作品タイトル不明
追憶 カミュー ⑧
外の気温は日々寒くなり、吐く息も白くなる。
それでも中庭で遊ぶ子供たちは元気だ。
カミューは王妃に頼まれた買い物をし屋敷へと戻って来た。
自由に外出も認められ、何かあればこのように買い物もして来る。
もう直ぐ訪れる新年で14となるカミューは、魅力的な女性へと成長していた。
背と髪も伸び胸も膨らみ、一緒に入浴する王妃が最近は『若い子は良いわよね』と視線を遠くに向けて拗ねるのが困る。勝手に育つのだから容姿の方に対する苦情は許して欲しい。
何かあれば駆け付けなければいけないから念のために中庭を眺めつつ、静々と廊下を歩いてカミューは目的の場所へと急ぐ。
今日はメイド長が外出しているので静かに過ごせるはずだ。
ただ最近のメイド長は自分を別の何かにしたがっている様子で、それを王妃が必死に抵抗するのがいつもの構図だ。
口喧嘩からクッションを投げ合って本当に仲が良く見えるけれど。
《……でも》
ずっとこのまま王妃様の元で仕えるのは難しい。
2人の王子の様子からしてまだ自分の過去が知られていないようだが、何かあって自分が暗殺しようとしたという事実を知られれば遠ざけられるのは必至だ。
そう考えればメイド長の自分を王妃様から遠ざけようと画策しているのは間違いではない。
間違いでは無いが……。
ノックをして王妃の私室に入ると、本日の王妃様はソファーに横になり少女のように本を読んでいた。
ただこちらを慌てて見つつ姿勢を正そうとしている様子は、小うるさい天敵が帰って来たのかと思ったのだろうか?
「カミュー。脅かすのは無しです」
「……王妃様」
威張り散らしたりしない王妃は優しさの化身だ。
ただ自分にも優しいので色々と問題も多く、何かあるとメイド長から叱られるカミューの身にもなって欲しい。
「頼まれた毛糸です」
「手に入ったの?」
「ええ」
ソファーから飛び降りやって来た王妃が、カミューの抱える荷を回収する。
ユニバンスでは流通を阻害するドラゴンと戦争のお陰で入手困難な羊毛を材料とする毛糸はとにかく店頭に並ばない。
それでもカミューは各店でメイド長から習った笑顔での 脅迫(おねがい) で融通して貰った。
「それで王妃様」
「何かしら?」
「それで何を編むのですか?」
簡単だとは言え王妃が編み物をしている様子を見たことが無い。
カミューの問いに王妃は物凄く輝く笑みを見せた。
「こう編んでいる姿って母親らしく見えるでしょう?」
「……そうですね」
「スィークはその格好の良さを本当に理解してくれないから」
「……でしょうね」
格好だけの為に無茶な買い物を命じられたカミューとしては、今回ばかりはメイド長の味方をしたくなった。
優しい母親像は別の機会にして貰うとして、カミューは紅茶の準備をする。
テーブルで編み物の本を読み出した王妃の前にティーカップを置きカミューは近くで待機する。
「ねえカミュー」
「はい」
「……貴女はどうしたいの?」
「どうとは?」
「将来のことかしらね」
本を膝の上に置いて真面目な顔をした王妃がカミューを見る。
「貴女ももう14になるのでしょう?」
「ええ。ただおおよそですけど」
生まれが分からない自分の年齢は自称だ。
身体的な成長からメイド長がそう設定した年齢でしかない。
「大丈夫よ。貴族の年齢なんてもっといい加減なのですからね」
「それもどうかと」
生まれた年がはっきりしているのに年齢がいい加減とは本当に酷い話だ。
「年齢は良いの。貴方だって女でしょう?」
「ええ」
「子供が欲しいとか無いの?」
「……」
子供を産むことの出来ない相手の言葉なだけに余計に胸が痛い。
内臓の大半、特に子宮などを失っている王妃は絶対に子をなすことが出来ない。
「わたしは……子供は……」
「どうして?」
「……人を殺し過ぎましたから」
本心はそれだ。
自分はこの場所に来るまでに人を殺し過ぎた。そんな自分が子供を得るなんて酷い話は無い。
幸せなんて得てはいけない。自分はこれからも1人で十分なのだから。
「子供を産めるのにそれをしないと?」
「はい」
「……私はカミューの子供をこの手で抱いてみたいわ」
クスクスと笑いラインリアは自身の本心を語る。
その言葉は決して嘘ではない。自分の娘のように優しくしてくれる彼女を幸せを願っている。
「私はどんな過去があっても人は幸せになって良いと思うの」
「でも」
「ええ。カミューの気持ちも理解出来るわ。それでも私はそう願う。願いたいの」
柔らかく微笑み椅子から立ち上がった王妃は、自分の傍に常に居てくれる『娘』を正面から抱きしめ、少し癖のある赤茶色の髪を撫でる。
「それにその理論だと兵となり国を守ってくれた人たちは、みんな家庭を作れないわ」
「ですがそれは」
「そうね。手段が違う。でも人を殺したことには変わらないわ」
「……」
その通りである。
手段で見なければ人殺しは人殺しだ。
理由など、志など、その全てを無視すればすべからく人殺しなのだ。
「どう? 少しは考えてみる気になったかしら?」
「……難しいと思います」
「どうして?」
「……わたしは男性とそう言ったことをしたいとは思わないので」
「そう? でも大丈夫よカミュー。私だって最初は怖くて尻込みしたけれど、あの人と回数を重ねていたらとても良くなったし、何よりあの人ったら私を楽しませようと色々な衣装を持って来るし。犬の衣装とかを纏ってあの人のっ」
「王妃様。その話は具体的に詳しく」
「ひいっ!」
背後から聞こえて来たメイド長の声に、カミューを抱きしめて居るラインリアが震えだす。
言葉の途中から入室して来るメイド長に気づいていたが、大変恐ろしい目つきで睨まれたのでカミューは身動きが取れなかったのだ。
「1回あの種馬王は……自分の立場を分からせる必要があるようですね」
国王に立場を教えるというメイド長がどのような立場なのか……カミューは疑問に思ったが質問することが出来なかった。
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