軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私たちは罪人だ

「本日から特別に課題を課す」

ふらりと現れた監視が全員を集め、いつもながらに適当で軽い口調で説明を始めた。

「あそこに見える壁があるだろう? あれは外周を覆う壁と違って根性を入れれば壊せる壁だ。と言うことで根性で壊せ。以上だ」

誰がそんな根性を見せる物かと冷めた視線を全員が向ける。

うんうんと頷いた彼は、とっておきの殺し文句を披露する。

「やらなければ飯抜きな」

魔力を奪われ閉じ込められている男女に残された選択は服従だ。

渋々壁の様子を調べ出し、『どうすればこの壁を壊せるのか?』を真剣に話し出す。

カミューはそんな話し合いの場から抜け出すと、右手に大きな石を握り歩き出した。

向かうは住まいとして使っている建物の傍に生えている木だ。

「何するの?」

こっちも話し合いの場から逃れて来たリグが、カミューに横から声をかける。

「道具は要るだろう?」

「うん」

「だから作るんだよ」

言って生えている木の根元を石で叩き出す。

原始的な方法ではあるが、確かにそれなら木材を得られる。材料を得れば多少なりとも作業効率は進む。

「そんな方法でやってたら手が壊れるわよ」

「リグが治すだろう?」

「止めて。その間、誰が調理するのよ」

面倒臭そうに歩いて来たホリーがカミューの作業を止める。

止める理由が食事の心配からだが、事実日々の調理の味付けはカミューの仕事になっていた。

敷地内に生えている草を調べ食べられる物を集めて簡易的な畑を作る。それを育てて調味料を少しずつ増やし日々の料理の幅を広げた。

ホリーなどはその知識から簡易的な罠を作り、飛んで来る野鳥を捕えてクズ野菜のスープが時折肉入りスープにもなる。

『栄養が偏ると人は死んじゃうよ』と言うリグの言葉もあり、食に関しては結構真面目に取り組んだ。

そんな3人ではあるが、何かあれば道具を作るのはホリーの役目だ。

彼女は二股に枝分かれしている枝を見つけて来ると、その股の部分に石を押し込み特製の紐で縛る。紐の材料はこの場に居る女性たちの髪の毛だ。何かに使えるからと抜けた物を集めて纏めて紐状の物にしていた。

「はい頑張って」

「器用だな」

「誰でも作れるわよ」

自分の仕事は終わったからと言いたげにホリーは何処かへ歩いて行く。

カミューは苦笑して木の根元に手製の斧を振り下ろし続け……半日で丸太を1本作りだした。

「攻城兵器よ」

枝を払い丸太となった木の先端を斧で叩いて鋭くする。

後は余り物の布で作ったロープで結んで左右に人が立つ。

そんな道具を作りだしたホリーは、使い方を説明した。

「ロープの左右を握り締めてあの壁に突進するの。で、その先端で壁を突いて突いて突き続ければ……運が良ければ壊れるかもしれない」

「壊れなかったら?」

「知らないわよ。何かに祈りなさい」

確かに彼女の言う通りだ。

可能性のある道具を作り挑むしかない現状……壊れる壊れないは二の次である。

最初は男たちがロープを持って突撃を繰り返す。半日もしていると交代で続けた作業のお陰で全員が汗まみれになっていた。

「何か嫌な感じね」

「ミャンか」

汗を拭っていたカミューの元に、作業に参加していないミャンがやって来た。

彼女の顔色はあまり良くない。月のあれで体調を崩しているのだ。

「こんな作業をさせて……何を企んでるのかしら?」

「さあな」

肩を竦めて作業現場を見つめるカミューは、何となくそれに気づいていた。

きっとミャンもそれに気づいたからこそ面白くない表情を浮かべているのだろう。

当初は『ドラゴンを退治するために集めた』と言っていたにもかかわらず、どうもそれを真剣に取り組んでいる様子は感じられなかった。

鍛練と称して渡された物は使い古した魔法書と木剣の類だ。

それらに見向きもしない者も多いが、リグは魔法書を拾ってミャンに色々と聞いていた。

学院で講師まで勤めていたらしい彼女ならば適任だと思われたが、ミャンは教えることを拒絶した。涙ながらの拒絶にリグも何も言えなくなり、その日からミャンは随分と静かになってしまったが。

「協力させて作業をさせる」

作業風景から視線を離し、ミャンは建物に向かい歩き出した。

「まるで物語よね」

「そうだな」

確かに何かの物語だ。

三大魔女の誰かが残した言葉……青春とか言うものがこれに該当する。

何かの目標に向かい全員で協力して努力する。

食事を得る為と言う理由はあるが、現状全員が協力してあの壁を壊そうとしている。

絶望を抱え生きることに無気力だった者たちが、今は『壁を壊す』と言うことに対して全力で臨んでいるのだ。

《誰だか知らないが嫌な方法でやる気を引き出そうとしてるんだろうな》

抜け殻になった人間のやる気を引き出して何をさせようとしているのかカミューですら分からない。少なくともドラゴン退治だけでこれほどの罪人を集める理由が分からない。

良くないことを考えている……そんなのは少しでも知恵があれば誰だって思いつくことだ。

《少なくとも……私たちは罪人だ》

分かっている。念を押して確認する必要もない。

でも敢えてカミューはそれを口にした。

「死んだはずの罪人が生きられる場所なんてここぐらいだよな」

壁の石が大きく動いたらしく……カミューは腰を浮かべて作業現場へと向かった。

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