軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

今はね

「リグは?」

いつもの木陰で丸くなる 寝子(ねこ) ……ではなくリグの不在に、カミューはその場に居たミャンに声をかけた。

一度醜態を晒してから元気を失った彼女は、どこか気怠そうにカミュ―を見る。

「あっちで怪我人が出たって」

「大変だな」

そんなに広い訳でもないが、リグのことだから走って行っただろう。

胸を震わせてバランスを崩しながらも走っていく。

その過程で同性から一方的な恨みを買ったりもするが。

カミューも木陰に腰を下ろして青い空を見る。そろそろ雨期のはずだ。

「ねえカミュー?」

「何だ? 泣き言だったら私に言うなよ。面倒臭い」

「……そうね」

フラッと立ち上がりミャンは歩いて何処かへと行く。その背中は弱々しい。

今の様子と前回の醜態からして……彼女が何を殺したのかは理解出来る。

リグが言うには彼女は同性愛者としての面が強いが、それでも自分の教え子たちを本当に大切にしていたらしい。

ここに居る者の大半は大切にしていた存在を殺してしまった者ばかりだ。

例外も居るが大半がそうなのだ。

《嫌になるな。本当に》

軽く頭を振ってカミューは目を閉じる。

自分は大切な人の願いを聞き入れられずに殺せなかった。

それを今でも後悔している。きっと周りの者からすれば自分は恵まれた存在だろう。少なくとも大切な人を殺していないのだから。

「寝ているのか?」

頭上より降り注いだ声にカミューは、ハッとなって顔を上げた。

軽い口調の監視が目の前に居たのだ。

接近に気づかず完全に寝入っていた自分をカミューは胸の内で恥じた。

「色々と苦労だらけでね」

「そうか」

横に立ち彼は立木に背を預ける。

そしてゆっくりと辺りの様子に目を向けた。

「少しは人らしい顔になって来たな」

「気のせいよ」

苦笑しカミューは地面を見た。

「大半が今でも後悔や悲しみを抱えて苦しんでいるんだから」

「そうだろうな」

「……私ぐらいよ。後悔の意味合いが違うのは」

本当に嫌になる。これだったらあの時迷わなければ……とカミューの胸の中で後悔の念が溢れて来る。

「王妃は生きて居る」

「っ!」

ガバッと顔を上げてカミューは彼を見た。

彼は遠くに目を向け、独り言のように言葉を綴る。

「予断を許さぬ状況と言う話だが、生きているそうだ」

「……そうか」

心の底から安堵の息が出た。心の中のわだかまりが取れた。

あのまま苦しみ抜いて死んでいたらと思うと……胸が張り裂けてしまいそうで辛かった。

「無様ね」

不意にその言葉がカミューの口からこぼれた。

「どうした?」

また独り言のように彼の声がした。

「結局私はあの人を救おうと思いながら、ずっと救われていた。本当に無様よ」

「そうかもしれないな」

フッと気の抜けた笑い声が聞こえ、彼は軽く運動でもするように体を動かす。

「吸血鬼リグの保護者も生きている」

「……何よ。それは?」

「知らないよな。大罪人のお前たちに付けられた悪名だ」

嫌な言葉であるがそれは仕方ない。

自分たちは、ここに居る者たちの大半は、殺人を犯した大罪人なのだから。

「死の指し手ホリーの家族は王弟様が保護したそうだ。そんな約束を交わしたとか」

「詳しいのね」

「これでも顔が広くてな」

運動を終えたらしい彼がまた壁に向かい歩き出した。

スッと立ち上がりカミューはそれを追う。

「何故それを私に?」

「分からないか?」

鉄の扉まで進み彼は開いて中へと入る。

カミューはその場で立ち止まり、ジッと相手を見つめた。

「お前たちは良く頑張っているからな。良く頑張る飼い犬にはご褒美ぐらい与えるさ」

「そう」

ギィッと軋ませて鉄の扉が閉まり、ガシャンと鍵が締まった。

「ならもう1つだけ褒美が欲しい」

「欲張りだな? その胸を揉むぞ?」

「構わないわよ」

グッと一歩前に出て扉に体を押し付け、覗き窓からカミューは彼を見る。

「シュシュはどうなったの?」

「……あれなら持ち直して別の場所に居る」

「あっちの壁の向こう?」

「それはいずれ分かるさ」

肩を竦めて監視は暗闇の中に姿を消した。

カミューは魔眼でそれを追うことも考えたが止めた。

相手は胸も揉まずに褒美をくれたのだから。

「さてと」

クルッと振り返り、自分を睨んでいる視線の主に向かいカミューは足を進める。

あの日以来口も利いていないホリーは、ただ黙ってカミューを睨んでいた。

「用がある」

「……分かった」

目の前に立ち止まったカミューの言葉にホリーは応じ、普段リグが寝床にしている木陰へと移動した。

「お前は捕らわれる時に宰相と何か言葉を交わしたの?」

座りもせずに立ったままで、ホリーに向かい直球の言葉がカミューから発せられる。

ホリーは迷わず彼女の襟首を掴み締め上げた。

「私の家族に何かあれば許さないっ!」

視線で人を殺してしまいそうな相手にカミューは軽く笑う。

「宰相が保護しているそうよ」

「……そう」

掴んでいた服から手が退いてカミューは大きく息を吸う。

ただしホリーの顔は浮かれない。相手もそれに気づいたのだ。

「リグの保護者も無事だと言ってた」

「嫌な話ね」

木に背を預けてホリーはその場に座った。

「貴女の大切な人も無事だったの?」

「危ない状態らしいけど生きて居ると」

「良かったわね」

「心が籠ってない言葉は要らない」

「そうね」

苦笑いをしてホリーは口元に親指を当てると爪を噛んだ。

「私たちの弱点を相手は知ってて、その存在をいつでも始末できると考えるのが普通か」

「そうでしょうね。そうでなければ私たちに伝える必要が無い」

「本当にそうね」

大切な人の無事は知れても、その命の保証を得られた訳ではない。

むしろ人質を握られた状況になって息苦しさすら覚える。

「それでも前向きに考えるしか無い」

「生きて居ることを喜べと?」

「私はそれで良いと思う」

クスッと笑いカミューは相手に顔を向けた。

「今はね」

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