作品タイトル不明
追憶 カミュー 結
「母さんっ!」
会心の一撃だったから相手の生死など確認せず、カミューは迷うことなく蹲る王妃に駆け寄り彼女の体を起こす。
そこでカミューはそれを見た。
王妃の顔が、体が、その表面が崩れ蠢いている様子を。
「母さん……」
何が起きているのか全く理解できない。
理解出来ないが良くないことが起きていることぐらい察しがつく。
言いようの無い不安に駆られながらもカミューは彼女を抱きしめた。それしか出来なかった。
「カ、ミュー」
「かあ……王妃様っ!」
弱々しい声にカミューは相手の顔を、たぶん目である場所を見つめる。
「……かあ、さんて、よんで、くれない、の?」
口も崩れかけ言葉がはっきりと伝わらない。それでもカミューは相手の言葉を理解していた。
ずっとずっと毎日のように接して来たのだから。
「……母さん」
「まあ。うれ、しい、わ」
涙越しに見る王妃は見れた姿をしていない。
血が溢れ出しドンドン酷くなっている。
「おね、がい」
「はい」
「ころ、して」
「……」
心臓が大きく脈打ち、呼吸が止まった。そんな気になった。
そしてカミューは目の前が真っ暗になるのを感じる。
今自分の大切な人は何と言った?
「出来ません」
「おね、がい」
「出来ませんっ!」
溢れる涙が止まらない。溢れる思いも止まらない。
「こんなわたしに優しくしてくれた母さんを殺すだなんて出来ない。出来ないです……」
嗚咽で言葉が詰まる。それでもカミューは続けた。
「大好きな母さんをっ!」
「……ありが、とう」
伸びて来た手は皮膚が向け血液で濡れていた。
そんなラインリアの手がカミューの頬を優しく撫でる。
「でも、くる、しいの。とても」
「……」
「おねが、い」
涙で何も見えない。それでも習性でそれの場所は覚えていた。
殺された護衛の1人が使っていたナイフが手の届く場所に落ちていることを。
泣きながら手を伸ばしナイフを掴むとカミューは『母』を床に横たえた。
溢れる血で濡れたドレスの胸元……その中心にナイフの先端を押し付け、動けない。
「ごめんな、さい」
「母さん?」
「あなたは、やさしいこ、だから」
聞こえる声を残さず聞きながらカミュー涙越しに相手を見つめる。
「ごめんなさい。母さん」
「いいの。へいきよ」
顔の大半が崩れている彼女の表情は見えない。見えないのにカミューは分かっていた。
母さんがいつもの笑顔で優しく微笑んでいることを。
結局ナイフを突き立てることの出来ないダメな暗殺者に優しく微笑んでいることを。
だったら勝負をするしかない。
命を奪うくらいなら僅かな希望にすがり、運を天に任せる。
ナイフを握ったままでカミューは自分の全てを左目へと傾ける。
"魔眼"を使い王妃を食らう。
《お願いっ!》
全てを振り絞り左目に意識を集めるが……どうしてか左目が反応しない。
普段ならちょっと意識を向けるだけで勝手に全てを食らう暴食の左目が。
《何で?》
魔法じゃないから? 術式じゃないから?
理解出来ない現状にカミューはその接近に気づけなかった。
「カミュー! そのナイフを離しなさいっ!」
飛び込んで来たメイド長の言葉にカミューは自身の手を見て……ナイフを手放す。
駆け寄って来た彼女に殴られ、胸を踏まれた。
「王妃様に何をした」
「……」
『ああ。そうか』と不意に自分の中で何かが分かった気がした。
「わたしがこの魔眼を使って王妃に呪いをかけた。ずっと待って居た……わたしは彼女を殺すためにここに来たのだから」
迷うことなく言葉が出た。何故か笑いも込み上がって来る。
何も出来なかったダメな『娘』が唯一出来ること。
それは王妃をおかしくした罪を全て被ることだ。
「そう」
冷たい声音の声を浴びせられ、カミューは頭部に蹴りを食らって意識を失った。
《面白くないわね。誰の企画よ全く》
魔眼の右目に住まうその存在は頬杖をついて不満気なため息を吐く。
《あの王妃を取り込んで調べても……まあどうせ異世界のドラゴンだろうから興味ないけど》
それ以上に取り込むことでこの中を荒らされることを彼女は嫌った。
《これで増々この世界の歪みが進みかねないし……今しばらくは体力温存ね》
素質はある宿り主だが、問題は魔力量が少ない。
故に右目の住人も自身の魔力を温存したかった。
《まあこの子には悪いことをしたかもしれないけど……殺されたりしたらどうしよう?》
二度の王妃暗殺だ。今回ばかりは無理かもしれない。
少し焦りつつも右目の住人は今しばらく待機を選択するのだった。
自分が動くのが面倒臭いから。
カミューへの事情聴取などは形ばかりの物だった。
王妃を二度も暗殺しようとした彼女など最初から生かす価値が無いと判断された。
何より本人が全ての罪を認めている。
あっさりと全ての罪を被り『魔眼』という便利な言い訳を使い……彼女は改めて作られた処刑台を最初に登ることとなった。
ただ俯き……自分が踏みしめて昇る階段を数えるかのように。
多くの者の命を奪うはずの処刑台。
けれどその処刑台で処刑された者の大半は生き残り、別の場所へと運ばれて行った。
そして送られた先で罪人となった者たちは1人の少女と出会う。
『天使』と呼ばれ愛された女の子にだ。
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