軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

話があるから付いて来なさい

「忘れてたわね」

壁を見上げてカミューは大きく息を吐く。すっかり忘れていた。

前に壁を壊し向こう側と繋がってから特に問題も起きなかったから本当に忘れていた。

本来なら問題が生じ、それが心に棘のように刺さり忘れないはずなのだろうが……壁が壊れてから喧嘩の類はあったが大きな混乱は起きなかった。

その理由はカミーラと言う凶器な存在が居たからだ。

彼女は普段我関せずと横になって居るばかりだが、何かあれば一番に乗り込んで両成敗する。

自分以上に恐怖政治を敷く存在にカミューは静かに過ごしていた。

と言っても不思議と仕事はある。気づけば両方の食事を作ることとなり、現在も鍋をかき混ぜながら『どうしてこうなった?』と不思議に思っている。

その辺りのことは、悟りを得たのでカミューは頭の隅に追いやる。

今の問題は目の前の壁だ。

男たちが暴君の逆鱗に触れない為に必死に壁を壊そうと頑張っている。

今回もホリー発案の攻城兵器で壁に突撃を繰り返しているのだ。

「ねえホリー」

「何よ?」

「向こう側が静かな気がするんだけど……あっちは壁を諦めた?」

今回も攻城兵器となる道具を作ったホリーは、自分の役目は終わっていると言いたそうにリグの近くで寝転がっている。

リグは一応起きてはいるが、怪我人が出る前にまた寝落ちしそうな気配だ。

「そうじゃなくて反対側の壁を壊しているみたい」

「反対側?」

「ええ」

横になって居たホリーは起きると、頭を掻いて欠伸をする。

美人で胸も大きいのにそんな仕草がとても残念な存在だ。

「前にも言った通り、ここは真ん中に存在するあの高い建物に私たちの飼い主が居る。でその周りが私たちの飼育場」

「つまり壁を壊して飼育場を1つにして広くすると?」

「そう言うことでしょうね」

説明は終わりとばかりに横になろうとしたホリーは、その動きを遮られる。

先に横になって居たリグの胸が彼女の頭が横になるのを阻止したのだ。

「とても腹立たしく感じる枕があるのだけど?」

「そう」

苛立った様子で目を細めまた体を起こしたホリーは、横たわっても形を崩さない立派な双丘を睨む。

小柄なのに立派過ぎるその胸は、一番と呼ばれていたホリーをついに抜いていた。つまり現在一番大きな物を持つのはリグなのだ。

胸の大きさなど気にしないカミューだが、ホリーは何やら気にするのか……ワキワキと指を動かすと寝ている彼女の双丘を鷲掴みにする。

「……むっ? 止めてよホリー。眠れない」

「何なのよこれはっ! どうしたらここまで膨らむのよっ!」

「……親譲り?」

「文句の言いようの無い理由を口にして~!」

怒りのままにこねくり回すホリーとやられるままのリグを放置し、カミューは出来上がった鍋の味を確認して壁を壊している人たちに声をかけた。

ただ作業を止めて食事を得に来た男たちは、ホリーとリグの痴態を目撃してほぼ全員が前屈みになって動きを止める。

それを女性たちが見下すような冷ややかな目を向けるのは言うまでもない。

ほぼ同時に壁が崩れた。

洗い物を終えて一休みしていたカミューはその報告を聞くと、遊び疲れて寝ているホリーとリグをそのままに崩れた壁へと向かい歩き出す。

作業の場所にはカミーラが居るから問題はない。それに気分屋のジャルスも居るはずだ。

自分の出る幕は無いとのんびり歩いていたが、どうも雰囲気に異質な物を感じ……その足を速めた。

「何かあったの?」

作業をしていた者に声をかければ、彼ら彼女たちが凍り付いたように緊張していることに気づく。あのカミーラですら苦笑して動けずに居るのだ。

全員の視線は崩れた壁の向こう側に向けられていた。

その場に居るのはただ1人の女性だった。

ユニバンス王国特有の金髪碧眼の特徴を持つ存在……カミューは彼女を知っていた。

「王女様」

カミューの呟きにグローディアの視線が動き、一瞬驚いたように軽くその目を見開いた。

だが直ぐに表情を正して彼女はまた口を開く。

「私の名前はグローディア・フォン・ユニバンス。王位継承権を持っていた王女よ」

事実彼女は王位継承権は処刑されたその日に消失している。

それでもほぼ全員が彼女の存在に圧倒される。

王家の人間……その存在を前に元貴族である者ほど直ぐに屈した。

片膝を着いて臣下の礼を取る者が続出するのだ。

理解出来ない者たちとて周りの様子から、慌てて平伏する。

それが彼らの王家の者に対する正しい反応だからだ。

若干2名ほど寝ていて現状に気づいていない者を除けば、平然と立ったままで居るのはカミーラとカミューだけだった。

「貴方たちはどうして頭を下げない?」

「私はもう騎士見習いでもないしね」

グローディアの問いにカミーラは苦笑する。

「何より死人だ。死人を支配するのはあの世の住人だろう? 王家の者じゃない」

「そっちも同じ理由?」

「まあね」

カミーラほど明確な理由など無い。それでもカミューはやれやれと肩を竦めた。

「それに貴女が私に命じたはずだ。『いちいち礼など要らない』と」

「そうだったわね」

クスリと笑いグローディアはカミューを睨むように見た。

相手がどこで何をしていたかを考えれば……強いて言えばグローディアが逢いたかったとも言える人間なのだから。

「カミュー」

「はい」

「話があるから付いて来なさい」

「……はい。王女様」

これほど厄介なことは無いと感じながらも、カミューは彼女の後について歩き出した。

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