軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 カミュー ⑤

「あの……王妃様?」

「私の傍仕えならちゃんとした格好をしないとダメでしょう? 私は気にしないのだけど周りが煩いから。特にスィークとかスィークとかスィークとか」

「聞こえていますよ。王妃様」

少しアレンジされているがカミューが着た服はメイド服である。

普通の物とは違い動きやすさを重視したような作りでカミューとしては違和感なく着れた。唯一の不満は少しスカートの丈が短いぐらいだが、蹴り技を考えたらこっちの方が良い。

このメイド服は王妃専属の傍仕えとなった彼女にメイド長が急遽準備した物だ。

何故かサイズはピッタリだったが。

メイド服姿のカミューに満足する王妃は、非難されたメイド長の凶悪な視線に対し、軽く舌を出してお道化るだけだ。

悪びれた様子を見せないが、何よりこのメイド長を恐れないのだから凄いとも言える。

ただ今日の王妃の顔色はあまり良くない。

無理をしているのだろうと察したカミューは辺りを見渡し、メイド長が抱えて来た物を見つけた。

「置き場所などは覚えなさい。出来るわね?」

「……はい」

どうしてもこのメイド長と言う存在に逆らう気になれない。

魔法を使い殴りかかっても相手はそれを凌駕する感じがする。

本当の意味での化け物……メイド長が王国一の警護人であり暗殺者であることをカミューは知らなかった。

受け取った上着を恐る恐る王妃の肩に掛けると、彼女は優しく微笑んでくれる。

その様子を見つめているだけで、カミューは何とも言えない暖かな気持ちになった。

「さあ今日は頑張るわ」

「えっと……王妃様。何を?」

朝から漠然としたやる気を見せる王妃ラインリアは、一冊のノートを広げて羽ペンを手にした。

「日記よ。ここ数日書いて無かったからもう危ないの」

「危ない?」

「日記って毎日書かないとダメよね。数日前のことなんてすぐに忘れちゃうから」

クスクスと笑い羽ペンを滑らせる王妃の様子にカミューは言いようの無い違和感を覚えた。

でも彼女の傍仕えとなったカミューには傍から離れるという選択肢も無く、ずっと斜め後ろに立つ。

音を立てずに姿を消したメイド長などはきっと仕事をしているのだろうが、もし自分がこの場で拳を固めて王妃の後頭部を殴りでもしたら命を奪える。

その可能性があるのに離れたのは自分を試しているのだろうか?

相手の命を奪うことは出来るのかもしれない。だが自分は確実に殺される。

この場の警備は完璧だ。気配を感じさせない護衛が耐えず王妃を護っている。

《暗殺者としてのわたしはもう終わりか……》

言いようの無い気持ちを抱きながらも、カミューは何処かで安堵していた。

生きるために出来ることをして来ただけだ。出来ることが人殺しだっただけだ。

でも今はこうして王妃の傍仕えとしてメイドでは無い立ち位置に居る。護衛とも違う。しいて言うなら王妃専属の雑用係だ。

「見て見てカミュー。完璧でしょう?」

「はい王妃様」

「ダメよカミュー。何処か余所余所しいわ」

書き終えた日記帳を机の上に戻し、ラインリアはプリプリと怒りだす。

「私のことは『お母さん』と思って甘えれば良いの。さあっ!」

全力の笑みと大きく広げられた両腕。

姿を隠しているはずの護衛たちが、今にも飛び出し制止しようとしている様子が見え隠れする。

「王妃様。わたしは貴女を殺そうとした」

「ええ。でもしなかったわ」

「それは……」

妨害が入ったから。あれが無ければ、

「部屋に入って来た時に一気に襲い掛かれば貴女なら出来たでしょう?」

静かな声音にカミューは相手を見る。

両腕を広げたままで王妃は優しく笑っていた。

「でもしなかった。貴女は優しい子。そして受けた恩を決して忘れない子。だからこそ私は貴女を傍に置くの。これから私がいっぱい愛情を注ぐから……それに報い続けるのは大変よ? 貴女に出来るかしら?」

冗談めいた口調だが、ラインリアの言葉に迷いは無い。

本心からそう告げているのだと理解出来たから、カミューは自分の視界が潤んで行くのを感じた。

そっと立ち上がったラインリアは、飛び込んでこない少女を自ら抱きしめた。

「良いのよ。その齢で暗殺者だなんて……きっといっぱい苦労したのでしょうね」

背中や頭を撫でられ、カミューは食いしばり声を我慢した。

声は我慢できたが溢れる涙は止まらない。

失礼なことなど考えることも出来ず、王妃にすがり泣き続けた。

その日初めて……カミューは『母』を得た。

この人の為ならどんな無茶でも苦痛でも喜んで出来ると誓えるほどに。

「あの……王妃様?」

「あ~良いわ」

ただしその日からカミューは隙あらば王妃に掴まり抱き付かれることになる。

頬を擦り付けて来て甘えて来る相手に逆らうことも出来ずに、これでもかといっぱいの愛情表現を受け続けるのだ。

3日もするとカミューの目が死んだ魚のようになり、隠れて護衛する者たちが言いようの無い同情をするようになったと言う。

王妃ラインリアは体調が良ければ中庭に来て子供たちの相手をする。だが体調が優れない日はベッドの住人になる。特に悪いとずっと眠り続け……傍仕えなのに『暇でしょう?』と言うメイド長の指示で中庭へ行って子供たちの相手もさせられる。

メイド長が自分のことを警戒していることなど最初から分かっていた。

今の自分の気持ちを口にしても、一度暗殺を目論んだ自分を信じてくれるのは暗殺対象だった王妃ぐらいだ。

だからカミューは言葉では無く行動で自分の決意を実行する。

王妃を護る……それがカミューの全てだ。

と、中庭で子供たちの相手をしていると1人の男性が歩み寄って来た。

どこか威厳を感じる相手だが、躾をしていた男の子の尻を叩く手を止めるのもあれなので、ちゃんと10回叩いてから解放し、やって来た人物と向き合った。

「お前がカミューか?」

「はい」

「……王妃を殺そうとしたとか?」

「はい」

事実だから否定はしない。

それで殴られようが蹴られようが殺されようが、覚悟は出来ている。

静かに見つめて来る相手にカミューも正面から見つめ返す。

しばらくその時間を過ごすと、相手はフッと笑いカミューの肩を軽く叩いた。

「良き目である。『うさぎさん』と呼ばれているようだが決して臆病者では無い」

「……」

もう一度ポンと肩を叩いて来る。

「妻を頼む。彼女が笑い暮らせるようにな」

告げて背中を見て立ち去る相手が、この国の国王であることをカミューはようやく理解した。

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