軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追憶 カミュー ④

「それはボクのだっ!」

「ちがうっ! あたしのだもんっ!」

ボロボロの人形を奪い合うように幼い男女が喧嘩を始める。

この場の真の支配者であるメイド長は基本喧嘩などに口を挟まない。

男の子が女の子に手を挙げるようなら年齢など関係無く厳しい教育が始まるが、暴力を用いらない口喧嘩なら完全放置だ。ただし女の子が男の子を殴る場合も決して止めない。むしろ褒めるのだから始末に負えないが。

ただ実際喧嘩が始まればそれに便乗しての喧嘩が始まる。

人が集まれば集団が出来上がり、勢力が発生する。

メイド長はそんな勢力図を眺め、活躍する子供は成人間際になると別の場所へと連れて行く。王国専属の密偵養成所へ。

残る男子は下男や兵や商人や職人を目指し、女の子はメイドや城下に出て仕事を得たりもする。

教育の場でもあるこの場所で、カミューのとる行動は簡単だ。

輪から離れて全体を見つめる。目立たないように群れないように。

それでやり過ごして任務を実行する。のはずだったが……。

「カミュー」

「……はい。メイド長様」

「貴女が喧嘩を収めなさい」

「わたしは……はい」

ジロリと睨まれカミューは渋々承諾する。

座っていた庭の石から腰を浮かし、ため息交じりで手近な喧嘩している者を捕まえる。

男の子の同士なら頭に拳骨を落として黙らせる。男女の喧嘩なら男の子に拳骨を落とし黙らせる。女の子同士なら睨んで黙らせる。

グルッと一周して来たら……喧嘩騒ぎは沈静化した。

「これで良いでしょうか?」

「暴力を使う鎮圧は感心できません」

コキコキと首を鳴らしたメイド長が、数歩足を動かし子供たちを見る。

「次にわたくしの前で悪ふざけが過ぎるなら3日は食事抜きです」

「「はいっ」」

言葉の内容よりもバキバキと指を鳴らしているメイド長の姿に子供たちは完全に委縮した。

暴力は振るっていないが、違う意味での暴力を全力に振るうメイド長に……カミューは本気で逃げ出したくなった。

「メイド長様」

「何かしら?」

「あのご令嬢は?」

屋敷の中庭の管理を実質メイド長に押し付けられていたカミューは、綺麗な……本当に綺麗でお人形さんのような少女を見つめた。

汚れ1つないドレスに綺麗な金髪。その所作もちゃんと習っているのか様になっている。

「第二王子の婚約者候補。クロストパージュ家の令嬢です」

「……」

上級貴族のご令嬢様だった。

幸せそうなあの様子を見れば、きっと幸せいっぱいの日々を過ごしているのだろう。

自分とは違い……何不自由なく。

溢れ出る憎悪が視線に宿りつい睨んで居たせいか、少女がこちらに気づいて顔を向けて来た。

別に相手にどう思われても構わないカミューであっても、少女の泣き声は無視できない。無視すれば化け物よりも恐ろしいメイド長の説教が待って居るのだ。

諦めて少女に駆け寄り慰める。その隙にご令嬢様は姿を消していた。

《このままじゃダメだ》

贅沢とは無縁だが屋根のある場所でちゃんと生活出来る。

質素だけれど食事もあり……何より子供たちに囲まれ過ごす日々に殺気が薄まって行く。

《やるしかない》

グッと拳を握り、ゆっくりと体を起こした。

日々あの化け物に命じられ子供たちの相手をしていたら懐かれてしまった。

お蔭で寝床には幼い子供たちが集まり、その面倒を見るのが普通になっていた。そう普通だ。

音を発せずに立ち上がり、食事で使うナイフを研いだ物を握り締める。

狙う相手は分かっている。住む部屋だって分かっている。

何よりあの人に警戒心は無い。

体調が良ければ中庭に来て子供たちに絵本を読み聞かせる。

王妃にはとても見えない人だ。優しくて優しくて……『母さん』と慕う孤児たちの気持ちも良く分かる。

自分だって心が動くことがある。あの優しさに決心が鈍り続ける。

でもやらなければいけない。だって彼女は暗殺対象なのだから。

慎重に歩を進め音を立てないように王妃の私室に忍び込む。

手にしたナイフを硬く握りしめベッドに近づくと……パチッと王妃の瞼が開いた。

「おはよう。うさぎさん」

「……」

『うさぎさん』とは自分の愛称だった。

その赤黒い瞳が白兎に似ているからと孤児の誰かが言い出したのが広まったのだ。

長居する気が無かったから放置していたら共通事項になっていた。

ゆっくりと体を起こした王妃は優しく笑った。

「ご用は何? 1人で寝るのが寂しくなったのかしら?」

「……殺しに来た」

迷いはあったがカミューは正直に告げた。『自分はその為にここに来たのだ』と。

「はいどうぞ」

笑顔で両手を広げる王妃の様子は『さあ抱き付いて甘えなさい』と言いたげにすら見える。

見えるが……流石のカミューですら呆気にとられる。それは極秘に王妃の護衛をしている密偵たちもだ。

余りの言葉に護衛たちですらズッコケて姿を現した。

「あらあら……慌ただしいわね」

クスクスと笑う王妃を尻目にカミューは捕らわれた。

相手の態度と笑顔に毒気が失われ、抵抗する気が湧かなかったのだ。

このまま処刑されても良いと……何か約束を忘れている気がしたけれど、カミューはそれでも良かった。

みんなの『母さん』を傷つけるなどしたくなかった。

「あら? その子をどこに連れて行くの?」

王妃の言葉に護衛たちは足を止めた。

ベッドを降りた王妃……ラインリアは、拘束されているカミューの手首に巻かれた縄を解く。

「王妃様、何を?」

「ええ」

完全に拘束を解き、ラインリアは優しくカミューを抱きしめた。

「今日からこの子は私の傍仕えです。そう決めました」

爆弾発言を続ける王妃に……護衛隊長は頭を抱えるのであった。

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