軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 ジャルス

「大丈夫?」

「ええ」

治療をしながらリグはそっと彼女の顔を撫でる。

女性の顔を殴るのは許せない。跡が残ったらどうするのだろう?

きっと自分の"父さん"ならば烈火の如く怒るに違いない。あの人は何だかんだで優しい人だから。

「平気よリグ」

「でも」

「根気良く手当てをするわ」

横になっているパーパシが弱々しく笑う。

怪我を負ったのは他でもない彼女だった。

「どうして?」

「これ?」

軽く自分を指さしパーパシは苦笑する。

だが痛みで顔が歪んでしまいリグが心配そうに覗き込んで来る。

「私が悪かったのよ」

パーパシはこれを自分のせいだと思っていた。

誰だってあんな場面を見られたくないのだ。特に強者を演じている者は弱い部分を見せられない。

心配するリグに何度も笑いかけ、パーパシは『後の治療は自分でするから』と彼女を追いやった。

横になって息を吸う。

リグの見立てでははっきりとした骨折は無い。ヒビくらいはあるかもしれないが、それなら場所次第では気にもならない。全身が痛いのは仕方ない。怪我を負ったばかりだからだ。

目を閉じて眠ろうと努力するが痛みで上手く行かない。

それでもリグの言葉に従って目を閉じて体力の回復に努める。

思うに……たぶん本当に運が悪かっただけだ。

今朝は敷地内の隅で育てている薬草の手入れに向かった。そこで彼女と出会った。

自分も『こんな時間に?』と思ったが、相手も『こんな場所に?』と思ったのだろう。

後は一方的にやられてこの有様だ。

きっとこのことを言えば誰もが『相手が悪い』という。分かっている。

でもパーパシはそれでも自分が悪いと思っていた。

誰だって1人で泣きたい時があるのだ。

それもあの口ぶりからすれば……。

「誰もが悲しんでばかりね。本当に」

『虚勢を張って生きてきた』

身も蓋もない言葉だけどそれが事実だ。

ウチには父親が居ない。余所に女を作って出て行った。

父親は金目の物を持って出て行ったので、残された家族3人は苦労させられた。

母親と2人で頑張った。母親が外で働いて私が弟の世話をする。

正直に言えば家事なんてしたくも無かった。弟の世話も面倒だった。

出来たら早く魔法学院に入って魔法使いになりたかった。そうすればお金が得られるのだから。

両親は魔法を使えなかったが私は使えた。魔力があった。

近所の薬師のオバサンが持っていた試験紙が反応した。反応の様子から強化系だと分かった。

初歩的な魔法書は案外簡単に手に入る。それから上の専門書は高額になる。

家事や弟の世話をしながら私は入門書程度の本を読んで必死に覚えた。本の内容を全部だ。

でも得られた力は身体強化と言う魔法使いらしくない魔法だった。

『騎士にでもなるんなら良い魔法なんだけどね』と薬師のオバサンが教えてくれた。

そして身体強化では学院に入れないとも知った。あくまで戦士向けの力だからだ。

夢が閉ざされた。絶望もした。

追い打ちも来た……母が体を壊して倒れたのだ。

母親と弟の生活費と薬代が必要になった。

だから私はそっちの道に進んだ。兵となる道をだ。

良く覚えているのは、したくないことをして虚勢を張り続けたことだ。

私は普通の女性より背が高く肩幅もあった。何より身体強化の魔法があった。

剣だと数度の攻撃で折れてしまう。だから鈍器を握り締めた。それが私の武器になった。

自分を破壊魔と呼ぶようになったのは、そんな自分の嘘が積み重なった結果だ。

ジャルスは壁に背を預けて空を見ていた。

今朝は悪夢で目を覚ました。あの日のことを思い出したのだ。

王都から救援物資が届くと聞いて内心で喜んでいたら、怪我人の護送に付いて行けと上官に命じられた。逆らえなかった。

本当に嫌な上官だった。自分の胸をやらしい目で見て来る下衆だ。

機会があれば戦場で背後から頭を勝ち割ってやろうかと思っていたが、そんな人物に限って前線には絶対に出ない。どうなるか分かっているからだ。

ブシャールに居たジャルスは戦歴はあったが悪名は無かった。

だからその女性らしい容姿に飢えた男たちが鼻の下を伸ばす。

何度も『串刺しのような悪名があれば』と思ったが、実際出会った化け物は本物の化け物だった。自分の張り子の姿とは違い、絶対的な殺戮者の風格を漂わせていた。

自然とため息が出た。

今朝のあれは自分が悪いと分かっている。

過去を思い出し溢れた涙を隠そうと、寝床を這い出て人気の無い場所に逃げ込んだ。

けれどそこに彼女が来た。見られてしまった。

カッとなって腰に下げたこん棒で彼女を打った。

恥ずかしかったのもあるが、自分が家族のことを……あの日殺した母親と弟のことを思い出して泣いている弱い女だと知られたくなかった。

強く振る舞い続けて来たからそれを維持するしかなかった。

心の底から『謝りたい』と言う気持ちが溢れて来る。でもそれを飲み込み我慢するしかない。

謝ってしまえば全てが壊れる。自分の嘘が壊れてしまう。

《私は何がしたかったんだろうな?》

何度も思う問いに誰も答えてなどくれない。

死んだ弟は……息を引き取る時に何と言ったのだろう? 母親は何と言ったのだろう?

分からない。死者には質問など出来ないのだから。

ゆっくりと立ち上がり長い紫の髪を振るう。

強くもないのに強者を演じ今日も自分に嘘を吐く。

「それが私の罰なんだろうな……本当に」

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