軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 パーパシ

自分の無力さを噛み締める。

目の前に居る異国の少女はテキパキとその傷を確認する。

的確に確実に……ジャルスに折られたらしい男性の腕をだ。

「うん。折れてるけど砕けてない」

言って棒状の枝を持って来て、それを骨折している辺りに置いて布で巻いて固定する。

「出来たら胴体と固定したいけど、する?」

「したら何も出来ないよな?」

「男は気合だってカミューが言ってた」

「気合でも無理だよ」

彼は苦笑して腕の治療に感謝して立ち去る。それでも幾つか注意を与えるリグが凄いが。

「薬も無いから骨折は止めて欲しい」

「どうして?」

「今のは折れてただけ。でも折れた骨が肉を割いて飛び出したら大変」

『清潔にしないと』と言って、必ず手を洗うリグに布を手渡す。

確かに骨が出たら、自分では手の打ちようがない。

「その時はどうするの?」

「ん~。肉を切って骨を繋いで肉を縫う」

「骨を繋ぐ?」

初めて聞いた。

肉を縫うことは知っている。服に空いた穴を塞ぐように傷口を針と糸とで縫うのだ。

でも骨を繋ぐなんて知らない。

「お父さんはプラチナの端材や金を使っていたけど、折れた骨と骨とをそれで繋げる。木の板を釘で止める感じ」

ザックリとした説明だが、何となく分かる。

「リグはそれが出来るの?」

「たぶん。道具があれば」

『経験はないけど』と言いながら彼女は欠伸をしながら帰って行く。

こちらの食事が美味しくないからと元の所へ戻って行くのだ。

それを見送ったパーパシは、深いため息を吐いて椅子に腰かけた。

自分が出来るのは簡単な薬草での治療だ。それだって打ち身や傷薬程度の物だ。

《それだけで十分だったから》

あの場所ではそれ以上の仕事は望まれなかったし、何より彼らは傷の手当てを楽しんでいた。

自分を姉のように慕う彼らは……ただ寂しいだけだったのだ。

パーパシはユニバンス王国の南部の生まれだ。

武に尊ぶ南部のルーセフルト家の一派に属する中級貴族の元に出入りする薬売りを両親に持つ一人娘だった。

あくまで商品として薬を扱うので自分の家で薬を作ったりはしない。ちゃんとした調合された物を買い集めてそれで商売していた。多くの薬があるからと街では重宝されていた。

その街にはルーセフルト家で働く為の兵を鍛える習練場があった。

年頃の子供らが集められ、そこで厳しい鍛練を受けて兵として南部の街に派遣されて行く。

パーパシは両親からの紹介で、その習練場の調理係の1人として働き出した。

集まる子供らの中には貴族の子弟も多く居る。もし見初められればと言う両親の思惑を理解しながらも、パーパシはあくまで調理係の1人として仕事をこなす。

だがある日、1人の少年が傷を隠していることに気づいた。

修練で引っ掛けたらしい傷が日々悪くなるのを見て、パーパシは実家から取り寄せた傷薬をその少年に塗ってあげたのだ。

それから少しずつ傷を負った者が自分の所に来るようになった。

別に指導している騎士に言えば医者に診て貰えるのに、彼らはパーパシの元に集まり傷薬を塗って貰う。

『ああ。この子たちは甘えているんだ』と気づいてから、パーパシは背伸びをしてお姉ちゃんを演じるようになった。

新しく入ってくる子には優しいお姉ちゃん。派遣先が決まった子には気丈に振る舞うお姉ちゃんと……自分を使い分けて少年たちの相手をし続けた。

でもあの日が来た。

新年で帰宅を許された少年たちが、少しでも出発を後らせる理由は自分との会話だと分かっていた。だからその日も朝早くから習練場に行って朝食作りを手伝った。

騒がしい時間が終わり『片付けは私たちがやるから』と年配の女性たちの優しさに甘えて……実家に戻る少年たちを見送るはずだった。

『……』

甘い声と自分の何かを覗き込もうとする視線。

パーパシは笑い出して……そしてずっと隠していた秘密を晒した。

何かしらの存在からもたらされる強力な力である『祝福』だ。

最初に気づいたのは物心ついた頃だった。

1人っ子だった彼女はいつも自室で遊んでいた。遊び相手も居なくて寂しくて寂しくて……だからもう1人の自分と遊び始めた。もう1人の自分は自分の気持ちを分かってくれるから。

2人で毎日遊んで、いつもたくさんご飯を食べては母親から叱られた。

ただ成長するごとにもう1人の自分が居てはいけない存在だと知った。悲しかったけれどもう1人を隠した。

その力を晒し笑う2人のパーパシは少年たちを皆殺しにした。

駆け付けた騎士たちにその姿を見られることとなった。

血塗られた2人のパーパシが血の海の上に立っている姿をだ。

暴走するパーパシを騎士たちが鎮圧できたのは、彼女がまだ朝食を摂っていなかったからだろう。空腹となって卒倒し、1人に戻ったところを捕えられたのだ。

パーパシの力を欲しがったルーセフルト家であったが、子供たちを殺された親たちの不満を押さえることは出来ずに彼女を王家に引き渡した。

そして処刑された。

彼女に"童貞殺し"と言う悪名を付けたのは被害者の家族だ。

自分の子供を殺されたせめてもの復讐に彼女にその悪名を与えた。

彼女の優しさを知り、それを否定する者も居たが……周りの目に口を紡ぐしかなかった。

何故なら彼女は子供たちを殺したのだから。その事実は偽りのない真実だからだ。

そっと息を吐いてパーパシは外を見る。

祝福は魔法と違いいつでも使うことが出来るが、ここで使っても意味はない。

死なない自分をもう1人産み出して何に使えば良いのか?

「私は結局何も出来ない無能なのに」

あの時も、そして今も……結局自分は中途半端な力を持ってこんなにも悔しくて辛い思いをしている。

「死んでれば良かったのに。私なんて」

自然とその言葉が溢れ出た。

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