作品タイトル不明
働いたら負けだ
「大丈夫よノイエ。お母さんの胸で存分に泣きなさい。こんなに震えて……大丈夫ですからね」
正面から抱き付かれ必死に抵抗して居るのであろうノイエが、完全に義母さんに弄ばれてる。
震えているのはたぶん呼吸が出来ないから苦しいのかもしれない。
力を失った代償はこんな所でも悲惨な何かを生み出すものなんだな。
「にいさま」
僕の足にしがみついて来るポーラが半泣きの状態で見上げてくる。
「さあポーラ。姉様を頑張って救うんだ」
「……」
気のせいかポーラの顔に縦線が数本浮かんだように見えた。
そんな漫画じゃないんだから気のせいだ。
頑張って彼女の背を押しポーラにノイエの救出を任せたら、お義母さんが両手に花とばかりに2人を抱きかかえてしまった。恐ろしい母性だな。
「それでアルグスタ。今日は何用で?」
義母さんの様子に呆れ果てたスィーク叔母様が気を取り直して話しかけて来た。
「はい。実は叔母様のご協力を得たくてやって来ました」
「わたくしの?」
「はい」
「訳を聞いても?」
「掻い摘んで」
本当に掻い摘んで説明をする。
まずノイエが力を失っていること。そしてある筋からの情報で、明後日の朝からこの王都を大型に匹敵する力を持つドラゴンが襲いかかることだ。それも4日間毎日1匹ずつだ。
流石の叔母様のこめかみがピクピクと動くのを僕は見逃さなかった。
「叔母様も知っての通り、僕の祝福には決定的な問題があります」
「致命的な問題と言った方が正しい気がしますが」
「あはは」
笑って誤魔化すけど実際はその通りだ。
僕の祝福はドラゴンに対しては最強だけど、当たらなければ意味が無い。
下手な話、攻撃する前に攻撃されたら即終了なのだ。
「つまり強力なドラゴンに立ち向かえる人材が必要と?」
「そうなります」
「……」
何やら思案する叔母様なら一発逆転の何かを考えてくれないかな?
「圧倒的に不利ですね。まずこちらの駒が足りません」
「ですよね~」
その通りだ。現状最大戦力はルッテのみだ。
モミジさんは他のドラゴンの迎撃に回すしかない。
もう少し遅ければ雨期で他のドラゴンが動きを止めていたはずだけど。
「あの弓使いとわたくしだけでは万が一が生じかねませんね」
「ですよね? 他に誰か居ませんかね?」
「この国で普通にドラゴンと戦える者など……後はクロストパージュの戦士団ぐらいでしょう」
「あそこは……」
使えるのなら間違い無く最大戦力だ。
あのエロ爺なケインズのオッサンが指揮していたクロストパージュ家の魔法戦士団は、ユニバンス王国で最強の少数精鋭部隊とも言える。
ただそんな彼らの仕事は東部の穀倉地帯の防衛だ。もし万が一穀倉地帯に何かあればユニバンス王国は食糧難になってしまう。
故にあそこの戦士団は動かせない。
「それか後はフレアですか」
「スィーク様?」
怯えたような声に視線を向ける。
ノイエが来るまで義母さんの玩具になっていたフレアさんはソファーに浅く座っていた。
はっきりと分かるくらいお腹が大きくなってて……あれで戦場とか無理。もし万が一馬鹿兄貴に何かあった場合、現状フレアさんのお腹の子が跡継になる可能性すらある。
陛下もその時は自分の養子にしてとか結構本格的に頭を悩ませていたしな。
両手でお腹を護る様子のフレアさんを見ているとやっぱり巻き込めない。
「フレアさん。魔法学院に誰か居ない?」
「現状強力な魔法使いは……」
フレアさんに質問をしたら歯切れの悪い返事が。
あそこは戦争やあの日の出来事を受けて優秀な人材を大量に失っている。その内何人かはノイエの中に居るけれど。
「あっ」
何か思い出した様子の彼女が声を上げた。
「居ます。1人だけ」
「本当に?」
そんな隠し玉がまだ居るとはっ!
「ですが協力して貰えるかどうか……」
「大丈夫。必要なら陛下に頼んで」
「それでも動くかどうか」
おい待て? 国王様の命令に背くってどんなお馬鹿さんなの? 下手したら首が飛ぶよ? 物理的にスポンと。
「で、誰?」
「はい。そちらのポーラが弟子入りしようとしている人物です」
スッと視線を向けたら、ノイエとポーラが義母さんに掴まり頬ずりされていた。
完全に感情がお亡くなりになっているノイエはなされるがままの人形と化し、ポーラはまだ逃げようと必死に足掻いているが……相手が悪すぎるな。うん。
「で、誰?」
「……近衛魔法隊の隊長です」
「そんな人居たの?」
近衛に魔法隊があるのは何となく聞いた気がする。
でも隊長とか居たんだ。まあ魔法隊と言うだけあって隊長は必要か。
「彼女、イーリナは私たちより下の世代となります」
「優秀なの?」
フレアさんの下の世代と言うことはそれなりの年齢のはずだ。
あの日にヒャッハーしていないのなら能力的に問題有りとか?
「優秀です。彼女が……まあ問題を犯さなかったので、あの年齢より下は大丈夫と判断されました」
言葉を濁しながらフレアさんがそう説明してくれた。
なるほど納得だ。そのイーリナと言う人物の上の年代までがアウトだったのか。
でもそんな優秀なのに全く全然話を聞かないのは何故だろう?
「全く知らないんだけど?」
「ええ。あれはその……」
全力でフレアさんの目が泳ぐ。
「働くのが大嫌いなのです。必要なら月一のあれが毎日起きたり、『働いたら負けだ』と言って自室に籠ったりとそんな訳で」
あれ? どこかでそんな話を聞いたことがあるぞ? 最後は『本気を出せばこんなの楽勝なんだけど』とか言い出すの? ねえ? それってどこのニート?
「……何か説得する材料は無い?」
「難しいかと」
「好きな物とかこととか」
しつこく食い下がったら、フレアさんがハッと目を見開いた。
「アルグスタ様ならあるいは説得できるかもしれません」
僕限定って言葉が大変気になるんですけど? 別に僕は変人専門の調教師とかじゃないんだからね?
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