軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

豚小屋で起きても驚くのダメ

「それは本当か?」

「です~」

国王としての仕事を終え、それから宰相としての職務を果たし、ようやくシュニットが寝所へ来るのは夜も更けた真夜中になる。

普段なら読んでいる本をそのままに寝ているはずの王妃が起きていた。

何か用が無ければ惰眠を貪る彼女が夜更かしなどしない。案の定……問題事だった。

「3日後……もう2日後か。それから毎日4日の間、大型に匹敵する力を持つドラゴンが王都近郊に湧くと?」

「です~」

パタパタと両足を動かしキャミリーは笑う。

その様子を見ていると父親と一緒に眠りたがっている娘のようにしか見えないが、幼い容姿をしていても彼女はユニバンス王国の現王妃である。

夫婦の寝室と言うこともあり、普段ドレス姿の王妃も薄手の寝間着姿である。

「それをアルグスタは相手すると言うのか?」

「です~。ノイエおねーちゃんは、力を使えないです~」

「そうだな」

でなければ、あの弟がドラゴンを自ら相手しようとは考え無いだろう。

座るキャミリーは『うんしょうんしょ』と声を発してベッドに横になった。

「さあ寝るです~」

「厄介事を告げて……王妃は気楽だな?」

「です~」

横になるのに乱れた寝間着を直し、キャミリーは夫を見た。

「流石のおにーちゃんも今回は頭を抱えてるです~」

「そうだろうな」

現状弟の手駒と言えば、騎士ルッテと客人のモミジぐらいだ。

モミジの兄が王都に居たらしいが、何でも騎士の尻を追って南部に向かったとの報告を受けている。

どう見ても絶望的だろう。

「キャミリーよ」

「何です~?」

「今回もアルグスタは引っ繰り返すと思うか?」

「無理です~」

笑顔で彼女は断言した。つまりそう言うことだ。

深く息を吐いてシュニットは思案する。動かせる人員は多くない。

「近衛の魔法使いさんと怖いお婆さんぐらいです~」

「お前もそう思うか?」

「です~」

頭が良すぎる子だ。

シュニットは娘でもあやすように妻の頭を撫でる。

彼女の言う通りドラゴンが相手となると、近衛の魔法隊隊長とユニバンス最強の警護人ぐらいだろう。

だがそれとて4体となると……弟の祝福がどの程度通じるかによって危うい。

「あと1人居るです~」

「誰だ?」

「お屋敷から出れないです~」

「……」

確かに居る。本人の言葉を信じれば、大陸屈指の実力を持つ者が居る。

だが彼女は……母親は外に出ることは出来ない。出すわけには行かない。

「8人目を使うです~?」

クリっとした目で見つめて来る妻の頭をもう一度撫で、シュニットは息を吐いた。

「……使えんよ」

「です~」

使えれば確かに楽なのかもしれないが、現状はかなり難しい。

「アルグスタの強運を信じるしかあるまい」

「です~」

笑い、キャミリーは夫の隣で今夜もぐっすりと眠った。

夜空が綺麗だな。

ベランダに出て外を見る。

本来なら暗殺対象の僕がこんな場所に出ることなんてダメなんだろうけど、何となく星を見て考えたくもなる。

現状は絶望的だ。

ホリーお姉ちゃんが居れば突拍子もない作戦を考えてくれそうだけど……だったら総動員してドラゴンの相手をさせる。つかノイエが居れば問題無いんだけどね。

「あ~」

ベランダで座り寝っ転がる。

満天の星空だ。星座なんて覚えてないから地球との違いなんて分からない。

綺麗な物は綺麗で良い。それで十分だ。

ぼんやりと夜空を見つめていたら、黄色のシースルーな生地が視界を塞いだ。

「アルグ様?」

「起きちゃった?」

眠っていたから平気かとこっちに移動してたんだけど……起き出して来たノイエはペタンと女の子座りをすると僕を膝枕してくれた。

「……ごめんなさい」

「どうして謝るかな?」

「でも」

「大丈夫。今のノイエはちゃんと僕のお嫁さんをしていれば良いのです。もう少ししたらみんなを取り戻してみせるから」

「……はい」

変わらない無表情だけど、今はまた泣き出しそうな感じに見える。

そっと手を伸ばし彼女の頬を触れると、ノイエが自分の手を重ねた。

「ねえノイエ」

「はい」

「ノイエは普段からどう思っているの?」

「?」

へにゃっとした動きで彼女のアホ毛が『?』を作る。

左目を封じられたせいかアホ毛まで元気が無くて困るわ。

「たまにおかしいとか思わない?」

「……」

「あっちに居たのにこっちに移動してたとか……そういうの」

普段なら絶対に聞けないこと。でも今のノイエなら聞いても問題無いはずだ。

何よりずっと気になっていた……彼女は本当に何も気づいていないのか?

「……豚」

「はい?」

「豚小屋」

僕の質問が間違っていたのでしょうか? 間違えてないよね? ねえ?

『頑張ってノイエ』と視線を向け続けたら、彼女が頑張ってくれた。

「フワフワの人が言ってた。ビクッてしたら格好悪い」

シュシュだな。良く分からんが今度会ったら変顔させてやる。

「豚小屋で起きても驚くのダメ」

それは流石に驚いて良いと思う。寝て起きたら豚小屋とかどんなイジメかと。

「鳥小屋は体中突っつかれる」

ただの罰ゲームだな。

「枝の上は落ちる。痛い」

普通に拷問だ。今度シュシュには罰を受けて貰おう。

「だからビクッはダメ」

「驚いても良いと思うぞ?」

「ダメ。格好悪い。赤髪の人なら絶対に驚かない」

グッと拳を作ってノイエがそう言う。

赤髪だと……先生か姐さんか。たぶんその2人でもその状況下なら驚くぞ? 何気にノイエさん……動じない女に憧れとか抱いてますか?

「だから驚くはしない」

「そっか」

「何があっても」

ノイエが僕の胸に手を乗せる。

「それにアルグ様、言った。カミューも言った」

彼女の顔を見るとどこか微笑んで見えた。

「みんな居る。傍に居る。だから平気。でも……」

「ああ。だから取り戻そう。心配するなノイエ」

「はい」

そっと彼女の頭を引き寄せてキスをした。

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