

あの厄介な弟は終始話を誤魔化しているが、グローディアの遺骨が別人の物であったことは間違いない。つまり南部にあれが匿われている可能性すらあるのだ。

「諦めなって~。ここに来るのは早いか遅いかなだけなんだしさ~」

ケラケラと気軽に笑うミシュの立場が羨ましい。

「お前みたいな売れ残りの独身者には俺の苦しみは分かるまい」

「おうおう。喧嘩売ってるんなら買うぞ?」

腕まくりをして襲いかかろうとするミシュは周りの者たちが制する。

言葉までなら諦めているが、流石に王弟閣下に実力行使は止めるしかない。

「全員私の敵かっ! 私は上司だぞっ!」

「少なくとも俺はお前の上司だな」

「あはは。そんな細かいことを気に居する男はモテないぞ?」

「モテなくて良いさ。嫁は居るからな」

「良しその喧嘩買った。うな~! 離せ~!」

強制連行と言うことで、ミシュは担ぎ上げられ運ばれて行く。

その様子を眺めもう一度ため息を吐いた彼は……諦めて足を動かした。

「お久しぶりです」

「リチーナの婚姻以来か」

「訪れることが出来ずに申し訳ないです」

「仕方あるまい。貴方は王弟閣下であり近衛団長だ。その忙しさは理解している」

固く握手を交わし出迎えに出て来たミルンヒッツァ家当主と挨拶を交わす。

現当主グロームは齢の頃なら50代に見える文官肌の真面目な人物だ。

前王の頃より王家に対し忠実であり、もしこの一族が王家に対しての反意を抱いているなら南部には味方がほとんど居ないとも言える。

案内された応接室でハーフレンは義父と相対する。

「知ってはいるが聞かない訳にはいかないな」

1人掛けの椅子に腰かけ、グロームはゆっくりとその目を王弟へと向けた。

「来訪の訳は?」

「ええ。南部の調査です」

「調査?」

「建前ではそうなっています。実質は監査です」

「なるほどな」

軽く頷いてグロームは目を閉じた。

「南部にはルーセフルト家が存在していた都合、独立志向の貴族が多い。だからかね?」

「それも理由の1つです」

真っすぐ相手を見据えハーフレンは覚悟を決める。

「現在王都ではエルダーの亡霊に悩まされています。あれが暗躍した残滓が残って居る可能性が高いと判断し、自分は南部の調査を陛下に進言し上申しました」

「つまりあの天才が残した何かがこの国を乱すと?」

「可能性は十分に」

「そうか」

数度頷いてグロームは目を開いた。

「我が家は主流では無いとは言え、上級貴族であり面倒を見ている貴族もそれなりに居る。故に義理の息子とは言え簡単に調査を応じるのもな」

「お立場は理解しています。ですがお願いします」

「……だからウチを最初に選んだ訳か」

妻の実家であるミルンヒッツァ家を最初に調べる。

それも徹底的に調べ……もし不備があればそれを正す。

何者に対しても例外は無いと強い意志を示すのには十分とも言える。

「もし不備があれば?」

「猶予は1年とします。それを正すのであれば陛下は罪に問わないと」

「正せぬ家は1年後に罰を与えると言うわけか」

理解しグロームは息を吐いた。

「良かろう。ならば我が家を調べ不備を探すと良い。必要ならば……多少のことは目を瞑ろう」

「グローム様」

こちらの意図を察し応じてくれた相手にハーフレンは心の底から安堵した。

やはりこの家は変わらず王家に対し忠義の厚い一族なのだと理解した。

「コンスーロ」

「はい。では始めさせていただきます」

「モリソン。家の者たちにも伝え協力を。それと……」

執事らしき者に指示を出し、グロームは改めてメイドに飲み物の準備をさせる。

流石にワインとも行かず紅茶が置かれた。

「ハーフレン様」

「はい」

「娘は?」

「ええ。最近は天気が悪いからと馬に乗れず」

「あのお転婆は」

額に手をやり、やれやれとため息を吐くのは父親そのものだ。

「でもこの国は本当に良くなった」

「そうですね」

「私たちが若い頃は荒れてばかりで……年を追うごとに悪くなっていった」

始まった昔話だがハーフレンはそれから逃れるという選択肢が無い。

こちらが軽度の罪を作ってでもミルンヒッツァ家を罰すると宣言しての調査をしている都合、相手の愚痴であろうが何であろうが話を聞くしかないのだ。

「大国に攻められ子供まで戦場に出す頃になった時は、本当に国の先行きに絶望を感じた物だよ」

一定の年齢の大人なら誰もが抱く感情なのかもしれない。

「でも今では王都に英雄が現れ、その夫は……まあなんだ……色々とあれではあるが……」

古参の文官ですら言葉に困る弟を持つハーフレンとしても助け船の出しようがない。

あれは本当に特殊過ぎるからだ。

「だがこの国は良くなって来た。ようやく平和になりそうだ」

「そうですね」

「他人事のように言わんで欲しいな? 貴方もこの国を良くする力であろう?」

「そうありたいと思いますよ」

ハーフレンの本音が口から自然とこぼれ出ていた。

良くするために頑張っていくが本当に良くなるのかはまだ分からない。

と、ハーフレンは自分の後ろに気配を感じた。こんな馬鹿なことが出来るのはただ1人だ。

「どうした?」

「……」

何も答えない彼女を肩越しに見ると、ミシュが剣の柄に手を置いていた。

「優れた護衛ですな。ハーフレン様」

「グローム様?」

彼の背後にもモリソンと呼ばれた執事が現れ、そしてグロームは執事から荷を受け取る。

「私も昔……夢を見た者の1人でしてね」

片手で持った布の包み。グロームが布を解くと透明な玉が姿を現した。

報告もありハーフレンはその玉の正体を知っていた。

「宝玉」

(c) 2020 甲斐八雲