軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

あのお姫様は何と呼ばれていた?

「あら? 王女様に攫われたって聞いたけど?」

「ただの話し合い」

「そう」

夕暮れの時間となり、カミューが居ないからパーパシを中心に夕飯の準備が進んでいた。

一瞬合流することも考えたが、気疲れからかカミューはホリーたちの居る木陰に移動してそこに座った。

「それで王女様は何て?」

「ちょっとした確認よ」

「……」

ジロリとホリーが視線を向けて来るがカミューは答えない。

それでも相手の頭の良さは理解しているから、自分の秘密に傷が入らない程度に話す必要を感じた。

「私は王妃の屋敷で働いていた」

「暗殺者が?」

「しくじって飼われてたのよ。あそこには物凄い化け物が居るから」

「それで王女様に色々と聞かれた訳?」

「そう言うことよ」

鼻で笑ってカミューはゴロリと横になる。

と、普段なら枕替わりになるリグが居ないことに気づいた。

「枕は?」

「あの子なら向こう側に行ったわよ」

「怪我人を見つけないと気が済まないの?」

「ある意味で病気なんでしょう」

言ってホリーは立木に背を預けて空を見上げる。

「ねえカミュー?」

「なに?」

「どうしてここに王女様が居ると思う?」

「本人が言うには、自分も私たち同様に人を殺したとか。何でも家族と屋敷の者を全員」

「……それぐらいの理由で、国王陛下が王位継承権を持つ王女をここに入れるの?」

「さてね。私にそんな難しい話を聞かないでよ」

横を向いてカミューは相手に背を向ける。

「カミーラみたい言い訳ね」

「人殺し同士似た思考なのかもな」

「そう言うことにしておいてあげるわ」

ホリーは両足を伸ばして軽く体を動かすと、ゆっくりと立ち上がった。

「まずはお姫様以外の面倒臭い人が居ないか確認しないとね」

「頑張れ」

「流石にイラッとするわよ」

言葉を残しホリーはフラッと歩いて行った。

「リグが戻って来ないって?」

壁が崩されてから2日。向こう側に行ったらしいリグが戻らないと言う。

その報告を聞いたカミューは『自分は保護者じゃないんだが』と不満を覚えた。

「保護者なら同じ学院に居たミャンの方が適役だろう? あっちに任せろ」

「それがミャンも居ないのよ」

建物の入り口に寄りかかり、中を覗いたホリーがそう告げる。

面倒臭そうに息を吐いてカミューは寝床から起き上がった。

「別にお前が向こうに行って聞けば良いだろうに?」

「護衛は欲しいわ」

「あっちは王女様が支配しているんだから安心安全よ」

「私はその王女様を信用していないのよ」

立ってしまった以上はどんな言い訳をしても無駄だと理解している。

カミューは歩き出し……何となく腹いせに軽く相手の胸を叩いてから建物を出た。

「無事ね」

「そうね」

出会う人たちに『小さいのに大きい子はどこに居る?』と聞いたらあっさりと案内された。

黄色い髪の女性に群がる同性たち。左右の膝を少女たちによって枕にされ、背中には同じくらいの年頃の女性が張り付いて頬ずりしている様子は、急いで医者を呼びに行った方が良い気もする。

問題はこの場に居る最も医療に詳しいであろう存在が膝枕で寝ていることだが。

「あの子って確か?」

「ああ。連れ出されたシュシュよ」

他の場所に移されたと聞いていたが、死ぬことを選ばずに生きて居たようだ。

二重に確認をし、カミューは一緒に来たホリーの背を軽く叩いて後を任せた。

知り合いに出会って甘えているのなら気にすることは無い。

軽く向こう側と呼んでいる場所に目をやるが、どうやら自分たちと同じように2か所に別れていたのであろう住人が、現状男女に別れて暮らしているようだ。

争っている気配は感じられない。

何よりこちらには"王女"様が居るのだから無茶をする者も居ないのだろう。

あのカミーラですら生まれ持った支配者を前に流石に身動き1つ出来なかった。

本能なのだろう。自分が支配者でなく服従する者だと魂に刻まれているのだ。

カミューとて当初グローディアを前にしばらくは緊張して動けなかった。

地位で言えば王妃であるあの人の方が上であるにも関わらず……どうしてもグローディアには馴染むことが出来なかった。

《それが生まれ持っての支配者と言うことか》

苦笑いを浮かべカミューは彼女と話し合ったことを思い出す。

別に難しいことを話した訳でもない。あの日あの屋敷で何があったのかを問われただけだ。

だから包み隠さず自分が知ることを教えた。

護衛の1人が狂い仲間を皆殺しにしたことを。

自分がその彼女を殺したことを。

蹲り苦しんでいた王妃様が血まみれになっていたことを。

そして……『殺して』と頼まれてそれが出来なかったことをだ。

グローディア王女があの人のことをどう思っていたのかなどカミューも知っていた。

自分と同じように甘えていたのだから……それは母親に愛情を求める姿に似ていた。

《私とお姫様は似ている》

得ることの無かった愛情をあの人から得ようとしていた。

だから何を対価にしても……。

ふと足を止めてカミューは自身の中に生じた疑問に震えた。疑問というよりも可能性だ。

あのお姫様は何と呼ばれていた?

神童だ。

術式の魔女と呼ばれる存在には遥か及ばなかったが、それでも数十年に1人と呼ばれた逸材だ。

もしあの日の出来事を起こしたのが彼女だったとしたら? それを知った王家の者が口封じの為に処刑し……何かの手違いでこの場所に送られたのだとしたら?

可能性だ。あくまで可能性だ。

カミューは静かに頭を振って自分の中の嫌な疑問を追い出した。

もし仮にそうだとしても自分は何も出来ない。ここに居るのは死人なのだから。

気持ちの捌け口を求めてカミューは立木に向かい拳を振るう。

いつも通り魔法を使おうとして封じられていることに気づいたが拳は止まらない。

殴りつけて違和感に気づいた。

薄っすらだが……強化魔法が拳を保護したのだ。

《どうして?》

自分の拳を見つめてカミューは眉を寄せる。

これ以上難しい話など頭の中に詰め込みたくは無かった。

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