軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私と同じ16です

「噂に聞いた歌姫がね」

「……」

私の前に居るのは歌を失った歌姫だ。

髪の手入れをしながらティーレが教えてくれたように、彼女は本当に盲目だった。

それでも器用に歩き回るのは傍から見ると彼女の目を疑いたくなる。けれど瞼の奥にあるその目は白く濁り、機能しているようには見えなかった。

「私は一度も貴女の歌を聞いたことが無かったから聞いてみたかったわ」

「ごめんなさい」

「良いのよ。ただの無い物ねだりよ」

ティーレが『いつか一緒に聞きに行きましょう』と言ってたのは、私を屋敷から引きずり出す為の言葉だったのだから……それぐらいは私も理解している。

「それにしても目が見えないのに貴女は色を知っているのね」

「……ええ」

「それと嘘を付けない性分みたいね」

盲目なのに私から目線を逸らす意味が分からない。

閉じた瞼は何かを透かして見えているのか?

「まあ良いわ。そろそろ壁も崩れそうだし」

「ええ。向こうも側も必死に壊しているみたい」

「でしょうね。そんしないと空腹で死んでしまうわ」

壁を壊すまで食材抜きとは酷過ぎる。

それでも空腹には逆らえず、男共が必死に壁を壊している。

「姫様は手伝わないの?」

「この国でも力仕事は男のはずよ。それに力を見せつけるから男は威張れるの。力が無いなら黙って死んでて欲しいわ」

「……そうですか」

何故か歌姫は乾いた笑みを浮かべて沈黙した。

何より私は力仕事なんかに向いていない。だったらまだあのユーリカの方が向いている。

未だってサボっている男の尻を蹴飛ばし、殴りかかって来た相手を投げ飛ばして……あの二色頭の男は何がしたいんだろうか? ただ魔法使いが西部で武闘派として有名なテリーズ家の令嬢に勝てるとでも思っているのか?

「シューグリット! 文句を言わずに働きなさいっ!」

「……この馬鹿力がっ」

「あん? もう3発ぐらい食らう? 主に股間に?」

「止めろユーリカ! お前は洒落にならねえんだよっ!」

拳を使った説得でシューグリットとか言う男は仕事に戻った。

「ねえセシリーン」

「はい」

「この国の男って、いつから女の尻に敷かれる存在に成り下がったのかしら?」

「……ここに居る女性が強すぎるのかと」

「そうね。あれがこの国の現状だったらこの国も長くないわね」

少なくともユニバンスの男だったら前進し続けて死んで欲しいものだ。

しばらく眺めていたら壁が崩れて向こう側と合流することになった。

「セシリーン」

「……レニーラ?」

「ええ」

壁が崩れて向こう側からやって来たのは、朱色の髪を首の後ろで束ねた女性だった。

向こうとこちらとでは余り差は感じない。服装なども大差ない。

私たちが着ている服は布一枚で作られたワンピース調の物ばかりだ。男はシャツにズボンの姿……本当に着られれば十分な粗末な物だ。

軽い足取りで歩いて来た彼女は私たちの顔を見て回ると、知り合いらしいセシリーンに抱き付いた。

と言うか……レニーラという名前は聞いたことがある。確かティーレが言っていた。

王都で人気を二分している歌姫と舞姫。その舞姫がレニーラだ。

ティーレはこうも言っていた。

『レニーラの踊りは素晴らしいのですが、その衣装から男性の客が多くて……私はちょっと』と。

つまり踊り子と言うわけだ。体を売り物にしているのかは知らないが。

「セシリーンもここに居たんだ」

「ええ。貴女も?」

「あはは……」

頭に手を当て彼女は笑うと、そのまま深くため息を吐いた。

「軍の士気を高めるってことで剣舞を披露することになってて……剣を握って練習してたらスパパパパっとその場に居た全員の首を刎ねてたみたい。お蔭で私は外だと『首切りレニーラ』って呼ばれてるらしいよ」

力無く笑い両膝を抱くようにしてレニーラは自分の膝に顔を押し付けた。

「何で人なんて殺してたんだろう? 私はただ踊りたかったのに……踊っていたかったのに」

「レニーラ」

そっとセシリーンは彼女の肩を抱きしめた。

2人して肩を震わせている姿を見ていると、私が犯した罪の深さが胸の内側を抉る。

このままこの胸を引き裂いて絶叫したくなる。

『全て私が悪いんだ』と『私が貴女たちに人殺しをさせたのだ』と。

そっと立ち上がり私は静かに泣く2人に視線を向けた。

「そうやって泣いてても何も変わらないのよ。私たちはただの人殺しなんだから」

告げてその場を離れる。ここに居続けるのは耐えられない。

ゆっくりな歩調を心掛け、決して駆け足にならないように気を配る。

私は全ての罪を背負い隠すと決めたのだ。誰だか知らないけれど『リア義母さんに呪いをかけた』と言ってくれたお陰で、私の召喚を知るのはあの魔女だけなのだから。

「ダメだよファシー」

「でも?」

「ちゃんと挨拶してからね」

ふと耳にした会話に私は足を止めた。

黄色い髪の女性が娘ほどの背丈の少女の手を引いていた。

栗色の髪で目元を隠している少女は本当に幼く見えた。

「初めましてかしら?」

「初めまして」

慌てた様子で黄色い髪の女性が頭を下げて来る。幼い子の方は彼女の後ろに隠れてしまった。

「私はグローディア。少し前まで王女だった女よ」

「……シュシュです。この子はファシー」

「……」

シュシュと名乗った黄色の髪の女性に促され、ファシーと言う名の少女は軽く頭を下げると姿を隠した。

「そんなに幼い子供が居るだなんて知らなかったわ」

「あ~」

「あ?」

泳ぐシュシュの目に視線を向けると、彼女は何故か引き攣った笑みを浮かべた。

「……これでも私と同じ16です」

「酷い冗談ね」

全く笑えない。どう見てもその半分……は言い過ぎにしても12歳くらいの年齢にしか見えない。

「本当なんです。この子は本当に16で、色々とあって食事も満足に」

「……そう」

信じたくないけれど、相手がそんな嘘を吐く理由も分からない。

「魔法で若返ったと言われた方が納得出来るわ」

「あはははは~」

私の皮肉にシュシュは乾いた笑みを浮かべていた。

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