軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私は全てを間違えていたんだよ

内容で考えればこれほどつまらない仕事も無い。

毎日のように鉄格子の隙間から、飼い犬と化した者たちの様子を眺めているだけだ。

勿論不満を持つ者も多い。だがそれらも御すのが彼の仕事だった。

《嫌われて恨まれてばかりだがな》

苦笑して彼は息を吐く。

外に居るのは若い男女だ。

特に女性は魅力的な者も多い。

何かの為にと集められた同僚たちは皆、腕に自身のある者ばかりだ。

ちょっと手を伸ばし捕まえて遊びたい……そんな空気が充満している。

故に『主人』は飼い犬の中に首輪が意味をなさない化け物を置いているのだ。

主人は共同生活で連帯感と何より同じ傷を持つ者同士の同情から助け合いを期待している。

事実飼い犬たちは牙を向けられれば互いに助け合い協力し合う。

きっと腕自慢の同僚があの中に入り娘を連れ出そうとすれば食い殺されるだろう。

それでも監視は必要だ。無駄に食い殺し合いをされれば数が減る。

物音に気付き彼は視線を扉へと向けた。

ゆっくり開いたそこから姿を現したのは主人だった。

「お久しぶりです。閣下」

「もうその名で呼ぶな」

疲れ果てた様子に見える彼は軽く手を挙げてそう告げた。

つまり地位を失ったと言うことだ。違う。譲ったのであろう。

「どうだ。様子は?」

「ええ」

隣りに来た主人に、彼は一緒に視線を外へと向ける。

最初の頃に比べれば幾分かはマシだ。それでも大半が下を向いている。

「心の傷は簡単には消えはしないか」

「ですね」

クシャッと自分の髪を掻いて監視と名乗る彼は嘆息する。

「だが余り時間もない」

「と申しますと?」

「もう1つの方が稼動しだした」

監視の主人である彼は視線を外す。

ゆっくりと監視にその目を向け、彼は懐から1枚の封筒を取り出す。

「あちらは予備であるが、だからこそ無理をする」

「ですが無理は貴方様がお許しにならないはず?」

「そうだ。私にまだ力が残っているうちはな」

苦笑し彼は監視の胸元に封筒を押し込んだ。

「志の高い者を集めたがその中に野心を持つ者も多く居る。私の考えに賛同しているうちは良いが、野心が膨らみ暴発でもすれば……こんな何も無い男などあっさりと消されるかもしれん」

「でしたら自分が戻り警護を」

フルフルと頭を振る主人に、監視は胸元の手紙に一度だけ視線を向けた。

白地の封筒には何も書かれていない。

「お前はここに居てあの者たちを見守るが良い」

穏やかに笑い彼は部屋を出て行こうとする。

「もしかしたら私は……愚かな間違いを犯したのかもしれないな……」

呟くように言葉を残し彼は部屋を後にした。

1人残った監視は、そっと胸元の手紙を服の上から確認し……覚悟を決めて取り出した。

中には便箋が1枚。

内容は指示書でもあり、どこか遺言書のようにも見えた。

唯一目を引いたのは『もし迷ったのであれば、お前の判断で、お前が正しいと思ったことをするが良い』と書かれた一文だった。

まるでその言葉を伝える為だけに書かれた手紙を、本来なら焼き捨ててしまうべきそれを……監視は黙って懐へとしまい込んだ。

何故か気が乗らず処分することが出来なかったのだ。

寝床から起き出して軽く体を動かす。

棒が1つあれば体操から人殺しまで出来て便利だ。

クルッと棒を動かし……カミーラは静かに構えた。相手は1人だ。

「やるのか?」

「その気は無い」

「それは残念だ」

あっさりと姿を現した相手にカミーラは棒の先端を地面に着ける。

やって来たのは向こう側の代表者らしい女だ。

恐ろしいほどに腕が立つのは立ち振る舞いで分かる。

「お前は魔法使いなのか?」

「魔法が使える類の暗殺者よ。それも元ね」

「私と同じか」

相手にその気がないのなら日々の日課を優先する。

カミーラは棒を手に鍛練の続きを始めた。

「綺麗なものね」

「毎日やれば覚える」

「人殺しの方法を?」

「ああ」

ピタッと止まりカミーラは相手にその目を向けた。

「何をするにも敵が居る以上殺すしかない」

「結果として殺し合いが過激になってパーシャル方面は酷いことになっていたと聞くけど?」

「確かにな」

彼女が素直に認めると思っていなかったカミューは、少なからず驚いた。

「でも私たちは戦争をしていた。殺し合いをしていたんだ」

「そうね」

「一度殺せば恨みが生まれる。向こうの恨みはこっちに牙を剥け、すると今度はこっちに恨みが生じる。後は交替交替に恨みの捌け口を探して牙を剥くんだ」

「……嫌な話ね」

「ああ。嫌な話だ」

何かを振り払うかのように棒を動かす彼女を見つめ、カミューは何となくそれを理解した気がした。

結局振り払えなかったのだ。恨みや憎しみを。

「ねえ串刺し」

「何だ?」

「何の為に戦ったの?」

「……護る為さ」

ブンッと棒を横に薙いでカミーラは動きを止める。

「私はこれでも護りたかったんだ」

「何を?」

「……最初は小さな仲間の輪だった」

棒を脇に挟んで空を見上げた彼女は、汗で濡れた髪を掻き上げた。

「知り合って馬鹿が増えて……気づけばその輪が大きくなってた」

「その全てを護ろうとしたわけね」

「そうさ。結果として私は全部失った」

軽く両手を広げカミーラはお道化てみせた。

「今にして思えば私は全てを間違えていたんだよ」

言って歩いて行く彼女をカミューは静かに見送った。

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