作品タイトル不明
何なら私も混ぜろよ
反対側からも壁を壊していたらしく、一か所が崩れたら後の壁を壊すのは楽だった。
ただ壁の構造を見たホリーなどは苦笑して肩を竦めていた。
本来ならば酷い手抜き工事らしい。芯も無く形を揃えた石を積み重ねて作っただけの壁は確かに根性を入れれば破壊できる。
つまり最初からこの壁は壊されることを前提に造られていたと言うことだ。
そしてもう1つ新しい問題が生じた。壁の向こうに別のグループが居たのだ。
「初めましてや仲良くしましょうなんて面倒臭い」
向こう側からやって来たのは、長身で豊かな紫の髪を揺らす美女だった。
顔立ちは整っていて美しいが、どこか凶悪な気配を感じさせる相手に……カミューは相手が戦場暮らしをしていたと直感した。
「1つ聞いても良いか?」
「命乞いの仕方?」
「まさか……そんだけ大きな胸をして、よくも戦場で無事だったな?」
カミューの言葉に長身の女の額に青筋が浮かんだ。
やはり男に言い寄られて大変だったのだろう……同性として少しだけ同情はした。
「それとも男に尻を振って上手いこと世渡りしていたのか?」
「……死になっ!」
不意に長身の女がその手にこん棒のような物を握り締め振り下ろして来た。
カミューは魔眼を使い確実に見切り回避する。
「挨拶も無しに失礼な奴だ」
「お前が言うかっ!」
「確かに」
ブンッと振るわれるこん棒を避けてカミューは考えた。
いつから自分はこんなにも挑発が上手になったのか?
恐ろしい気配を纏うメイドの姿を思い出し、慌てて頭を振ってついでにこん棒も回避する。
当たれば骨まで砕かれそうだが……たぶん彼女の武器はそれだけでは無いのだろう。
「魔法を封じられて本気が出せないか?」
「お互い様だろうっ!」
犬歯を覗かせ唸る相手にカミューは苦笑する。
確かに魔法が使えないから自分の武器である『鉄拳』は使えない。
それでも別に拳が使えない訳ではない。
一度大きく間合いを取って、カミューは両足の裏で地面を掴んだ。
根を張ったという言い方の方が正しい。
静かに構えるカミューに対し、長身の女はもう1本こん棒を取り出し両手で構える。
2人の間でジリジリと空気が熱せられる気配がし、動き出そうとした瞬間……中央に棒が突き刺さった。
「面白そうだな? 何なら私も混ぜろよ」
冷たい声音にカミューは視線を動かしそれを見た。
目の前の女性は女性らしさを持った戦士であるが、今やって来る相手は女性らしさを微塵も感じさせない。
長身でスラリとしているが、その隙の無い気配からしてどれほどの鍛錬を積んだのかすら分からない。戦場で出会ったのであれば全力で逃げの一手を打つのが正解だ。
故にカミューは構えを解いて軽く両手を上げた。
殺せないことは無いが支払う代償が多過ぎると判断したのだ。
「邪魔をするなカミーラ」
「命を救われて吠えるなよジャルス」
紫髪がジャルスと言い、今来た赤髪がカミーラと言うらしい。
職業柄、名前と相手の特徴を覚えるのが得意なカミューではあるが、この2人だったら別段苦も無く覚えられそうな気がした。
「まだ終わってないよ」
「だったら私と続きをやるか?」
中央まで来て棒を拾ったカミーラが、ジャルスに向かいその顔を向ける。
彼女は憎たらしそうに顔を歪め、地面に唾棄してその場から離れた。
「済まんな」
「別に良い」
クルッと体を向けたカミーラの動きに反応できなかった。と言うかしなかった。
カミューは相手が自分の胸に突き刺した棒の先端を見、そしてその様子を伺っていたカミーラが笑うのを見た。
どうやら相手は化け物の領域に居る戦闘狂らしい。
「私はカミーラだ」
「こんな場所で有名人と出会うなんてね」
「そうか。で、お前は?」
「……カミューだ」
「知らん名だな」
チラリとカミーラはこちらを見ている野次馬に目を向けた。
頭から爪先まで包帯を巻かれた人物を見たらしいが、あれはあれは大丈夫なのか不安になる。
「裏の世界じゃ有名な暗殺者だよ。魔法使いを殺すのに便利な『魔眼』とか言われる目玉を持ってるらしい」
包帯の人物はどうやら女性らしい。と、カミューはそれに気づいて視線を向ける。
ホリーが押さえていたがリグが今にも走り出しそうな勢いだ。怪我人を見つけて元気になる医者もどうかと思うが。
「暗殺者か」
「廃業したけどね」
事実王妃の元で暮らすようになってから、カミューは仕事をミスした暗殺者となった。
お蔭で自分の首に懸賞金がかけられているらしいが気にもしていない。
「こっちも1つ聞いて良いか」
「何だ?」
棒の先端は向けられたままだが相手から殺気は感じない。
ただ噂に聞くあのカミーラであるなら、殺気も放たずに人ぐらい殺せそうな気もするが。
「そっちの包帯は何だ?」
「ああ。あれか」
つまらなそうな声を発し、カミーラが苦笑いをする。
「死にたい死にたいと気の抜けたことばかり言うから、棒で殴り続けて手助けしてやったんだ」
「そうか」
どうやら目の前の相手は噂通りに酷い人物らしい。
けれどカミーラは鼻で笑って言葉を続けた。
「それでも人は中々死なない。あれだけ殴っても急所は必死に護るんだ。本当に厄介で困るよ」
「そうか」
彼女の目が少し優し気だった。
それを見てカミューは少しだけカミーラの評価を変えた。
「こっちには怪我人を見ると元気になって治療したがる医者の卵が居るんだが?」
「……任せる。治したいなら勝手にしてくれ」
クルッと引いた棒を回してカミーラは歩き出し、肩越しに目を向ける。
「とりあえず喧嘩の類は面倒臭い。しばらくは互いの場所で暮らすっていうのでどうだ?」
「それで良い」
「なら交流はやりたい奴がするってことで」
軽く手を振り立ち去った相手が十分に離れたのを確認し、カミューは肺の奥から息を吐いた。
全身から冷や汗が出て不快になったが……それでもどうにか生き残れた。
《串刺しカミーラが居るなんてな》
やれやれと肩を竦めてカミューも自分たちが暮らす方へと歩き出す。
若干1名……包帯に向かい突撃した異国の少女が居たが、まああれは何処でも和んで暮らす力を持っているのでカミューはそれほど心配しなかった。
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