軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この私を敵に回すと思え

「向こうは大体3つに分かれてる。串刺しカミーラと破壊魔ジャルス。それとそれ以外」

やる気のない様子を全身に漂わせ、ホリーは寝っ転がって空を見上げている。

その横には戻って来たリグが丸まって寝ていた。しばらくあっちに居てスハと言う怪我人の治療と一緒に何人か病人の世話をして戻って来たのだ。

別にあっちに居たままでも良かったが『こっちの方がご飯が美味しい』と分かりやすい理由だ。

「食料は3つに分けてそれを朝夕で食べてる感じ」

「それだと無駄が生じて少なくなるんだけどな」

「そうね」

それに気づいたからカミューは拳を振るって食料を分けるのを止めて一括で作るようにした。

たまに手に入る鶏肉など分ける際に喧嘩になる。煩いから殴って黙らせてスープの出汁にしている。煮込めば肉はボロボロになって塊が当たった奴は運が良いで押し通せるからだ。

「で、その話はどうやって?」

やる気がない割には情報の収集などホリーは上手い。

露骨に息を吐いて彼女は隣りで寝るリグの尻を軽く叩いた。

「これに薬草を頼まれて持って行った時に向こうの治療係に聞いた」

「……棘のある言い方だな?」

「ええ。そのつもりで言ったんだし」

お尻をフリフリと振って、寝返りを打ったリグがまた丸くなる。本当に良く眠る。

「こっちにはリグが居る。向こうにはパーパシと言う女性が居た」

「後の2か所にも似たような存在が?」

「でしょうね」

上半身を起こしてホリーは軽く肩を竦めた。

「これのように医術を得ている者は少ない。正直貴重よ」

「だろうな」

「だから薬学……薬草の類を扱える存在でも結構重宝される。それを1人ずつでも配置するのは?」

「少なくとも病気で死なないようにって言う気配りか?」

「でしょうね」

グリグリとリグの尻を捏ねるホリーをカミューはしばらく眺める。

カッと両の瞼を開いてリグが暴れ出した。

「眠る邪魔をしないで」

「寝たふりをして聞いてるのが悪い」

「……ボクは眠りが浅い」

くわ~と欠伸をしてリグもちょこんと座った。

「それでリグ」

「なに?」

「あっちはどんな感じ」

「ん~」

小さく首を傾げてリグは色々と思い出す。

「仲が悪い?」

「それは分かってるわよ。なら一番強そうなのは?」

「カミーラ」

即答だ。普段眠そうにぼんやりしているリグですらあれが化け物だと分かるらしい。

「筋肉の付き方が違う。だから歩き方も独特で凄い。きっとお父さんなら大喜びする」

「貴女のお父さんとやらの趣味はどうでも良いわよ。でもやっぱり強敵はあれか」

最愛の保護者を悪く言われてリグがムッとしてホリーに飛びかかる。

握った両手でポカポカと殴っているが、どうも妹が姉にじゃれているようにしか見えない。

ただし2人とも大きな胸を押し付け合っている様子から、通りかかる野郎が二度見してから若干前屈みになって立ち去って行くが。

「で、カミュー」

「何だ?」

リグを背後から拘束し、ホリーがため息交じりに口を開いた。

「あれに勝てる?」

「魔法が使えればな」

「それだと相手も同じよ」

「それでもだ」

カミーラを"串刺し"として有名にさせた魔法。『剣山』だ。

ユニバンス王国の上級貴族クロストパージュ家に伝わる魔法であり、王妃の屋敷に居た時にメイド長からザックリと説明を受けた魔法でもある。

何故彼女が知っていたのかは謎のままだが。

「魔法が使えればカミーラの串刺しにも勝てると?」

「ああ」

片膝を抱き寄せてカミューは自分の目を指さした。

「魔法使い殺しの武器がある。私にこれがある限り、魔法使いは敵じゃない」

「そうなの」

一瞬ニヤッとホリーが笑ったのはカミューの見間違いで無いはずだ。

彼女はサラリとその知識を披露するが、どうも底を見せていない。だからこそ本当に恐ろしい。

「何を企んでいる?」

「今は気のせいよ」

「なら気のせいじゃなくなる日が来ると?」

「そうね」

ウトウトし始めたリグを横に置いて、ホリーは立ち上がった。

「私はここに居る人たちと違って1つだけどうしてもしたいことがあるの」

「したいこと?」

「ええ」

スッと冷たい視線をホリーはカミューに向けた。

「ここを出て私の家族が無事か確かめる」

「無事なら?」

「脱獄扱いで処刑されても良いわ」

歩き出したホリーは会話を続けたくない様子に見えた。

けれどカミューは相手に対して優しくしてやる義理が無いと言葉を続けた。

「無事でなければ?」

「……殺すわ」

足を止めてホリーは振り返る。

「家族に害をなした者たちを全員殺す。邪魔する者は全員殺す」

「……下手をしたら国を相手にすることになるが?」

「それがなに?」

サラリとホリーはそう言った。

「だったらこんな王国なんて私が潰す。全員殺して私が終わらせる」

「そうか」

軽く頭を掻いて、カミューは殺気を含んだ視線を相手に向けた。

「その時はこの私を敵に回すと思え」

「あら? 暗殺者の類が国を護ると言うの?」

「そうだ」

ゆっくりと立ち上がって胸の前で拳を打ち鳴らす。

「私も国なんてどうでも良い。でも命を賭して護りたい人が王家に居る。だからこの国を亡ぼす気なら私は全力でお前を潰す。忘れるな」

「ええ。忘れないようにしておくわ。今はね」

クルッと背を向けホリーは歩いて行く。

彼女は『今はね』と言った。

つまり王国が敵になれば、彼女はその言葉を忘れる覚悟があると言うことだ。

《ここには底を見せていない化け物が多くて困るんだがな》

チラリと足元に目をやるとブルブルと震えているリグが居た。

こっちも底を見せていないが化け物の類には見えない。しいて言えば手の内を明かしていないだけだ。

座り直してカミューはリグの尻を軽く叩く。

「全員がお前みたいなら楽なんだがな」

ビクッと震えてリグは増々身を丸くした。

(c) 2020 甲斐八雲